第3話



「朔――――……オレさ、さっき、願掛けしたの」

「……? 何を?」


「すげー恥ずかしい願掛けだけどさ」

「……? うん?」


「さっき、朔にキスした時間さ」

「……う……う、ん?」

 

 キスという言葉に、ただただ真っ赤になりながら、魁星を見上げると。


「7月7日の7時7分……多分7秒くらい、だから」

「――――……」


「叶う気するだろ、この願い」

「……何それ」


 何だか、楽しそうな魁星の笑顔に、自然と笑ってしまう。


「皆がすげえ可愛くていいなっていう女の子に告られても……頭ん中、朔しか居なくてさ。どうしようかなって思ってたんだけど……」

「――――……」


「あの短冊見たら。……もう、朔にあげるしか、ないだろ、オレのこと」


 クスクス笑う魁星を、何だか信じられない気持ちで、見上げる。


「……くれる、の?」

「……つか、貰って」


 思わず、聞いたら魁星は、ふ、と笑って、そう言った。


「……それって……七夕の、今日だけ、じゃなくて?」

「何それ? どーいう意味?」


 魁星が、不思議そうに聞いてくる。


「一年に一日だけでもいいから恋人になりたいって……思ってたんだ」

「……何だよ、それ」


 笑う魁星にぎゅ、と抱き締められてしまう。


「今日だけじゃなくて、ずっと、貰ってよ」

「――――……」


「……いい? 朔」

「っ……うん」


 コクコクコクコク、頷いてると、魁星が、頷きすぎ、と笑う。



「朔のことも、オレにちょーだい?」

「……うん」


 コクコクコクコク。めちゃくちゃ頷くと。

 笑う魁星に、抱き締められて。その背中の服を、握り締める。



「――――……っ」


 信じられないけど、この温もりは、夢じゃないみたいだ。


 ぎゅー、と抱き付いて、目をつむる。




 ありがとう、彦星と織姫。七夕伝説作ってくれて。

 ……スーパーの店長さん、あそこに短冊置いてくれて。

 ……沙也、オレに書けって。飾ってって、言ってくれて。

 いや、もう、母さん、福神漬け買って来いって言ってくれて、ありがとう。



 ……心の中、よく分からない感謝でいっぱいになりながらしがみついていたら。

 魁星が少し、オレを離して、オレの頬に、触れた。



「――――……オレと同じ意味で、オレの事、好きでいてくれてるかなぁとは、期待は、してたんだけど、確信が無くてさ……」

「――――……」


「……ありがと、ほしいとか、書いてくれて」



 かあっと、また顔が熱くなる。

 もはや……真っ赤だと思う、オレ。


 何て恥ずかしい願い事、書いたんだ。

 それを本人に見られるなんて。


 ――――……むしろ、そこのところは、夢であってほしい気分。



「……朔、好きだよ」


 頬に触れた手に、少しだけ上向かされて。

 ――――……魁星の整った顔が近づいてきて、唇が触れる。



「――――……」



 ぎゅ、とまた、魁星の服を握り締めた。





 ――――……やっぱり夢じゃなくて、いい。





 ありがと、七夕。

 ――――……オレに、魁星を、くれて。



 やっぱり、一年に一回なんて耐えられないから。

 ……オレは、毎日、会わせてもらっちゃうけど。ごめんね。



 なんて、彦星と織姫に、よく分からない謝罪をしながら。

 すっぽり、魁星の腕の中に埋まった。







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