癒し合う




(は、腹をいきなり見せるだなんて!)


 雅也まさやは甚だしい衝撃を受けた。


(ポメガバースは人間の思考を奪うのだったか?確か、人間の思考は残ったまま。いや。薄らいでいくのだったか?そう、だよ。な。こんな初対面のおっさんに人間の思考を残したまま腹を見せるだなんて、あり得ない、よな。っは!という事は、本能的に、わしを、求めて、いる?もしや。わしが。わしが、ポメラニアンが大好きだと、察したのではないか。わしならば、存分に癒してくれると。見よ、あの円らな漆黒の瞳を。わしを、信じ切っておる。わしに身を委ねようとしてくれている。くう。見知らぬ少年よ。見ず知らずのおっさんをそこまで信用してはいけない。きちんと諭さなければ。だが)


 癒されている。

 雅也は癒さなければいけないのは自分なのに、癒されていると、滂沱と涙を流した。

 情けなくて嬉しくて。

 嬉しくて。

 挫けた心が、瞬く間に、回復していった。


「きゅうん?」

「感謝する。見知らぬ少年よ。わしは。わしは、おまえに、癒された。今度は、わしの番だ。おまえを癒したい。どうすればいい?」


 顔を上げて雅也を見つめていた乙葉おとはは顔を下げると、やおら胴体の上で曲げていた手足を地面へと下ろした。

 大の字になったのだ。

 どうしてか、力が抜けてしまったのだ。

 自分が雅也を癒せた事が、とても、嬉しくて。











(2024.7.9)



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