絡まる


 通り魔のようにして暴力を振るう外国人の男。

 その男を追う組織は少なくない。

 シマを荒らされ、未だ捉えることが叶わない。

 そんな状況が続いていた。


 そして、その男を狙うのは異能組織だけではなかった。

 異能対策治安維持組織。

 通称「治安組織」、または「治安維持組織」

 彼らもまた、その行方を追っていた。

 治安悪化に加担するその存在は治安維持組織にとっても見過ごすことの出来る存在ではなかった。


 すでに男の脅威は、中小異能組織の構成員との戦闘によって明示されており、異能犯罪であるとされている。

 仮にも治安維持組織から逃れることの出来る者たちを単独で屠ることが可能であるとすれば、すでに警察では手に負えないと判断されていた。

 それに加え、未だ交戦における明確な異能使用のデータはなく、内包する力は底知れなかった。


 故に、現在組織内では、最優先事項として挙げられていた。

 

 異能組織内では、「無異」と仮称され、治安維持組織もそれに乗っ取り「無異」の呼称を採用していた。

 異能を使わずして、相手を駆逐する。

 故に「無異」と。


 そして、現在様々な証拠を元にしっぽを掴もうと治安維持組織が躍起になって、協力者であると容疑を掛けた存在が御野間リオと言う人物であった。


「…………」


 そしてそれを知らされた篠塚舞は葛藤していた。


 彼女の身分は、学生。

 ただ、それと同時に治安維持組織から与えられたのは、「異能特査」と言う地位だった。

 治安維持組織に存在する制度によるその地位は、異能に優れた協力者に与えられるものだった。


 治安維持組織が最も不安定であると、世間から言われる要因であるこの制度は、異能と言う特異な要素によってなされていた。

 原則として治安維持組織というのは、通常の訓練を受けることはもちろんであるのだが、大前提として強力な異能を保有していることが求められる。

 それ故に、所属するものは数多くの関門を突破してきたものだけであると言える。


 ただ、そんな一握りの猛者たちをただの学生が凌駕し得れてしまうものが異能なのだ。

 そんな異能を持つ者は、治安維持組織から秘密裏に勧誘を受けることも珍しくない。

 そして、「異能特査」という特別な地位が与えられて、任務をこなすことになる。


 普段は学校に通い、おしゃれ好きなだけの金の髪を揺らす少女、篠塚舞もその一人だった。


 故に、知り合いであろうとも、異能犯罪者の協力者である容疑を掛けられた少女に対してその任を実行しなければならなかった。

 葛藤に押しつぶされそうになりながらも、必死に頭をまわしているとき、不意に声が掛けられる。


「篠塚さん。大丈夫?」

「っ!?……リオちゃん」


 視線を下げれば、青い瞳がのぞき込んでいた。

 葛藤の原因である当の本人が、顔を見せたことでその動揺はすさまじい。

 あるいは協力者である可能性を考慮した無意識化の危機感か。

 咄嗟に名前を呼ぶもそれ以降が続かない。


 そんな様子を見たからか、更に心配そうな表情を深めるその顔は言葉を紡ぐ。


「えっと、電話。時間が掛かってたみたいだから、気になって。なんだか、ボーっとしてたみたいだったから」


 何故かいいわけでもするかのようにして、歯切れ悪く彼女はしゃべる。

 そんな様子に思わずく、すっと笑ってしまった。


「え?なんか変なこと言った?」

「ううん。態々呼びに来てくれたのが嬉しくて。さ、もどろ」


 理解が追い付かず、わたわたと動くその手を取って部屋へと足を進める。


 少し冷静になった頭は結論を導き出した。

 何も、協力者であるとは決まってないのだ。

 未だ容疑の段階で、状況証拠による疑惑だ。


 思い返してみれば、「彼女のことを信じ、その疑いを晴らしたいなら尚のこと奴から目を離すな」と言ったのは、他でもない電話口の向こうの男だ。

 それならば、たまには彼の言葉に素直に従ってみよう。

 そう思ったのだ。






 ◆


 篠塚さんが電話に出てしばらく。

 当たり前と言えば当たり前の話で、一人人員が抜けた空間においては人手が足りなく。

 暫くしても戻ってこなかったことに疑問を覚えた俺は彼女を呼びに行った。


 家の中で何かが起こるとも考えられないが、倒れているなんてことがあれば大変だと思ったのだ。

 実際、それは杞憂だったようで彼女はその二本の脚で立っていたのだが。

 ただ、気になることは一人その場に立ち尽くしていたことではあるものの、考え事をしていただけだろうと結論をだした。


 そして、そんなこんなで勉強を再開した俺ではあったが、少々の気がかりがあった。

 勉強が出来ないことかと言われれば、首を縦に振らざるを得ないが、そうではなく……

 俺が先ほどから気になっているのは、こちらに戻ってから注ぎ続けられる篠塚さんの視線だった。


 一挙手一投足を見逃すまいとこちらを見ているようにも感じるほどの眼光に俺は体をかくつかせる。


「あ、あの。ちょっと気になるんだけど」


 ついにたまらず声に出す。

 そうしてみるも、彼女は首を傾げた。

 ただ、それに対して横で見ていたツムギちゃんが補足した。


「篠塚さん。視線」

「え?……あー。見過ぎだった?」


 自分も今気づいたかと言いたそうな顔をした彼女はそんなことを言った。


「いやってわけじゃないけど、なんだか気になって」


 俺はそう口を開いた。

 実際、嫌ではないのだ。

 篠塚さんはとてもきれいだし、見られていて嫌だと思うことはない。

 ただ、綺麗だからこそ緊張する。

 そんなに見られては、勉強にも集中ができない。


「ごめんね。可愛くてつい~」


 そんなことを言う彼女だが、なんだかぎこちない。

 先ほどから様子も変だし、疲れているのだろうか。


「別に謝るほどのことじゃないよ。本当に気になっただけだし。ツムギちゃんなんてもっとこっち見てるしね」


 申し訳なさそうな顔をするのでそう言って見る。

 慣れなくてつい緊張してしまったが、ツムギちゃんと比べればそう大したこともない。


「気付いてないから大丈夫とか言ってたけど、気付かれてるじゃん」

「うるさい」


 隣でネッカちゃんがボソッと何かをいってツムギちゃんが反応していたが聞き取れなかった。

 





 ◆


 大録會。

 六大同盟を組む六つの組織の内の一つに位置し、オオロクと言う男が長をする組織。

 彼はクッションの効いた椅子に座り、だらけるようにして上げていた顎を引いた。

 そして口を開いた。


「なんの用だ。ザンマ」


 声を掛けた先にいるのは、汚い金髪の男、ザンマだった。

 部屋の隅に控えるオオロクの部下たちににらまれながら、彼は口を開く。


「先日の件で謝りに来ました。本当なら、そう言いたいところなんですが……」


 ザンマは言葉を濁す。

 先日の件が指すのは、4月27日に起こった異能倶楽部と陽炎との抗争、それにかこつけた異能倶楽部ボスのルカへの奇襲の事だろう。

 異能倶楽部は大録會と同じ六大組織である。

 故に、大録會の下についていた彼の組織は、オオロクの顔に泥を塗ったのも同然であった。

 しかし、そのことではないと彼は言う。

 いや、それが出来ない理由があるのか。


 そして、彼は続けた。


「ボスが……いや、ウチの組織の主要構成員がすべて殺されました」

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