プリズム―黒と白と七色の冒険譚―

@kyon_03

―序章―


『ブラックホール!』


メイド服を着用し、銀髪で片方のおさげを三つ編みにした女性が、明るい声で技の名前を言い放つ。女性は猫のような眼をしており、とても可愛らしい顔をしているが、その姿を確認できるものはだれもいない。その場にいた数千人の兵士たちは全員、女性の放った技で地面に飲み込まれていく最中だからだ。


「やめろーーーーーー!!!!」


徐々に兵士らが謎の黒い物質に飲み込まれていく中、僅かに残っている力を振り絞り、赤髪の青年タリムが叫んだ。


「あら?まだ声が出せる人もいるなんて驚きだね〜。でもその状態でブラックホールから逃れることはできなさそうだし……ま、このままこれに飲み込まれてもらってさ♪」


タリムの叫びも虚しく、タリムを含めた兵士たちは全員、ズズズ………と“黒”に飲み込まれていった。



【∞】



女性の技によって、強制的に転移させられたタリムは、どこか分からない牢屋に閉じ込められていた。


「どこだここは……?牢屋か……?」


硬い石畳の上で横になっていたタリム。辺りを見回すも誰もいない。目の前には鉄格子がある。個室のようだ。手には手錠がはめられている。周りからは聞き慣れた兵士らの声も聞こえてきた。


「誰かいないのか!」

「早くここから出せ!」

「お腹すいた……」


とりあえず捕まっているということ、味方の兵士らが殺されていないことが分かった。この手錠、この鉄格子……“赤のオーラ”さえ纏えれば、自らの火の力でどうにかできるかもしれない。


「……………………!?」


タリムが立ち上がり何とか“赤のオーラ”を纏おうとするも、身体の中の“オーラエレメント”は反応せず、いつもなら光る右目も今は光らなかった。18年生きてきて初めての出来事に動揺を隠せない。


(体内にあるオーラエレメントは奪わせていただきますが……)


先ほどまで戦っていたはずの執事服の男性の声を思い出す。


(体内のオーラエレメントを奪う技術が、敵にはあるということなのか……?どういう原理かまるで分からないな……)


その後、タリムは鉄格子に体当たりしてみたり、力の限り手錠を外そうとガチャガチャ動かしてみたが、両方ともビクともしなかった。


「……このまま俺はどうなるんだ……とりあえず、こうなった過程を思い出すしかないな……」


タリムは目を閉じ、牢屋に入ってしまった詳細を思いだそうとした。



【∞】



― <アルクス大陸“赤”クルムズ領> ―


クルムズ領のちょうど中心に設置された“ミラージュコア”のもとに招集された“赤”、“橙”、“緑”、“青”の領に属する兵士たち、その数、ざっと数千人。


クルムズ領の兵士として“ミラージュコア破壊作戦”に派遣された赤髪の少年タリム。


直近でミラージュコアを破壊したのはちょうど100年前となる今年、アルクス大陸“赤”の領で“武力”代表となった一人の青年が、大陸全土の政治決定機関“虹彩会議”にて、ミラージュコアの破壊を進軍することを提案する。“虹彩会議”はその提案について承認。破壊に納得した各領から兵士の応援を行うこととなった。


タリムは辺りを見回す。何の変哲もない平野地帯、見晴らしもいい。ただ目の前のミラージュコアだけがあまりにも異質な物体……といったところだろうか。草原の一角に地面がむき出しになっている箇所があり、そこにミラージュコアはそびえ立っている。


ミラージュコアは高さが大人4〜5人分、厚さは子どもが2人分ぐらいある六角柱の形をした柱で、全体が黒いガラスのような造りになっている。その周りにはうっすらと“黒いオーラ”が纏われており、禍々しい雰囲気を醸し出してはいるが、何か攻撃してくるような気配はない。


ただ、ミラージュコアに近づくだけで自分の赤のオーラエレメントが吸い取られている気がしてくる。こんな高い建築物なのに、近づくまでは全くその存在に気付かなかった。


ミラージュコアの周りに集まっている各領の兵士たちもこれから何が起こるのか何も分かっておらず、普段あまりない各領での交流を楽しんでいるものもいる。


当然自分もミラージュコアを見るのは、生まれてこの方初めてであり、これから何が起こるのかは知らされていない。


「ここにいる兵士諸君らに次ぐ。今からこのミラージュコアの東西南北に、各領の武力の代表者が取り囲むように陣を組む。その後、兵士諸君らは自分の領の代表者の後ろに整列してくれ」


話を切り出したのはクルムズ領の武力代表のゴルド。タリムの実の兄である。今回のミラージュコア破壊作戦を虹彩会議に提案した張本人だ。


ゴルドもタリムと同じ赤髪の短髪でタリムとは違い口髭をはやしている。そして途轍もなく目立つ金色に光る重厚な鎧を装備している。背も高くガタイがよい。身体つきだけで言えば、全てタリムの一回りは大きい。


そんなゴルドの指示に兵士たちは、各武力代表者らを先頭に綺麗に整列した。ゴルドが続きを話始める。


「すでに知っている者も多いと思うが、このミラージュコアはこの大陸にある6色のオーラエレメントのうち、4色以上のオーラエレメントによる攻撃を与えれば、一時的に破壊され、ミラージュコアの内部の転移装置がむき出しになるそうだ」


兵士ら一同、ポカンとする。転移装置の存在も知らなければ、4色以上のオーラエレメントによる攻撃を与えればよいということも知らない。ゴルドは話を続けた。


「くく、知らんもののほうが多いか。それはすまなかったな。話を戻そう。今から我々武力代表者らが、このミラージュコアに同時に攻撃を仕掛け、ミラージュコアを破壊する。兵士諸君らは内部にある転移装置に触れるのだ。触れた先には“ブラック・アウター・スペース”……通称“BOS”という場所につながっている」


自分たちが壊すのではなく、武力代表者らが壊してくれるのか。それはありがたい。あんなよくわからない構造物、壊せるのかも分からない。


「各領の武力代表も一緒に来てくれるんですよね!」


とある兵士が口にした。ゴルドは残念そうな顔をする。


「残念ながら武力代表者の中で、BOSに同行するのは俺、ゴルドのみだ。各領の武力代表者は腰を抜かしているらしい。仮にも各領を束ねる武力の代表だというのにBOSに一緒に行こうとすらしなかったよ」


各領の兵士が信じられないという顔で各領の武力代表を見ている。武力代表たちは後ろを振り向かず黙っている。


「安心してくれ。諸君らがBOSに到着したあとも、継続してミラージュコアを見張ってくれる。もし仮にミラージュコアが復活しても、退路を確保できるように何度もミラージュコアを破壊してくれるそうだ、クルムズ領からは“知力”代表者も見張ってくれる予定だ」


整列した列の一番後ろにはクルムズ領の知力代表と思われる方がいた。正直、かなり後ろにいてどのような姿か分からない。


そして、ゴルドの話からミラージュコアは一時的にしか破壊されないということらしい。復活したら帰ってこられないのは確かに困る。


「俺は兵士諸君らを導き、BOSにて必ず戦果をあげる。なぜなら俺はこの“アルクス大陸”の中でも1、2を争うほど強いという自負があるからだ。ミラージュコアを破壊したことなどないが、少なくとも100年前とは違うこと、そしてこの忌々しいミラージュコアをアルクス大陸から消し去り、人類をさらに発展させるために、お前たちの力を貸してくれ!!」


ゴルドが大きくガハハと笑ったあと、兵士たちの勇ましい声が上がる。ここで戦果を上げれば、強さの誇示にもつながるし、名声も得られるだろう。明らかに普段とは違う雰囲気に、兵士たちはやる気が満ち溢れている。


そんな兵士たちとは裏腹に、各領の武力代表者らはゴルドの発言に対し悔しそうな顔を見せている。何か反論するか悩んでいるようだが、どの代表者らもあえて口には出していないようだ。


兄の発言は傲慢なところもあるが、兄の武力は本物。2年前に行われたクルムズ領の武力代表を決める大会では、兄の武力の右に出るものは誰もいなかった。兄は前武力代表と戦っていたが、数分後には兄が勝利を収めている。こと戦闘においては頭が回り、周りの状況を冷静に分析できる力も持っている。


その大会には別の領の視察団も来ていたが、ヒソヒソと「この実力、“黄”の“武力”代表と肩を並べるほどじゃないか……」なんて言われていた。身内がゆえに誇らしい気分になったのを覚えている。


「では各領代表者よ、ご協力願おう」


ゴルドの呼びかけに各領の武力代表者は武器を構えた。これだけの大人数だ。まるで今にも戦争が起こりそうな緊張感だ。


ゴルドが右手を上げた。武力代表者らがそれぞれの色のオーラを纏う。右目がその色に光っており、オーラの大きさも自分とは比べ物にならない。


「―“クラックグラウンドォォ”!!!」


「―緑風よ……我の前に集え……“風帝初夏”!」


「―“カルチョ・トッレンテ”!」


「―“パラ・プロミネンス”!!」


武力代表者らの攻撃。自分も含めた末端の兵士の技よりも攻撃の規模が大きく武力代表とは名ばかりでないことを思い知る。


それぞれの技が同時にミラージュコアに当たる。刹那、六角柱から大きなガラスが割れるような音がし、破片が飛び散ると同時に、爆発のあとの粉塵が辺りを覆い尽くす。


粉塵が収まってきた頃合いに、ミラージュコアがあった場所を見ると、ミラージュコアは跡形なく消え去り、転移装置と思われる大きな黒い球体が現れた。ミラージュコア同様、禍々しい黒いオーラに包まれているようだ。


「あれが転移装置か」

「触れても大丈夫なのかしら」

「俺が1番に“BOS”に行って名を上げるぜ!」

「行くぞ!」


兵士らは口々と転移装置を見た感想を述べている。


今までの人生で全く見たことのないものである。当然恐れを抱くものもいれば、好奇心から真っ先に駆け出すものなど、反応は様々である。タリムはどちらかというと前者だったが、兵士である以上、このまま引き返すことなどできない。


「さぁ!あの転移装置に触れ、BOSに進軍せよ!私もすぐに向かう!」


「「「うおぉぉぉぉぉ!!!」」」


大きなうねりとなった兵士らは、各々武器を掲げ、黒い球体に突っ込んでいく。タリムも負けじと駆け出し、黒い球体に触れた。途端、目の前が暗転。まるで無理やり足を掴まれ振り回されているような感覚がタリムを襲う。


(ぐぅっっっっ!)


その間、僅か数秒。「ドサッ」と地面か何かの上に落とされたようだ。目を開けたタリムは戸惑う。“目を開けたはずなのに何も見えない”からだ。辺り一面は真っ暗で、近くにいるだろう兵士の姿すら確認できないほどだった。近くにいる何人かの兵士も戸惑って声を出しているのが聞こえる。


「暗くて何も見えん!!」

「きゃっ!どこ触ってんのよ!!」

「わりぃ……」

「武器がどこかにいってしまった!!」


現場は大混乱だ。


「ここがBOSか……周りは暗いけど“赤のオーラ”を纏って術さえ使えれば……」


とある女性兵士の右目が赤く光り、その身体に“赤のオーラ”が纏った。持っている杖のようなものから火の玉を空中に放出し、辺りを照らしてくれた。


「クルムズ領の兵士らは全員オーラを纏え!暗い状態で進むのは危険だ!」


ゴルドとは違うクルムズ領の幹部級の兵士が統率してくれる。クルムズ領の兵士らはすぐに赤のオーラを纏い、全員が何らかの形で周りを照らすよう、火の術を使った。兵士らの中には戦闘のサポート部隊もおり、持参しているロウソクなどで簡易的なランプを作っている。ようやく辺りの様子が照らし出された。


「ありがてぇな」

「火の能力はかっこよくていいぜ」

「うちの領の能力は地味でよ……」


敵地とは思えないぐらいには緊張感がない。それもそのはず、転移した先は真っ暗闇だったものの、暗いだけで敵の姿はなかった。自分たちがドーム上の広い空間にいることは周りを照らして分かったが、兵士ら全員が同じ場所にいるようで、みんなホッとしていた。


何人かでドーム上の広間を探索したところ、1本の道を発見する。逆にその道しかないので、否が応でもその道を進むしかないようだ。


後方にある赤い球体の転移装置を確認しつつ、タリムら兵士は前へと進んだ。転移装置には各領の幹部級の兵士4人が周りを陣取り、退路を確保してくれていた。


整列とは程遠い、何なら遠足のような足取りで通路を進んでいく。ある程度通路を進んだところ、前方にいる兵士らから声が上がる。


「っなんだぁ!?」


ザワザワと兵士らの声がするのでタリムもその方向を確認する。最初にBOSについたときと同じような広さの広間に到着していた。


広間の天井、はたまた空中にはアルクス大陸にいる生物たちとは、明らかにサイズも色も異なる虫や鳥が、行く手を阻んでいるのが見えた。兵士らが進もうとすると、鳥たちはそのクチバシや爪、虫たちは翼を使って体当たりをしかけてくる。数も100や200はいるだろう。


「どうみても鳥だがあんな種の鳥は見たことねぇぞ」

「カラスじゃない?黒いのは初めてみたわ」

「あれはトンボだよな?でもあんな黒い色のトンボがいるのは知らんな」

「そんなことよりも体がでかすぎるだろ!あんな生物がいてたまるか!」


普段目にしている鳥は大きくても体長は50〜60cmほど、トンボに至っては10cm程度なはずだ。だが目の前にいるカラスのような鳥は1m近い。トンボに至っては普段目にする鳥ぐらいのサイズだ。しかも両者ともに全身が黒く、そのうえで“黒いオーラ”を纏っている。


「もしや“魔獣”か!」

「そもそも虫は鳥に捕食される関係のはず……BOSの中で何が起こっているというのだ……!?」


あるクルムズ領の幹部級の兵士が口にする。“魔獣”とはオーラを纏うことのできる生物のことだ。鳥と虫なので、本来なら“魔獣”であっても捕食される関係のはずだが、さながら軍隊のように陣形を整え攻撃を上手に組み合わせている。人間の動きに近いぐらいだ。


「俺達がこんな虫や鳥たちに負けてたまるかよ!」


武器を取り、反撃する兵士たち。人間たちだって数々の文明の利器がある。またオーラを纏えば当然、様々な力も使うことができる。


「ヒートエッジ!」

「オンダクレシェンテ!」


“赤”の兵士は火の力を使った斬撃を繰り出し、“青”の兵士は水の魔術を使う。水の魔術を見るのは新鮮で、三日月型の水が空中に生成され、相手の黒いトンボに飛んでいった。使い手の腕も確かなのだろう、見事に黒いトンボに命中し、地面に墜落していった。


普段、街の警備などをしていたら使うことがない技を惜しみなく使っていく兵士たち。鳥と虫が“黒いオーラ”を纏っているとはいえ、しっかりダメージを与えて倒していく。


当然タリムにも迫りくる黒いトンボの魔獣。タリム自身も赤のオーラを身に纏い、得意の剣でバッサリと切り捨てる。


「アレブ・ブレード!」


タリムの持っていた剣に火が纏われ、上から下へ振り下ろした。黒いトンボは一刀両断される。


「ヒュウッ!さすがタリム!」


同じタイミングで兵士派遣された友人、トーチが拍手を送る。


「ありがとなトーチ。ちっちゃいときから剣だけは使ってきたからさ」


同じ広間にいた魔獣たちは、兵士らの力によって壊滅した。なぜか倒した魔獣たちは倒されると同時に跡形もなく消え去ってしまい、不気味さを覚える。


その後も進んでいくたびに襲いかかってくる魔獣たちは、兵士らの技によって倒されていった。広間、階段、広間、通路……と繰り返していき、およそ10階層分ぐらいは降りただろうか。


毎度広間に行き着くとすごい量の魔獣が現れる。兵士たちも数は多いので、今のところは大丈夫だが、疲労が出てきた兵士たち。見かねたタリムがトーチに話しかける。


「なぁトーチ。おかしくないか?さっきから現れている魔獣たちは広間でしか出くわさない。通路内の戦いにくいところで現れたほうが、統率が取れないんだから俺達は苦戦したはずなのに……まるで“わざと広いところで戦わせている”気がしてならない」


「たまたまじゃねぇのか?あの図体だからあいつらも広いところのほうが戦いやすいとかさ」


「あとずっと一本道なのも気になる。こんな構造物、普通ありえるか?」


「それは確かに気になってたが……」


ただひたすら前に、そして下に向かっていっている。終わりも全く分からない中で兵士らも疲弊するのは当然だ。


「もしかしたら兵士ら全員を疲弊させるのが狙いなのかもしれないな」


タリムがトーチと話し込んでいると一際大きな広間が姿を現した。今までの広間とは明らかに造りが違う。最初にBOSに転移してきたときの広間よりもさらに大きい。


広間の奥、自分たちが来た通路と反対側には新たに下に降りる階段が見える。その階段の前には先ほどまでの魔獣たちではなく、1人の男がこちらと対峙している。


男は見た目が40歳代ぐらいで、白髪も混じった短髪の黒髪。身長はタリムよりも高く、兄ゴルドと同じぐらいで180cmを超えている。細身の長身という表現がしっくりくる。


また、この場に全く合っていない執事服を身に着けており、武器を持っている様子もないが、立ち姿だけで相当な実力者であることはわかる。それほどの威圧感があり、兵士らが前に進むのを躊躇っている。男性から距離を取って“扇型にしか陣を組めなかった”ようだ。その様子を見かねたゴルドが兵士らをかき分け、兵士らの先頭に立った。


執事服の男性が話し始める。


「ようこそ“ブラック・アウター・スペース”へ……。一番最近だと100年ぐらい前ですか、アルクス大陸にいる人間たちがこちら側に来るのは。さすがにその兵士の数を考えると、偶然こちらに来たとは考えにくい……。あなた方の目的は最下層にある“ダーク・エネルギー・コア”の破壊……そういうことでよろしいでしょうか?」


執事服の男性は丁寧なお辞儀、また丁寧な話し方を披露してくれているが、言葉の端々に棘がある気がする。少なくとも殺気が隠せておらず、いつ攻撃してくるのかは全く分からない。


ゴルドが合図し、後方にいた幹部級の兵士らが頷く。急ぎ転移装置まで退避していくのが見えた。


「なるほど……冷静な判断ですね」


執事服の男性が言った。兵士らを退避させた目的が分かっているようだ。


「お前がBOSに住んでいると思われる人間ということだな。本当に人間なのかも怪しいが、少なくとも虹彩会議の記録にも残っていた。その殺気、今までから侵入者を1人で迎撃してきたのだろう。相当な実力だな。そもそも数百年もの間、お前はどうやって生きてきたんだ」


ゴルドが執事服の男性に向かって話している。100年前にも生きていた可能性がある……もしかして人間ではない何かなのか。


「お褒めいただき光栄でございます。ただ、私のことをお答えすることはありません。戦うか戦わないか、それだけ決めていただければと思います」


残念ながら何も教えてはくれなさそうだ。


「お前の話で少なくともその“ダーク・エネルギー・コア”と“ミラージュコア”でこの大陸の“オーラエレメント”を管理している……そういうことで理解しておこう。今の話でなぜ“ミラージュコア”と呼ばれているのかは分かった」


この場でゴルドが発した言葉を理解できているのは数名だけのようだ。少なくとも“ダーク・エネルギー・コア”が本体、“ミラージュコア”が分身のようなものという理解はできる。


「……それならば、当然お前が言うように我々の目的はそのコアを破壊するなり奪うなりして、大陸の“オーラエレメント”の管理をやめてもらう、それだけのことだ。そこをどいてもらおう」


「……あなたがたにあれを破壊するほどの“器”があるとは思えませんが………まぁよいでしょう。もう一度問いますが、戦うということでよろしいでしょうか。今、全員で引き返すようであれば、私からは手を出しません」


執事服の男性とゴルドの会話が終わり、少々の時間が流れる。執事服の男性からは殺気が消えた。本当に戦わないという選択肢も残っているようだ。


ゴルドの指示を兵士らは待っている。少しだけ考え込んだゴルドは、後ろを振り向かず、大きな声で叫ぶ。


「兵士ら諸君!これより各領それぞれの色で構成された4人1組のチームで動け!!相手が“黒”なのであれば、“ミラージュコア”と同じ原理で攻撃することも可能なはずだ!!」


号令とともに速やかに4人1組のチームを作る兵士たち。即席の合同軍だがチームを作るスピードが速く、動きもよい。


「サポート班!戦闘に参加するのは火薬弾を持参しているものとし、その他は速やかに戦闘から退避せよ!火薬弾を持参しているチームは前方の敵に向かって火薬弾を発射しろ!!」


4人1組のチームで執事服の男性を取り囲むようにし、正面からはサポート班の火薬弾チームが準備に取り掛かっている。


「ふむ、今回はそのような武器もお持ちいただいたと……」


「100年前にはなかった技術だ。お前がどう対応するのか見せてもらおう。………撃てー!!!!」


火薬弾を持ったサポート班の兵士たちが、一斉に赤のオーラを纏う。サポート班は導火線部分に火の魔術によって火を灯し、さながら大砲のような鉛玉が男のほうに発射された。火薬弾が発射されたの同時に、4人1組のチームは各オーラを纏った。


「なるほど、これは面白い」


ドォォォォーーーーーーーーン!!!!


大きい爆発音が広間に響き、火薬と硝煙の臭い、そして煙で辺りが埋め尽くされる。


「何も見えないな……」


タリムがつぶやく。しばらくすると辺りの煙が収まってきた。タリムが火薬弾を飛ばしたほうを見ると、転移してきた際に転移装置に陣取っていた幹部級の兵士たち、その幹部級の兵士らに伝達するために最初に退避させた兵士たち、そして戦闘から離脱したはずのサポート班が全員、意識なく倒れていた。


「!?!?」


タリム、そしてまたゴルドも驚きの表情を隠せない。その場にいる兵士らも同じ表情をした。サポート班たちは戦闘から離脱して間もないが、幹部級の兵士らは10階層上にいたはずだ。瞬間移動でもしない限り、この数秒で移動するのは不可能だ。


「何だ!何が起こっている!?」


ゴルドが叫ぶ。執事服の男性が全ての兵士らの背後、この広間に最初にやってきた通路のほうからつぶやいた。全員、驚きつつも振り返る。


「今しがたあなた方兵士らの所属領を確認しましたが、“赤”クルムズ領、“橙”オーランゲ領、“緑”ヒスイ領、“青”アズーロ領の兵士たちですか。ヒスイ領からとは珍しい。……では、あなた達の力、ぜひ見せてください」


「敵には瞬間移動能力がある可能性が高い!注意を怠るな!!」


タリムも含めた残った兵士らがゴルドの号令に声を上げ、再び各色のオーラを纏う。タリムの右目も赤く光り、赤のオーラによる火の力を、持っている剣に宿した。


「その新しい兵器に免じて、せっかくなのでこちらも1つ、種明かしをしてあげましょう」


執事服の男性の右目が黒く光り、黒のオーラを纏う。先ほどまでに出会ってきた黒の魔獣たちとは比べ物にならない大きさのオーラに、タリムはごくっと息を飲む。


そして、突如何もない空間から1本の剣が出現し、執事服の男性がその剣を手にした。


「では行きましょうか。“I5フィフスアイアン-マッシー”」


執事服の男性が剣を構える。タリムもゴルドも、またその場いた兵士らも“何もない空間から剣を出現させた”技術に全く心当たりはなかった。黒いオーラの能力だと思われたが、正直なところ理解は追いついていなかった。


種明かしと執事服の男性は言ったが、敵が未知の能力を持っているということだけが理解できた。どちらにしてもこの男は自分たちに攻撃してくるだろう。先に攻撃を仕掛けたのはこちら側だからだ。


直感的に兵士らが一斉に男に向かっていく。恐れていても仕方がない。1番近いところにいた兵士らの攻撃の間合いに執事服の男性が入った。兵士らが武器を振りかざした瞬間、その場から男は消え、4人1組チームの全員の背後を取り、峰打ちで斬っていった。


「ガハッ……!」

「キャアァァァ………!」

「うっ……!」


兵士らの中には男性も女性もいるが、容赦なく両方とも倒されていく。次のチームも、また次のチームも攻撃を仕掛けるが、全く男に攻撃は当たらず、全て返り討ちにされていた。


目の前のチームがやられていくことに恐れを抱き、敵に向かうのをやめたチームもあったが、敵の圧倒的なスピードを前に一瞬で間合いを詰められ、容赦なくやられていた。


「瞬間移動か……それとも驚異的な身体能力か……」


ゴルドはその戦闘の才から、執事服の男性が攻撃する一瞬の一太刀が僅かに見えていたが、指揮を取れないほどの速さであり、次から次にやられていく兵士たちの姿を見るに過ぎなかった。


「所詮は単色のオーラで構成された兵士たち。まだ相手にはなりませんね。ふむ……今まだ残っている数十人は……比較的いいオーラをお持ちですね。どうですか?私の攻撃は……“見えていますか?”」


執事服の男性は、少しだけ右目を見開き、残っていた数十人の兵士たちを見てそう話した。そう、あと数十人しか残っていないのだ。極度の緊張が走る。


タリムの額から汗がこぼれ出た瞬間、執事服の男性は身体をゆらっと揺らす。タリムが揺れを認識した一瞬でいなくなり、すでにタリムの背後を取っていた。タリムが反応するより速く容赦なく振り下ろされる剣。響く金属音。


キィィィィン!!!!!!


タリム目掛けて振り下ろされた一太刀をゴルドがギリギリのところで防いでいた。


「ほう。さすがは……いい反応です」


瞬時にいなくなる執事服の男性。別の兵士が背後から攻撃を受け、倒されていた。


「タリム!気を抜くな!お前も何とか敵の攻撃は見えているはずだ!」


ゴルドが叫ぶ。確かに周りの兵士らへ攻撃している男の一太刀はギリギリ見えていた。幼少期から剣を握ってきて、それなりの実力はあると踏んでいたタリムだが、今自分に向けられた攻撃は、生まれて初めての“反応できない攻撃”だった。相当な実力差を思い知らされる。


「敵は一瞬で背後を取ってくる。陣形を変えてお互いが背中を補うことでその攻撃は防げる可能性があるはずだ。……総員!陣形を組み換え、敵の背後からの奇襲に備えよ!」


タリムに話したあと、号令をかけるゴルド。


残った数十人は背中合わせに全員でカバーできるよう陣形を組み直す。距離をとった執事服の男性が拍手する。


「……こちらの攻撃の特性を理解し、状況に応じた戦術の変更……サポート班の退避も含め素晴らしい判断です。私の攻撃を止めていることを踏まえても自らの戦闘能力も秀でている。武力代表も名ばかりではないようですね。ゴルド」


「……!なぜ俺の名を……!」


ゴルドもタリムも激しく動揺する。ゴルドはまだ自分の名前を名乗ってもいない。にも関わらず執事服の男性が名前を知っている理由が全く分からなかったからだ。


「これで終わりにしましょう。“W4フォースウッド-バフィ”」


執事服の男性はまた謎の空間から、大人2人分ぐらいはある大剣を出す。こちらの兵士らが持っている剣とは厚さも太さも桁違いだ。それを右手だけで悠々と持ち上げている。


「いきますよ……」


そう言うと男は消える。当然、眼では追いきれない。あれほど大きな大剣を持っているのにも関わらず。タリムが次に男を認知した瞬間には、大きく吹き飛ばされていた。こちらの陣形などお構いなく、その大剣で薙ぎ払われたのだ。


「ぐっっっ……!」


ドサッと地面にぶつかる音がタリムの脳内に響く。たったの一撃にも関わらず、意識が朦朧とし、男が話している声もうっすらとしか聞こえなくなってしまった。あっけなく倒されてしまったのだ。


「少なくとも末端の兵士らを殺すつもりはありません。まぁ……BOSに来られたのですから、体内のオーラエレメントは奪わせていただきますが……こちらで処罰するのは貴方一人ぐらいですかね」


ゴルドだけはまだ立っていた。いや、“ゴルドしか立っていない”のだ。ゴルドの右目は赤く光り、体には赤いオーラが纏われている。執事服の男性の大剣の攻撃にかろうじて反応し、防戦一方ではあったが、反撃のチャンスを伺っている。執事服の男性は距離を取り、ゴルドに話しかける。


「……貴方はクルムズ領にて此度の進軍のために軍備を拡大されました。その際、領民へかなりの重税を課したはずです。また、その武力に溺れ、他の領を唆した上で“BOS”まで来られた。まず、自身の領の重税に苦しんでいる領民たちを見て、何も思われませんか?」


(……どこかから見ていたとでもいうのか……?!)


ゴルドはさらに驚いている。だが、ゴルドも負けじと反論した。


「……そもそも大陸中のオーラエレメントを根こそぎ管理しているのはお前たちのほうだろうが!お前たちがオーラエレメントを管理していなければ、軍備の拡大もしていなければそのための重税もしていない!オーラエレメントさえあれば、人類は更なる発展を遂げたはずだ!自分たちの行いのほうを振り返って見ろ!」


「……武力代表であれば、当然“過去の戦争”のこともお知りおきかと思いましたが……残念です。こちら側の立場から申し上げると“人類を発展させる必要はない”のですから……では、終わりと行きましょう」


ゴルドは一瞬のスキを見出し、男が話終わるのと同時に攻撃する。


「―パラ・プロミネンス!!」


ゴルドの持っている槍と斧を合わせた武器、“ハルバード”にはタリムよりも大きい炎の力が宿る。執事服の男性ほどではないが、ゴルドも十分速く動き、執事服の男性を捕捉し攻撃した。戦闘慣れしている兵士らでも、本来ならその攻撃を食らう、それぐらいの一撃だった。


しかし、執事服の男性はそのハルバードの攻撃を右手一本で受け止める。執事服の男性が装備している“黒い手袋”には傷一つついていない。


「なに!?」


「貴方1人であればこのあたりで十分ですかね」


一言発言し、執事服の男性は姿を消す。ゴルドが辺りを見回すと、何もない空間から10を超える大小様々な剣が見える。次の瞬間、執事服の男性はゴルドの背後を取り一太刀、また別の剣を手に取り一太刀浴びせる。


「“ロフター”………“ニブリック”………“ミッド”………」


剣の名称だろう。一太刀浴びせる前に剣の名称を言い、ゴルドに攻撃していく。ゴルドが全く反応できない。全て背後からの攻撃だった。


「……馬鹿な……この俺が……手も足も出ないだと……」


数十回繰り返された攻撃により、ゴルドはひざまずきそのまま倒されてしまった。すでにゴルドの意識はない。


「もう十分ですね」


執事服の男性がそうつぶやき、一本の剣を鞘に戻す。直後大小様々の剣は姿を消した。このドーム型の広間、否、BOSに進軍した兵士らで立っているものはいなくなった。


執事服の男性が広間から立ち去ろうとした瞬間、メイド服を着た、銀髪で片方のおさげを三つ編みにした女性が“黒いモヤ”から姿を現した。


「にゃはは~、さすがチタンさんだね〜♪100年ぶりにこんな大勢の兵士たちと戦ってたけど、手応えはあったの〜?」


「ネオンか……。この状況を見て手応えがあったと思うのか?」


「まさか〜♪」


“ネオン“と呼ばれたメイド服を着た女性は満面の笑みをしながら、山のようになっている兵士たちを見て一言言い放った。


同時に“チタン”と呼ばれた執事服の男性は、先ほどまでの丁寧な話口調を変え“いつも通り”の話し方に戻っている。


「今回の“BOS”への進軍を提案した首謀者のゴルドは見ての通りだ。あとはお前が適当に処理しておいてくれ」


「え〜⤵⤵」


ネオンは嫌そうな顔をする。


「そのために来たのではないのか?」


「そうだけどさ〜⤵⤵」


やれやれと言わんばかりのネオン。ネオンの“左眼”が黒く光り、黒のオーラを纏う。チタンと同様、もしかしたらそれ以上かもしれないオーラの大きさである。


「じゃあやるね〜……“ブラックボックス”!」


ネオンが“真っ黒な箱”を一つ生み出した。人ひとりがすっぽり収まるサイズであり、その中にゴルドを閉じ込める。


「じゃあ、あとの兵士さんたちは体内のオーラエレメントだけ抜いとけばいいよね〜。それも私がやっておくよ〜」


「お前のほうが上手くオーラエレメントを抜くだろうよ」


「あら〜珍しく褒められちゃったな〜♪」


“黒い箱”に閉じ込められたゴルドは、ネオンが指を鳴らすとそのまま謎の空間に消える。チタンは歩いて広間を後にした。


「次にBOSに君たちが来るのは何年後になるかな〜?15年後?それとも100年後?……うんうん楽しみだね~……。……それじゃあ“ゴースト・プリズン”にご案内しますか〜♪」


ネオンは地面に手を当てて広間の規模を確認し、叫んだ。


『“ブラックホール”!』



【∞】



― <謎の牢屋> ―


「あの執事服の男性の強さは兄さん以上だ……結局兄さんはどうなったんだろう……いや、もし兄さんが勝っていたらおそらくこんな牢屋にはいないはずだ。……兄さん……」


記憶を呼び起こしている間にも、タリムと同じように脱出を試みた他の兵士たちの体当たりの音や、手錠を外そうとするガチャガチャと言った音も聞こえていたが、次第にその音も聞こえなくなってしまった。皆体力がなくなったようだ。


そのまま飲まず食わずの状態で1日、2日程度経っただろうか。すっかり衰弱したタリム。ここで死ぬかもしれないという思いが頭を巡らせる。


そこに「カツ…カツ……」と牢屋の外から誰かが歩いてくる音が聞こえた。その音の主はタリムの牢屋の前で立ち止まり、鉄格子の鍵を開けてくれた。黒い制服に黒い大きなフードを被っており、顔は見えない。


「出してくれるのか……?」


そのまま看守と思われる人間は無言のままどこかに行こうとしたため、そのままついていくことにした。手錠こそ取ってもらえなかったが、こちらに来いと言われているような気がした。


辺りを見渡しながら歩いていくと、今回の作戦で一緒だった他の領の兵士らがまだ数百人程度はいた。誰も鉄格子を解除できていないところを見ると、全員のオーラエレメントは抜かれているのだろう。


一方で鉄格子が開いているものも多く、タリムと同じように看守に鉄格子の鍵を解除してもらったものもいるようだ。


「………」


「早くここから………出せ………」


残った兵士らの反応は乏しいが、死んではいなさそうだ。ただ、いくら見渡しても兄ゴルドはいない。


(兄さん……殺されたのか……)


薄暗い廊下を歩いたあとは階段を昇る。まるでBOSとは真逆の構造だ。何回かそれを繰り返したところで広間に出た。タリムはその広間に窓のようなものを確認したため、外の様子を見たが、その見える景色に愕然とした。


自分が今いる場所は塔のような高いところのようだ。塔の外、下に見えているのはおそらく墓で、しかもおびただしい数である。塔の外もかなり暗い。それでも墓はその存在を主張している。


(どういうことだ……今ここはどこにいる……?アルクス大陸にこんな場所が存在するのか……?)


再び看守が先に進む。慌ててタリムがそれに着いていくと広間の最奥に赤、橙、黄、緑、青、紫、それぞれの色をした球体、見覚えのある転移装置が備わっていた。タリムは目を丸くする。


「これは転移装置……。随分きれいに並んでいるけど好きな色を選べってことか?」


「……………」


看守は何も言わない。タリムの問いに答えようともしなかった。


「そうだな……とりあえず今回の作戦の報告も必要だし、とりあえずクルムズ領には帰りたいな。これがクルムズ領のどこに繋がっているのかは分からないけど、赤を選ぶよ」


ここはどこなのか、またなぜ転移装置がここにあるのか。疑問は尽きないままだが、看守はこの間一言も発していない。きっと何を聞いても答えてはくれないだろう。


赤色の転移装置を前にタリムが看守に話しかける。


「ちなみに看守さん、俺の“赤のオーラ”はどうなります?」


「……………」


「やっぱり答えてくれないか……とにかくこのまま進むしかないようだな…」


両手に手錠をかけられたまま、タリムは赤く光る球体に手を伸ばす。タリムの手が球体に触れた瞬間、タリムの身体が広間から消え、クルムズ領に転移させたのだった……。



【∞】



― <ブラック・アウター・スペース内> ―


「チタン、今回の“アルクス大陸からの進軍”、いかがでしたか?」


執事服の男性の前に突如謎の女性が現れ、丁寧な口調で話しかけた。謎の女性が突然現れたことに驚きもせず、チタンは答える。


「各領全ての理解を得られる代表者はまだ現れていないのだろう。今回も4つの領からだけだった。統率もできていないし雑魚同然だ。……お前が望む代表者なんて、夢物語じゃないのか?……そもそも“白”が使える人間もまだ来ていないんだぞ」


「また“赤”を入り口に侵入してきたせいで、私の出番全然ないじゃな~い……暇だったわぁ……。いっそチタンが負けてくれたら私が全領の門番になれるんじゃないのぉ……?まぁ……?あなたが負けたところを見たのは数百年前の一度だけだけどぉ~……?」


また別の女性がチタンに話しかける。おっとりした話し方であるが、言うことはかなり辛辣だ。


「一体いつの話をしているんだ……そろそろお前も殺してやろうか?」


チタンが剣を握りしめたところをネオンが見つけ、すかさず仲裁する。


「こらこら二人とも~喧嘩はよしなって~。それでそれで~?チタンさんは今回の進軍で面白いと思ったところはないの~?」


ネオンがチタンに話を振った。


「そうだな、見たことがないタイプの火薬弾があった。この100年で技術は確実に進歩していそうだ。BOSまで持ってこられているということは小型化もできている。そういう点では評価できる」


「武器で思い出したけど、今“黄”の領ではせっせと新しい兵器を作ってるみたいだし〜?人類ってのはすごいねぇ~」


ネオンは素直に感心している。


謎の女性が口を開く。


「すでに大陸には“白”が使える人間がいるはずなのに、まだBOSには来ていませんね。今後、大陸の人間が“白”をどう活用していくのか楽しみにしておきましょう。……“白”の活用の仕方によっては、この“ダーク・エネルギー・コア”の管理も、もしかしたら破壊することもできるかもしれませんし……」


謎の女性の口角が少し上がるのを、ネオンは見逃さなかった。




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