第32話 落とし所

 夕食の食事前に始まった話合いはヒートアップしていたが、我関せずのアキナは目の前の食事しか見えていなかった。

 それでもアキナは、当主のノーマンの許可がないと皆が食べてはいけない事は知っている。

 知ってはいるが、お腹が空いて今にも倒れそうだ。

「アキナさん~アキナさん!」

 キャロットが私の名前を呼んでいるのに気が付いた。

「あっ!御免なさい~違う事を考えていて~どうしたの?」

 キャロットの言葉が、私を遠くの世界から現実に戻してくれた。

「ノーマン様が尋ねていますよ!」

 やばっ!何も聞いていなかった!

「アキナ様~お願いできますか?」

「はい~えっと~もう一度確認してもいいですか?」

 ここは誤魔化す!

「そうですか~このお願いはアキナ様には大変失礼だったかもしれませんね。」

 ノーマンの言葉に他の面々の表情が変わったが、ノーマンはどうしてもアキナの承諾が欲しかった。

「わかりました~冒険者ギルドの依頼はアキナ様が気が向いた時で構いません。こちらの工房も今まで通りご自由に使用して構いませんが、先ほども申し上げた様に3日後に王都から届くポーションの材料だけは何卒アキナ様に手伝って頂きたいのですが、それもダメでしょうか?」

 私、何か断ったのかしら?

 ノーマンの悲痛な表情が目に映ったが、他の面々からは怒りの視線を感じた。

「それは大丈夫ですよ~キャロットのお手伝いをすればいいんでしょ!」

 何をすればいいのかかわからないけど、キャロットのお手伝いなら大歓迎よ!

「そうですか~そうですか~アキナ様有難うございます。」

 私の一言で、難しい表情をしていたノーマンが嬉しそうな声に変わった。

「今日はよい話ができた。それでは食事をしよう!」

 ノーマンの一言で、やっと食事が出来る。

 なぜ食事前に難しい話しをするのかしら?内容はわからなかったけどもっと早く話を終わらせて欲しかったわ。

 話が進まなかった原因が、自分に有ることには全く気付いていないアキナだった。


 我慢した分だけ今日の食事は美味しい!いつもよりお腹の中に入るパンの数が多かったけど、誰も気付いていないわね。

 お腹が満たされると次は性欲ね、勝也に会いたくなったわ♡

「ご馳走さまでした。今日は疲れましたのでお先に失礼します。」

 食後のお茶を飲ん一息入れてる人達に声を掛け、ノーマンの退出許可を貰ってから食堂を後にした。

 一目散に勝也がいる厩舎に向かい、寝そべっている勝也のお腹に飛び込む。

「ふっ~お腹がいっぱい!勝也も食事済んだ?」

 アキナは勝也のモフモフの毛に体を埋めると、心の性欲が満たされてゆく感じがと

ても心地よかった。


 アキナが食堂を退出すると、さっきまで静かで落ち着いた雰囲気がガラット変わった。

 一番最初に声を荒げたのは年長のヨーデルだった。

「さっきのアキナさんの態度は何なんですか!・・・ノーマン様の依頼を断るとは!失礼にもほどがある。」

「ヨーデル!言葉に気お付けなさい。」

 ギルドからの魔物討伐・商会への雇用も難色を示した以上無理強いは出来ない。

 彼女の機嫌を損ねれば、この町を出ていくかも知れない。

 聖女と神獣フェンリルの存在が居なくなると、私とバッカスの願いが叶わなくなる。

「ノーマン様が、ここまで気お使う理由がわかりません!」

「ヨーデルのいう事も分かっている・・が・・ここは私の指示に従ってはくれないか。」

 ノーマンは皆に向かって頭を下げる。

「ノーマン様!頭を上げてください。申し訳ありませんでした。ノーマン様の指示に従います。」

 ヨーデツの謝罪に皆が頭を下げた。

「それにしてもアキナさんの魔力はどうなっているんですかね?」

 フラットが工房での作業を思い出したように話した。

「アキナ様の魔力を見たのなら、私に話しておくれ。」

「ノーマン様はアキナさんの魔力を知らないんですか?」

 フラットの問い掛けに、ヨーデルも疑問に感じた。

 魔法が使えない!魔力量も分からない得体の知らないアキナを、ここまで大事に扱う理由はなんだろう。彼女に特別な理由があるのか?又はフェンリルを恐れているのかどちらも考えられるが、今は詮索は止めておこう!

「一緒にポーション瓶を作成したのですが、我々が1回作る時間で・・その・・5倍の量を作りました。」

「5倍!」

 ノーマンは驚いていた。

「その前に中窯3個のポーション液を作っていたのに、全く疲れていないんです。」

 フラットの話しを聞いて、女性錬金術師のメリーサとナンシーが同時に声を出した。

「作り置きの材料が無くなっていたのは其のせいね!」

 キャロットは心の中でひたすら謝っていた。

「キャロット!アキナ様が1人で作ったのは間違いないのか?」

「はい間違いありません!私は作り方を教えただけです。」

「アキナ様が作ったポーションはどうした?」

「アキナさんが作った劣化防止の小瓶に初級回復ポーション液80本、初級毒消しポーション液20本詰めて工房に保管しております。」

「俺からも報告させてくれ!」

 ミリアの横に居た護衛のアンダーソンが話に入って来た。

「アキナ殿が作った初級回復ポーションの検証結果だが、とんでもない報告を受けている。」

「とんでもない結果とは?」

 ノーマンの目は輝いたままだ。

「普通のポーションの1.5倍の回復量だとさ~それに苦くなく非常に飲みやすく美味しいとの事だ。」

 その場にいた全員が、アンダーソンの言葉に唖然としていた。

「彼女の作ったポーションはお店では販売出来ないわ!」

 ミリヤの言葉に、またもやキャロットは心の中で謝っていた。


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