第2話 どうして私がこんな目に…
「お待ちください、どうして娘が投獄されないといけないのですか?」
「キャリーヌは僕の指示に従わなかった。今父上は、他国での貿易の為、留守だ。その為、残された王族でもある僕に、全ての権限がゆだねられているのだよ。そんな僕の意見を無視したのだから、国家反逆罪でしょう?ただ、公爵とは今後交渉をしたいので、あなたは投獄しません」
「何をふざけたことを!こんな事をして、陛下がお許しになるとお思いなのですか?とにかく、キャリーヌには指一本触れさせない!」
お父様が私を庇う様に立っているが…
「公爵が何を訴えようと、僕の発言は絶対なのです。さあ、今すぐキャリーヌを地下牢に」
ジェイデン殿下の言葉で、騎士たちが一斉に私を捕まえた。
「放せ!キャリーヌに触るな!」
「お父様、私は大丈夫ですわ。ですから、どうか冷静に」
万が一お父様が暴れて、あの男に危害でも加えたら…それこそ大変だ。とにかくここは、騎士たちの言う事を聞いた方がいいだろう。そう思い、大人しく騎士たちに付いていく。
後ろでお父様が必死に叫んでいる。お父様の悲痛な叫びが、胸に突き刺さった。大丈夫よ、きっと大丈夫。そもそも、こんな横暴な事が許される訳がない。きっとお父様が陛下に連絡を入れて、すぐに地下牢から出してもらえるわ。
そう自分に言い聞かせた。
そして、薄暗い地下牢へと放り込まれたのだ。何なの、この気味の悪い場所は…
辺りは薄暗く、ろうそくが灯されているだけ。もちろん、窓もない。湿気でじめじめしている。私は薄暗いところがとにかく苦手なのだ。
恐怖から、体をちじこませた。
こんな恐ろしいところにいないといけないだなんて…
でも、大丈夫よ、きっとお父様が、すぐに陛下に連絡を入れて下さるわ。
でも…
陛下と王妃殿下は今、遠く離れたアバリア王国にいると聞く。急いで帰国されたとしても、きっと2週間はかかる。という事は、私がここから出られるのは、早くて2週間後か…
きっとお父様やお母様、お兄様やお義姉様が、私の事を心配するだろう。お母様とお義姉様、泣かないといいな。お父様もお兄様も、冷静さを保ってくれるといいのだけれど。
何より、皆無事かしら?お義姉様のご実家にまで、ご迷惑をおかけしてしまったら…自分の思い通りにならないからと言って、私を投獄する様な男だ。
私の家族や、お義姉様家族に危害を加えても不思議ではない。
それにしても、どうしてこんな事になってしまったのかしら?
“キャリーヌ、僕は君の事を誰よりも愛している。君を絶対に泣かせたりしないし、幸せにするから、どうかサミュエルじゃなくて僕と婚約して欲しい”
ふとジェイデン殿下の言葉が脳裏をよぎった。ジェイデン殿下の猛烈なアプローチによって、私たちは婚約を結んだ。ジェイデン殿下はその言葉通り、私を大切にしてくれた。
私も彼の気持ちに応えるべく、辛い王妃教育にも必死に耐えて来た。令嬢たちとお茶をするという、令嬢らしい楽しみも全て我慢して、将来良き王妃様になれる様、必死に頑張って来たのに…
こんなにもあっさりジェイデン殿下に捨てられたあげく、側妃になれだなんて…
我が国でも一昔前まで、側妃制度はあった。側妃は基本的に、伯爵以下の身分があまり高くない令嬢がなっていた。
ただ、側妃の産んだ子供は、基本的に次の王にはなれない。その上、立場も弱く、正妃から理不尽な嫌がらせを受ける事も少なくない。
面倒な公務ばかり押し付けられ、王宮でも居場所がなく、国王の子供を産んでもその子たち共々冷遇される。
あまりにも酷い扱いを受けたことから、貴族たちが側妃になる事を拒み始めた。さらに自分の子供を守るため、正妃の子供が暗殺されるという事件まで起こったらしい。
無駄な争いを避けるためにも、我が国では今から100年近く前、正式に一夫一妻制になったのだ。
誰が見ても、側妃なんて不幸でしかない。そんな側妃になれだなんて…
あの人は私の事なんて、愛していなかったのだろう。ただ、自分の好きな様にしたかっただけ…
一気に涙が込みあげてきた。
「嘘つき…私を愛していると言ったのに…あなたなんか…大っ嫌いよ…」
溢れる涙を止める事が出来ずに、ジェイデン殿下に対する不満をぽつりぽつりと口にする。どれくらい泣いただろう。
「ぐぅ~」
と、お腹が鳴ったのだ。こんな状況でもお腹が空くのね。そういえば私、朝から何も食べていないわ。
「あの、私の食事はまだでしょうか?」
近くにいた看守に声をかけた。食べ物を催促するだなんてはしたない事だが、さすがにお腹が空いて我慢が出来ないのだ。きっとパンとスープぐらいしかもらえないだろうが、何も口にしないよりかはマシだろう。
「申し訳ございません。殿下から”キャリーヌ様が殿下の側妃になると言うまで、食べ物も何も与えるな“と言いつけられておりまして…」
看守が申し訳なさそうに教えてくれた。
「そう、分かったわ。いいずらい事を言わせてしまって、ごめんなさいね」
看守に笑顔を向けると、本当に申し訳なさそうに頭を下げ、元の場所へと戻って行った。
要するに、死ぬか側妃になるか選べという事ね。
「そこまで腐った人間だっただなんてね…私、あの人にここまで酷い仕打ちをされるほどの何かをしたのかしら?」
こんな酷い仕打ちを受けなければいけない様なことなんて、した記憶がない。
でも、側妃という惨めな生活を送るくらいなら、このまま人生の幕を閉じるのも悪くないのかもしれない。
私にだって、公爵令嬢としてのプライドがあるのだから。
私は絶対に、あんな男の側妃になんてならない!たとえこの命を落とす結果になろうとも!
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