第038話 ペースを合わせて
日高の誕生日パーティーは春野・俺の誕生日のときと同じファミレスで行われることになった。
「凛華、こっちこっち」
「うん」
座席の中央に案内され座った日高が春野を隣に促す。
「黒山はこっちね」
「ん? ああ」
次に日高が俺を春野の真向かいの席へ誘導した。
理由は何だろうと思ったが、また日高が俺と春野をくっつけようとする算段なのかと思い当たった。
いや考えすぎか? まあ席次なんてこの際どうでもいいか。
いつの間にか他の席も残りの女子達が埋め、六人掛けのテーブル席は春野・日高・安達の列と俺・葵・加賀見の列で座ることになった。
なお、今回奄美先輩は別の御友人と遊ぶため欠席とのこと。
ファミレスへの道すがらその事情を聞いたとき、
「葵は他のお友達と遊ぶ予定はなかったのか?」
と葵に確認したのだが、
「私ですか? そういう予定はきちんと調整してますから問題ないですよ」
とのこと。
「抜け目のないことで」
「いつ胡星先輩と遊びに行くことになるかわかりませんしね」
「あり得ないことは心配しないでいいぞ」
「この前ウチに遊びに来たことをもうお忘れですか?」
そう言えばそうだったね。何か遠い過去のように思えるよ。
で、その後に
「え、葵ちゃんの家へ遊びに行ってたの?」
「初耳」
春野・加賀見が家に来たくだりへ反応してきたのだ。
日高・安達も無言ながら俺と葵の方を見てきて、一身に注目を集めることになった。
「葵のテスト勉強を見ることになったって話はしただろ。その場所が奄美家だったんだ」
「ああ。勉強の話は覚えてるけど」
「どこでやるとまでは聞いてなかった」
「どこでやると思ってたんだよ」
「図書館とかいつも使っているっていう空き教室とか」
ああ、コイツらからすればその線もあったか。
「別に場所とか詳しく言うこともないと思ってたんだが」
「勉強せずに遊んでたの?」
「勉強はやった。少し休憩を取ってて、その休憩の間にトランプとかやったな」
「へー……」
女子四人の歩みが少し遅くなった。
「あ、あはは、それよりそろそろ目的地じゃないですか?」
「まだ見えてもないぞ」
葵が何かをごまかすように笑いながら、目的地のファミレスへと俺達の意識を持っていこうとしていた。
以上、ファミレスでの道中の話でした。
ちなみに日高・春野も安達・加賀見・俺以外の友達は当然ながら存在する。
俺達とはかち合うことはないが、日高・春野は時折その友達のいる教室へ遊びに行っている。
では本日の誕生日はどうかというと
「あの子らからは学校とか家でもう祝ってもらったからねー」
「うん、気にしなくて大丈夫だよ!」
という具合だ。
春野の誕生日のときもきっと同じ調子で祝ってもらってたんだろうな。
さて、日高へのプレゼントにあたり
「あ、黒山君、こっち持って」
「何?」
「二人で渡そうかなーって思ってさ」
春野がプレゼントの箱の端を持ちながら俺に協力を要請してきた。
「へー、面白そうじゃん」
ニヤニヤする日高を見て、仕込みだなと確信した。
「……どうしたのリン」
「……どうしたのリンちゃん」
「……どうしたんですか春野先輩」
加賀見・安達・葵は目の前の事態にただただ疑問をぶつけた。もちろん春野に。
どうやらこの場の全員がグルだったわけでなく、日高・春野の二人だけで仕組んだようだ。
春野のプレゼントを持つ手が少し震えていた。
「えーと、別にどうもしてないよ」
「いつもと違う趣向をってことでアドリブ利かしたんでしょー?」
日高が春野のフォローに回る。
俺はお前ら二人が最初からそうする予定だったと睨んでるが。何せ植物園の前科があるし。
「そ、そーそー、そんな感じ」
「……ふーん」
「まあ、いっか」
日高の言葉に対して春野は便乗し、加賀見は感動詞で済ませ、安達は元から大して興味がなかったように振る舞った。
「……」
葵だけ一言も発さず、真顔にはめ込まれた黒い水晶のような眼を春野にじっと向けていた。
「で、どうかな黒山君」
春野はさしあたって俺に確認してきた。ここで断ってもまたややこしくなるのは明らかだった。しかもレストランという公衆の面前でそうなるのは避けたい。
「あー、わかったよ」
と返事して、プレゼントの箱を春野とは反対側の方から持ち上げる。
そのときプレゼントを持っていた俺と春野の手の指先が互いにかすかに触れた。
「……!」
春野の顔がわずかに赤みを帯びて
あと、視界の端にいた葵の口元も心なしか少しピクリと跳ねたように映った。錯覚だろうけど。
少し手の位置を直した後、あくまでも乱暴にならないようゆっくりと上げ、春野もそれに合わせた。
春野とペースを合わせて日高の方へプレゼントを持っていき手渡す。我ながら何だこの渡し方はと思った。
「ありがとー! さっそく開けていい?」
「どうぞ!」
日高が感謝を述べ、春野が許可を出したのを受けて包装を解いていく。
いつものサバサバした雰囲気にそぐわぬ丁寧な手際で、どこか
「へー、ポーチかー」
「うん。皐月に似合うかなと思った」
「うん、いいねこれ! デザインが好き!」
ポーチをさっそく肩に掛けて使い勝手を試す日高。
女子四人の中では一番背が高いこともあって大人びて見える彼女だが、ポーチを着けているその姿は年相応の、可憐な雰囲気を纏っていた。
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