🧚‍♀️カクヨムコン10応募作品・マーダ『森の護り人・ファウナ』-ローダ第零章-

🗡🐺狼駄@ただ今ファウナ絶好調!

《プロローグ》 憧れた黒髪を結いし女性との邂逅

 ──西暦2140年。イタリア西南の地中海に浮かぶシチリア。


 漆黒しっこくの宇宙に浮かぶ青き星オアシス……地球。人類の文明はさらなる進化の一途いっとを辿るかにみえた。


 特に人工知能。AIが人の代わりにあらゆる分野で活躍し、る意味創造した人間自身が研鑽けんさんを忘れ、崩れ往くより他はなかった。


 しかも結局人々は地球温暖化を止める処か、自分達の栄華えいがを極めることだけに突き進み、むしろ荒廃は、その加速度を増してゆく。


 ──格差。


 一部の富裕層達は、そんな地球ですら生きられる医療にすがり生き長らえている。

 そういう違った意味での連中だけが、この星でしがみつく様にしていた。


 西暦という言葉。最早ただの記号と化し、失墜しっついという奈落の底へ転がるのを止められる者は皆無……そんな世界線のシチリアで事件は起こる。


「フハハハハハッ!! 見るが良いこの様をっ!! これが人であるこの俺一人が起こした奇跡よっ! なんと美しきことか」


 シチリアの火山よりも上空へ上がった金髪の男が地上の楽園地獄絵を見ながら、独りえつひたっている。


 火山の噴火すらしのぐ超巨大爆発を起こした自身の力………。核ミサイルすら届かないであろう異常なる力の発現はつげん


 恐らくこの火山は永遠に失われ、シチリア島の形そのものすら、変えてしまうことだろう。


「──クッ! な、何て馬鹿な真似を!」


 そこで声高らかに笑うあのを創るきっかけになったのは己自身だ。強大な能力を得た配下を、配下のままで留めておくことが出来なった。


 自分も宙で静止しつつ、己の無力を大いにくやみ、その美しき顔を憤怒ふんぬの形相でゆがませる。


「こんなことをしたかった、させたかった訳では決してないっ!」


 細見の剣を引き抜いて、その愚かの権化ごんげへ飛び込む女。踊り子の如く、その身をひるがえしながら剣を打ち込む。


 その編み込まれた長い長い黒髪と、腕に巻き付く帯状の無駄としてなら目を見張る程に流麗りゅうれいであるが、戦いには無用の長物。


 この女性の本質は踊り子の方であり、恐らく剣の方はに過ぎぬのであろう。


 緑の瞳が閃光せんこうりて、黒煙の空に映え渡る。だが残念なくらい軽い太刀筋たちすじ悠々ゆうゆうと金髪の男の剣にはばまれ火花が散る。 


「こんなことをさせたくなかった? 何を言っているのかまるで判らんっ! これは貴様が俺に与えし力だろうにっ!」


「グッ!?」


 斬り結び、さらに軽々と弾かれてしまう女の剣。刃を伝わる痛み振動に柄を握るのがやっとであった。


「アーハッハッハッ!! 貴様が俺をこんな風に仕立てたっ! だからと言ってお前に従う義理なぞないわッ! とて同じであろうっ!」


 男が情け容赦なくその剣を幾度いくどとなく叩き込んでゆく。その度に黒髪の女が痛みで顔を歪ませる。


 向かっていっておきながら、身を守るのが精一杯だと思い知らされる。


「──この辺りには俺をあがめる神殿を建てて進ぜよう。この太陽すら凌ぐ赤い火、まるで死してなお火に飛び込む不死鳥のようではないか。クククッ……」


 戦いの最中に在りながら、なおも地上の様子に酔いしれる金髪の男。ビンテージワインをグラスの中で転がす様な異常たるその思考。


 人の欲望にまみれた塊がこの男の本質サガだ。それを歯軋はぎしりしつつにらむ己も同様かと思うと、この身を引き裂いてしまいたいとさえ感じる。


「──ムッ? 何だあの娘は?」


 そんな地獄絵図から広がりゆく森林火災の最中に、年端としはもいかない少女を見つけた。


 ──一体何を悠長のんびりしている!? あっという間に火達磨ひだるまと化すぞ!


 大焦熱地獄よりも苛烈かれつだと思えるこの状況を、まるで荘厳そうごんなる舞台でも観覧してるか様にゆっくりと見物していた。


「ええいッ! 放ってなどおけるかッ!」


 黒髪を結った女が男を捨て置き、少女へと向かい空を駆ける。人がこれ程まで空を飛べるのか。空気を切り裂く音すら聞こえる。


 普段なら老若男女関係なく、己の自由としているのに、何故こうもこだわるのか? 理屈ではなく身体が勝手に反応した。


「わわっ!? ぶっ!?」


 一気に迫り来る女性に片腕で拾い上げられ、顔を胸へと押し付けられた少女。金髪と蒼き瞳が女の胸に埋もれてゆく。


「馬鹿か貴様ッ! そこで一体何をしていた!」


 勝手に救出した女が、またも身勝手な質問を容赦なく浴びせ掛ける。この問い掛けに少女は、胸の奥底にて小さな口をモゴモゴさせつつ幼き本音を此処に吐露とろする。


「……き、だったから。も、それにも」


「は、はぁっ!?」


 ──不覚。


 ただの幼子に綺麗とほめめられたが思わず顔を朱色に染める。それは彼女に取ってどうでも良かった筈の感情が浮上した瞬間と成る。


 綺麗…。そんなうつろな褒め言葉でまどわされる自分に、驚きと苛立いらだちを隠せなかった。


 それは同時にこの幼子が、このへ、どうしようもない憧憬どうけいを抱いた瞬間でもあった。


 独りの女と幼き少女。二人の人生の歯車を大いに狂わせたこの出来事。


 シチリアという島の形状が変化する事件とは、比較する気にもなれぬ程の些細ささいなること。


 よもや世界を歪ませる物語の1ページになろうとは……。当人達すら気が付かなかった。

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