「短冊に秘めた願い事」BL

悠里

第1話



 空を見上げるけど、星は見えない。曇り空。

 この雲の向こうで、彦星と織姫が会ってる……なんて、別に信じてはいないけど。


 今日、学校で皆が話してた。

 一年に一回しか会えないなら、それ以外の時は絶対浮気してるよなーとか。

 もうとっくに別れてんじゃねーの、とか。


 オレ、西田 朔にしだ さくがその時考えてたのは。


 ……いいなあ、一年に一日でも、好きな人と、恋人になれるなら。 

 残りの日はずっと、その一日を楽しみに生きるのに。……ってこと。


 高二にもなってそんな事言ったら、絶対笑われるのはなんとなく分かったから言わなかったけど。

 オレには、それ位、好きな人が居る。


 小さい頃からずっと一緒の、幼馴染の南 魁星みなみ かいせい


 ……でも魁星は、今日は、多分、デート中。

 昨日告白された超可愛い子に、今日返事するって、放課後教室を出て行った。皆は、きっとそのまま七夕デートだって言って、羨ましがってた。

 いつもは一緒に帰るけど、今日は、返事をしに行った魁星を置いて、さっさと帰ってきた。


 ……いいなあ。


 一晩でもいいから。魁星と、恋人として過ごせたら、死んでもいいな。

 あ、でもちょっと欲を言うなら、死なずに、七夕みたいに、一年に一回でも恋人になれたら……。って、馬鹿だな―オレ。そんな訳ないのに。


 ……魁星、まだデート中、かなあ……。

 もしかして、七夕で盛り上がって、キスとか。しちゃうのかなあ……。


 じわ、と涙が滲んだ。

 うう。こんな曇り空見上げて泣いてるとか、女々しすぎる………。


 はー、とため息をついた瞬間。

 前触れもなく、がちゃ、とドアが開いた。振り返ると、魁星。


「え?」

「――――……」

「か……魁星??」


 魁星はオレの顔をじっと見てから、ドアから下に向けて声を張った。


「おばさーん、オレ、やっぱりお茶とかいらないー」


 魁星の言葉に、一階に居るオレの母さんは、はーいと返事をしている。それを聞くと、魁星は、オレの部屋のドアを閉めた。


 オレは、魁星が母さんに向かって話してる間に、ごし、と涙をぬぐっていたけれど。……今は出来れば、来てほしくなかったなと思う。


 幼馴染ってのはもう完全に顔パスで、オレに確認もなく、家族は魁星をオレの部屋に通す。まあ……いつもの事だけど。


「魁星、どしたの?」

「朔、今日何で先帰ったんだ?」

「何でって……」


 ――――……魁星、デートだったんじゃないの。


 少し近づいてきた魁星を見上げると。


「……朔、目、赤い」

「あ……うん。ちょっと、ゴミ、入って。それよりどうしたの?」


 言いながら、時間を見ると、19時過ぎたとこ。

 平日のこんな時間に、何だろ??

 

「ん……」


 魁星は、くすっと笑って、オレを見つめる。


 ああもう……。カッコいいなあ。ほんと。

 優しくて、一緒に居て一番楽しくて。……困る、好きすぎて。


「……何か急用?」


 いつも通り、ドキドキしながら、平静を装って聞いたら。

 魁星がオレに近付いてきて、オレが開けていた窓を閉めて、カーテンも閉めた。


「……魁星?」


 時計を見てた魁星は、ふ、と笑って、オレの腕を掴んだ。


「え?」


 不意に顔が近づいてきて。

 唇が。――――……オレの、唇に、触れた。


 ような、気がする。



「――――…………」


 少しだけ触れて、離れる。



「――――……え……?」


 ――――……何? 今の。


 …………キスというものでは……? え? 違う? 


 ……あれ。やっぱりキス???

 ……何で?


「穴あくけど、オレ」


 呆然と見つめているオレに、魁星がちょっと照れたように笑った。

 そんな珍しい笑い方。……あんまり、見ない。


 オレが呆然と、魁星を見つめていると。

 

「……朔がオレを欲しいって言うから。あげにきた」


 全く意味の分からない言葉が、飛んできた。


「え――――……なに、それ……どういう……魁星、今日、デートは……?」


 そう言ったら、魁星は少し眉を寄せて、首を振った。


「デートじゃないし。断ってきただけ」

「……っ……??」


「……そう思ってたから、先に帰ったのか」


 魁星は苦笑いしながら、オレを見下ろして、オレの頬に触れた。


「そんで、泣いてたの?」

「…………っ」


 完全にバレてるけど。とりあえず首を振る。


「……が……学校一可愛いって言われてる子、って、皆、言ってたよ……?」


 そう言うと、魁星は、ふー、と息をついた。


「まあ、確かに顔は可愛かったけど。別に可愛いから好きになる訳じゃないだろ?」

「――――……」


 じゃあ魁星は、何で、好きになるんだ?

 オレが、首を傾げて、魁星を見上げた時。



「オレは、もうずっと、朔が好きだから」

「――――……」



 ……なんか、もう意味が分からない。

 でも、まっすぐな瞳と、笑った顔が大好きで。


 どんな意味でも、嬉しい。と思った瞬間。

 勝手に、涙が、ぽた、と零れ落ちた。


「うわー……朔、泣くなよ」


 苦笑いの魁星に、ぎゅ、と抱き締められる。



 すっぽり包まれて、ぎゅ、と目を閉じる。


 

 

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