甘
ポメラニアンになって堪るか。
この少年がわしの運命の相手なのか。
十以上も離れている少年に、甘えろとのたまうのか。
甘えなんぞ、わしには不必要。
ポメラニアンは大大大好きだが、これとそれとは話が違う。
誰が、体調不良なんぞで、ストレスなんぞで、ポメラニアンになるものか。
甘えが必要な存在になるものか。
わしは。
わしは、
その反骨精神の表れだろうか。
「俺、あなたに甘えられる事が。すっごく、嬉しいんですが。あなたに甘えられる事が、俺自身を、甘やかす事になると思うのですが。つまり、えっと。どうでしょうか?」
どこまでわしを癒すつもりなのか。
どこまでも、わしを。
(いやいやいや。いかんいかん。ボールをちらつかされたポメラニアンが如く、少年に飛びつくんじゃない!)
「わしが運命の相手であるおまえを甘やかす事はあっても、わしは、もう、おまえの優しさに甘える事はない」
自力で、なのか。
必死に戻れ戻れと念じた結果、雅也はポメラニアンから人間へと戻っては、甚兵衛から名刺を取り出して、慌てて立ち上がった
「もしも困った事があれば連絡をするように。いや。会社が終わり次第、おまえの家に挨拶をしに行く。運命の相手でも、気に喰わなければ、わしを拒否してくれて構わない。それも含めて、きちんと話そう」
「俺、あなたが、運命の相手で、よかったです、から!えと。雅也、さん!」
(これが、運命の相手の力、か。いや。それも含めて、この少年の)
渡された名刺を見て名前を呼んだ乙葉に対し、雅也はやおら背を向けると、連絡を待っていると言って、歩き出した。
乙葉は慌ててスマホを取り出して、名刺に記されている連絡先へと電話をかけた。
今はスマホを持っていないのか、バイブレーション機能にしているのか。
雅也からは電話音は聞こえず、また、スマホを取り出す仕草をしなかったが、乙葉は気落ちしなかった。
これで、雅也のスマホの履歴に自分の連絡先が残ったのだ。
今はこれでいい。
「雅也さんも、ポメガ、だったんだ。どっちも、ポメラニアン。に、なるかもしれない。のかあ」
どうしてだろう。
ポメラニアンになって、思いっきり甘やかされたかったのに。
感謝する、癒されたと、雅也に言われた時から。
ポメラニアンになった雅也を見た時から。
「………甘やかしたいって。思っちゃった。けど。雅也さん。甘やかされたくなかった。みたいだった。俺が、高校生。だから。か、な。でも。年はどうしようもないしな。うん。雅也さんとは長い付き合いになるわけだし。焦らないでゆっくりと」
頑張るぞー!!!
(2024.7.10)
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