【閑話】ヒロインのはずが〜日記より〜
「魔族の言語なのか、半魔なら解読してみろって殿下に渡されたけど……俺には読めないんだ。ロシュ、孤児院にいた頃こんな字書いてたよね? この文字、魔族のものじゃないけどどこの国のものか知ってたりする?」
そう言ってウィミリオンに手渡されたのは、歳月を感じる表紙のーー日記だったーー
ーーーーーーーーーーーーーーーー
転生日記 ☆広院 仁瀬☆
転生1日目
目覚めたら人気ゲーム「ドキ☆スト」のヒロインとしてゲームの世界に召喚されちゃったみたい! 湖にでも落ちたのかな……乾いているのになんか生臭い! ステータス画面も好感度も出てこない! このリアルゲームどうやって進めたらいいの?
転生4日目
かなり前にやったゲームだから内容はうろ覚えたけど、聖女として王宮で過ごすうちに王太子様にもうメロメロ。
転生7日目
王太子様は可哀想な御方。幼い頃婚約予定だった公爵令嬢が婚約式直前に姿を消したらしい。それ以来自分のせいだと自信がないみたいなの。心に傷を負った彼を私が癒やしてあげなきゃ。
転生8日目
……あれ? 悪役令嬢は?
聖女として魔族討伐前に学園へ通うことになったけど、私をイジメ抜くはずの公爵令嬢ルイーズが一向に出てこない! これじゃあイベントが起きないじゃない! どうやって攻略しよう。
転生10日目
夜王太子の部屋に差し入れを持って忍び込む……
食べ物に細工なんかしてないよ☆
お年頃の彼は耐えられなかったみたい! ゲームには無かった展開。もう、ほんとにいいのこんなご褒美!
転生11日目
「子が宿っているかも」っていきなり婚約確定!
照れたような不機嫌な顔で言う彼もかっこいい。まだ学園での立場が弱いからって黙っててもらうことにした! 王太子ルート速攻ゲットーー
ーーーーーーーーーーーーーーーー
眉間をぐっと押した。ズキズキする。
まさかヒロインが、ゲームの知識のない物語の人物ではなく本当に異世界から召喚されたなんて……それとも私のように転生したのかーー。
いくらゲームだからって出会って10日目でそんなことする!?
とう読んでも食べ物に細工してるよね!?
元々の清く心優しいヒロインはどこへ行ったの!? ノアとは何がどうなってるの!?
気になって続きを読むことにした。
ーーーーーーーー
○月○日
入学からずっとマークしていたノア・ジョアンビィは気の強そうな赤い髪にピンクのお目々がウサギちゃんみたい! ゲーム通りの見た目なのに血の通った生身はやっぱり全然違う! こっちのがイイ、どの角度からでも一生見てられる!
姉である悪役のルイーズは行方不明のまま、捜索も打ち切りになったみたい。
ゲームの世界でもこんなことあるのね! 私もずっと自由に動けてるしゲームが現実になったらこんなものなのかな?
○月○日
少し前から王太子に護衛でついている騎士が全然落ちない。腕に絡みつくと手を振り払ってなんかハンカチで拭いてない? は? 攻略対象以外は難しすぎるのかな? アイツに近づくとなんか嫌な感じも少しだけするんだよね。そもそも攻略対象6人までおいしくいただいたこの私の誘いを断るなんておかしいんじゃない? こっちから願い下げ!
○月○日
ゲーム通りの悪役は出てこなかったけど、ビビアンとかいう女がでしゃばってきた! 偽公爵令嬢なのになんであんなに威張ってるのかな? もっとやって断罪に追い込まれちゃえ☆
○月○日
ビビアンが急に改心した。人目もあるから寛大で心優しい聖女である私は謝罪を受け入るしかない。つまんない。
○月○日
ビビアンが改心した影響かついにノアを攻略! いい仕事するじゃないビビアン! 赤目の子うさぎちゃん、意外と夜は激しい。何度も何度もーー7人の中で一番かもしれにゃいもうヘロヘローー
逆ハーレム展開記念に昨夜の出来事を書いておこうっと!
ーーーーーーーー
勢い良く本から顔をそむけ、慌ててページをいくつかめくった。弟の情事なんて読みたくない。
「顔が赤いよ、ロシュ。やっぱり難しいよね……」
「も、もうちょっとで終わるから待って。ちょっと読まなくても良さそうなところを飛ばしただけだから」
「え?解読できそうなの? 」
念の為もう一枚めくってから読み始めた。
ーーーーーーーー
○月○日
やっと魔族討伐から帰ってきた! 一人週に1回以上……毎日毎晩相手をするのは本当に疲れた。スリル満点の厳しい旅だったーー
いよいよ王太子と結婚ヒャッホゥ
○月○日
王太子妃になったけど……あれ? 月のものが来てない。不味い、誰の子だろう
○月○日
どんどんお腹が大きくなってくる。にしても、こんなに早く大きくなるものなの? もう隠せないかも。
こんな時に、悪役令嬢が見つかったって!? 魔族残党討伐に追い出したはずのウィン卿も帰ってくるってーーアイツに視られると……鉢巻きで見えてないんだろうけど全部バレてる気がして気味が悪い
○月○日
懐妊がバレて王太子も陛下も大喜び。六人もお祝いしたくれたーー。これからは王太子しか相手してくれない。本当は最後に秘密の関係を楽しみたかった。
○月○日
もういつ産まれてもおかしくない。お腹のサイズから双子かもって!? 1日二人と……って日あったかな……何度かあった。双子なのに父親が違うとか、まさかそんな奇跡みたいなことないよね? ね? 殿下の子でありますよーーに!
○月○日
リセットボタンどこーー
ーーーーーーーーーーーーーーーー
最後は書きなぐったような文字にならないものだった。
パタンと本を閉じるとーー
「最ッッッ悪……」
「ロシュはこの字が読めるの? 」
それは転生前の国の言葉で書かれた、『ドキ☆スト』ヒロインだった筈の人の日記だった。
何ヶ月か前に『産後の経過が悪く王太子妃が天に召され、産まれた双子もーー』と言う様な記事を読んだ。
聖女なのにそんなことある!? と疑問だったがおそらくそれは嘘だったんだろう。
未婚の侯爵と伯爵邸に赤ちゃんの泣き声が響くようになったなんて噂もある。
その数日前に、ノアが『7人全員と関係があったなんてーー』っと青ざめた顔でつぶやきながら屋敷を徘徊していたが、これのことだろう。
さて、どうしたものかーー
ウィミリオンは王太子殿下最側近の騎士。ヒロインがどうなったのかも知っているのかなーー
チロリと見やると
「お願いだよロシュ、一言一句正確に教えて欲しい……都合が悪ければ、魔族の言葉だった事にして報告するからーー」
「え、これ聖女の日記でろくな事が書いてなかったんだけど……」
「報告しなきゃいけないんだ。1回聞けば大体覚えられるからお願い! 」
上目使いで可愛くおねだりされた。
ーー破壊力ぅぅ!
そして最悪な日記を淡々と読み上げていたらどこかの怪しい展開に差し掛かっていた事に気付くのが遅れてしまい……
「こっ、これだけは読めない」
「え? 字はわかるんでしょ? 熱を帯びた手が何処に伸びてきたって?」
情事の日記を涙目で音読させられ、最後まで読み終えた時のウィミリオンの反応は語るまでもなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます