第1話 緑の瞳と髪を抱く森の女神
シチリア島で
シチリア島にありがちな白い建築物ではなく、茶色の
自分達は
13年前、謎の超
未だ深い
お家の名称が示す通り、フォレスタ家は代々その森の守り手として存在してきた。よって荒れ果てた森へ植樹し、復興活動に
コンコンッ
「………ファウナ様、入りますよ」
中低音の効いた女性の声がファウナという、この家の一人娘の部屋の扉をノックする。入室してきたのはラディアンヌというファウナの御付きだ。
ボブカットの金髪で大きなエメラルドグリーンの瞳。女性にしては背丈が高い。それに服装が特徴的で、まるで東洋の胴着の様だ。
白がベースで緑色の肩口と袖口、腹を絞める帯が緑だ。西洋に似つかわしくない
処でこの
床の板の間は
この部屋で一番悪目立ちしているのが天井まで届いている本棚である。飾り棚も皆無であり、一度を抜いたら
加えて
さてラディアンヌが入って来ても、部屋主のファウナは
絵師がキャンバスにファウナをモデルにした絵画を描いてる中途であった。
「ふぅ……ファウナ様。まぁた
呆れたラディアンヌが溜息を一つ。ラディアンヌ、
「ラディアンヌ……いつか貴女にも、この本の価値を判る日が必ず訪れるわ」
毎度のやり取り、ファウナが顔色一つ変えず、そんな言葉を口にする。
ガチャッ。
次にノックはおろか、声掛けすら無しで身勝手な来客がやって来た。
「………オルティスタ、貴女って人はもぅ」
これに立腹したのは
「同じ女が部屋に入るだけで何が悪い? 第一
ラディアンヌの顔を悠々と払い除けヅカヅカと部屋に押し入る。おまけに
オルティスタ、彼女もラディアンヌと同じファウナの身辺警護が役割の女剣士だ。背の高いラディアンヌよりさらに高い上、控え目だがヒールすら履いている。
ラディアンヌより数年先で、この家に仕えている言わば姉貴分な訳だが、見た目すらよく似通っており、まるで本当の姉妹の様だ。
少しグレーの混じる金髪を肩で散らしている。やはり鮮やかな緑色の瞳。加えて羽織っているモノすら東洋風だ。ラディアンヌの胴着よりも緑の面積が多い。
腰に二刀を差している辺りがラディアンヌとの大きな差だろう。長めの丸刀がメインらしい。
それの半分の長さといった感じの
彼女達の主であるファウナ。背も高めで長い金髪とシチリアの蒼き海を
そんな彼女ですら、この姉貴肌二人の間に入ると、
戦うには少々邪魔ではなかろうか? 邪推な心配をしたくなる程、両者共に大層
今日も今日とて警備と称し、ファウナの部屋で入り浸っている二人の御付き。
ラディアンヌ24歳、オルティスタ25歳。ファウナは未だ17歳だ。けれどもこの三人、主従関係と歳の差も超えた
「ファウナ様………私いつもこの絵を見て思うのです。何故髪色も瞳ですらも
───そうなのだ。
ラディアンヌの疑問はもっともである。自分の書く本の
ラディアンヌにしてみれば、もう自分の部屋に飾りたい程、ファウナという娘は大層可愛いのだ。
特にその吸い込まれそうな蒼き瞳と、叶うものなら永遠に愛でていたい長き金髪。何故それを捨て置くのか理解に苦しむ。
「それは良い質問よラディアンヌ。私はね、やがてこの魔導書と共に森を守護する女神になるの」
何度も語るがファウナは絵のモデルになっている真っ最中だ。よって身体を動かす気はない。だけどその声音が大いに
教師が生徒へ論ずるかの如く、己は女神と化すことを堂々と言ってのける。
「は、はぁ………」
「森と言ったら緑色でしょ? 森の女神様なのに髪の毛は金髪で、青色の瞳じゃまるで格好がつかないじゃない?」
理由を聴いてもやはり解せないラディアンヌである。本来の見た目こそ女神に値すると感じているのだ。納得出来る道理がない。
陽が沈みゆこうとしている、森の夜は早めに訪れる。近隣の住居が少ないことも重なり、夜になるとこの家は暗闇の中へと沈む。
「………鳥達が……暴れている?」
聴覚なのか、
「なんだなんだ、また見知らぬ
オルティスタが面倒そうな顔をしつつも刀の柄に手を伸ばす。ファウナが16に成った辺りから
貴族の御令嬢でかつ大層な美女とくれば、野良犬の如く鼻の利く連中が、湧き出して来るのも止むを得ない。
もっとも悪い虫なぞ、この二人の手にかかれば、あっと言う間に
「………違う、人らしいけど刺す様な感覚が痛い」
普段物事に動じないファウナが両腕を組み、曇った顔色で
その様子にラディアンヌとオルティスタも
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます