第16話 ゴーレム


「――くそがっ!」


 アジトへの道案内をさせた山賊の頭領。そんな彼が手首を縛られたまま、大きな水晶を手にしている。


「へっ! どうせ縛り首になるんだ! お前らも道連れにしてやるぜ!」


「…………」


 山賊の頭領は、道案内を兼ねて洞窟の中に連れてきた。

 そんな彼に繋いだ縄は、私が握っていたはずで……。


 …………。


 あ、誘拐された子供たちに近づいたとき、思わず手を離してしまったのか。ついつい。うっかり。やっちゃった。


「さすがお姉様ですわ……」


 ミアに呆れられてしまった。あのミアに呆れられてしまった。いや今回は100%私が悪いんだけどね、近くにいたんだから止めてくれても良かったじゃん……。


「一番確実な『止める』方法は殺害することですが……あの男はこれから騎士団で取り調べをしなければなりませんから、なるべく生きたまま再度捕縛しなければなりません。両手を縛られていますし、魔法使いというわけではありませんから、即座に制圧しなくても危険な事態にはならないでしょう」


 山賊が逃げ出した一瞬でそこまで考えていたらしい。ちょっと荒事に関する経験値が高すぎじゃないですか? 公爵家令嬢なのに。いやアイルセル公爵家ならそれが普通なのかしら……?


 ミアの持っている剣は両刃。つまりは峰打ち = 生きたままの捕縛は難しい。ここは私がやるしかないか、と、山賊を行動不能にするため魔法を起動しようとすると――


 ――盗賊の持っていた水晶が、光り輝いた。


 魔導具が発動したとき特有の、青白い光。


 これはマズい。とりあえずみんなを集めて防御結界を展開していると……地震が起こり、洞窟の一部が崩落した。


 崩れたのは出口へと繋がる道の天井。

 幸いにして怪我人はいないし、岩は魔法でどかせばいい。そう考えた私が崩落現場を凝視していると……崩れた岩が、蠢いた。


 最初は小刻みに、だんだんと震えが大きくなった岩は、最終的に跳ねるように動き回り、それぞれが集まっていって――人の形となった。


 命なき者ゴーレムだ。


 普通のゴーレムは核となる魔石の大きさによって出来が左右され、どんなに高価な魔石を使っても人の身長を超えることは難しいはずなのに……。組み上がったゴーレムは見上げるほどの大きさであった。


 これは厄介ね。


 ただでさえゴーレムは魔法が通じにくいし、あれだけ大きいとどこに核があるか探すのも一苦労だ。最大出力の雷魔法で一気に破壊するって手もあるけれど、それだと洞窟内にいる人を巻き込んでしまう。


 いや結界を張っているから大丈夫かしら? でも最大出力で魔法を撃つと結界の方に回す魔力が弱くなるか……。たぶん大丈夫だけど、人命が掛かっているから『試しにやってみるか』というのもなぁ……。


「はははっ! ざまぁみろ! お前らなんぞゴーレムに踏みつぶされて――」


 それが山賊の最期の言葉となった。


 ゴーレムが男を踏みつぶし、洞窟内にグシャリとした嫌な音が響き渡る。


 騎士ならともかく、誘拐された子供には見せたくない光景だ。私とミアがとっさに子供たちの目を手のひらで覆ったけれど、間に合った自信はない。


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