新たな居場所への変化

あの2人と別れた後、私は歩いていた。

さっさと買い物を終わらせて帰らないといけないのに、どこかまた行く先であの2人と会うのが躊躇われたからだ。


「どうした?珍しく、へこんでいるようだな。」


聞き覚えのある声が聞こえる。

声のする方向を見ると、そこにはサタンが立っていた。


「サタンちゃんじゃん?どうしたの、こんな場所で?」


私は、声の主に向かって尋ねる。


「様子を見に来ただけだ。あれだけ、人を小馬鹿にするような態度を取っていた奴も気落ちすると情けなく見えるんだなって。」


「サタンちゃんって、性格悪いってよく言われない?」


私は、目の前の1個年上の先輩に対して言い返す。

当の本人は、フンと私に向かって鼻で笑って来た。


「今更、気づいたのか?私は、性格が悪いことなんて気づいていると思ってたがな?」


「知ってた上で、再確認してるだけだよ。」


私は、そう言うと首をすくめる。


「それで、何しに来たの?」


私は、サタンに対して尋ねる。

本当に、ただ私をバカにする為だけに来たとしたらロクでもない人間だと思う。


「困っているのなら、助けてやろうかなと思っただけだ。」


どことなく、勝ち誇ったような表情で言って来る。

その表情に、何となくだがカチンと来てしまう。


「別に、助けなんていらないよ。サタンちゃんも聞いてたんでしょ?私1人で行かないといけないの。」


「それは、あっちの都合だろう?お前、本当は知っているのだろう?ヴァンパイアの殺し方を…。」


サタンは、そう言うとニヤリと笑みを浮かべる。

戦い方の割に、意外と頭の回転が速いんだなと思う。

もっと、脳筋タイプかと思っていた。


「それを知っていたからって何?教えたら、私を助けてくれてそのまま仲間にでもしれくれるの?」


私は、試すようにサタンに聞き返す。


「別に、誰かと仲良くしたり仲間になるのに許可なんていらないだろ。お前の意志で好きにすればいい。それで、合わなければ勝手に出て行けばいいだけだからな。」


「それ、これまでの私のやり方に対しての嫌味のつもり?」


「いいや。本心からだ。そもそも、私はお前みたいにわざわざ自分を偽るような経験をしたことがないからな。」


当然かのように、サタンは言う。

本当に、強者の立場の人間なんだなと思う。

生まれた時から、最強であることを決めつけられてその通りのレールを歩んでいる。

自分こそが最強であり、そう振る舞うのが当然であるという考え。


「それは、サタンちゃんが強い人間だからだよ。」


私は、嫌味っぽく言い返す。


「まるで、自分は弱者だと言いたげだな。」


サタンは私にそう言うと、ワザとらしく首をすくめる。


「逆に聞くけど、私は弱者じゃないって言いたげだね?」


「なら、さらに私も逆に問うぞ?お前は、自分が弱い人間だと本気で思っているのか?」


サタンが試すかのような視線を私に向ける。

私は、どう答えようか一瞬だけ黙ってしまう。


「それだけの力があって、自分は弱者だなんて言うのはそれこそ本当に弱い人間に対して侮辱でしかないだろう。お前は、ただ自分から手を伸ばす勇気がなかっただけだ。」


「それ、ルミナちゃんにも似たようなこと言われたよ。」


私は、先程のルミナとの会話を思い出すようにサタンに言う。

サタンは、その言葉を聞くとフッと笑みを見せる。


「あいつも大概、お前と変わらんがな。」


サタンが、呆れたように言う。

私も、その言葉に同意する。

たまたま、運が良かっただけ。

たまたま、自分のことを考えてくれるような優しい人達に出会えただけ。たまたま、出会った人の中に生涯を賭けて仕えたいと思えるような人に出会えただけ。

結局、この世界は運でしかない。

…私は、ただ運が悪かっただけ。


「だけど、その運を掴んだのは紛れもなくあいつ自身の力だ。逆に、今のお前にも同様の状況になってると私は思うけどな?」


サタンはそう言うと、再び私を試すような視線を向けて来る。


「私にも、同様の状況…?」


サタンに、思わず聞き返してしまう。

サタンは、私に対して頷く。


「別に、お前が過去に何をしてたかなんて私には興味はない。それこそ、生きる為に殺しをするなんて別にこの界隈では珍しい話ではないからな。」


「へぇ、意外とサタンちゃんって酷いこと言うんだね。」


私は、ここぞとばかりにサタンに言い返す。

しかし、サタンは特に気にしてなさそうな表情を見せる。


「事実を述べているだけだ。私は、理想主義者でも性善説を信じているわけでもないからな。」


「じゃあ、何?もし、私がサタンちゃん達の仲間になりたいって頭でも下げたら受け入れてくれるの?」


私は、試しとばかりにサタンに尋ねる。


「言っただろ?それはお前自身が決めることだって。お前が本当に心を開くのなら、私もそれ相応の関わり方があるだけだ。」


「まるで、今の私は心を開いていないって言いたげだね。」


「事実だろ?」


サタンはそう言うと、再び私に対してニヤリと笑う。

やっぱり、バレちゃっていたか。

一応、心を開いているかのように見せるためにこちらの持っている手札は大体、見せたはずなんだけど…。

どうやら、効果はなかったらしい。


「で、どうするんだ?私はまだ、お前の答えを聞いていない。」


サタンは、再び私に尋ねて来る。


「分からない、って答えるしかなくない?私、いつも思ってるんだよね。あなたみたいな、凄い力があれば私だってこんなクソみたいな人生歩まなくて済んだんじゃないのかって。」


1人で全てを解決出来るような力があれば、どれだけ良かっただろうか。

そんな力があれば、きっと自分にも居場所が見つけられたのかもしれない。


「それこそ、高望みってやつだろ。私の知っている女には、お前と同じようにエルフの真祖の血を両親のエゴで植え付けられて自分の手でその両親を殺した人間を知っている。」


「それって、ルルちゃんのことでしょ?でも、あの子には…。」


「私達がいたから、と言いたそうだな。」


私が言うよりも早く、サタンが言葉を被せる。

言うセリフを取られて、私は少しばかり黙り込む。


「少しだけ違うな。あいつは、私達がいなくても今と変わってなかっただろうな。」


「…どうして、そう言えるの?」


私の問いに、サタンは少しだけ笑みをこぼす。


「あいつは、一度もお前のように自身の境遇について言い訳をしたことはないからだ。」


「私は、言い訳だらけって言いたいの?」


少しだけイラついた声で、サタンに言い返す。


「事実だろ?別に、暗部に入っていなかったとしてもお前は、お前自身が思い描くような人生を歩めたとは思えないけどな。」


サタンの言葉に、私は言い返せずに黙ってしまう。


「それで、再確認だが本当に助けはいらないのか?」


サタンの問いに、私は首を横に振る。


「…いらない。私の話だから、私自身で蹴りはつける。」


「そうか。なら、もう何も言わない。私は、一切手を出さないようにしよう。私は、な。」


どこか含みのあるような言い方をする。


「何が言いたいの…?」


私は、サタンに尋ねる。


「そのままの意味だ。私は、助けないってだけだ。ただ、もしかしたらお前を助けようとするお節介がいるかもしれないなって言っただけだ。」


「剣君とルミナちゃんのこと?」


私は、2人の顔を思い浮かべながらサタンに言う。


「さあ、どうだろうな?もしかしたら、別の奴かもしれないな。」


そう言うと、サタンは私に背を向けて歩き出した。


「ねえ、サタンちゃん!」


私は、自然と口が開くとサタンを呼び止めた。

サタンは、私の方を振り向かずに立ち止まった。

私は、言おうとしたことを嚙まないようにと呼吸を整えた。


「ちゃんと、自分の中で蹴りをつけられたら私をあなた達の仲間に受け入れて欲しいの。」


嘘でもない、本心からの言葉だった。

別に、自分自身が今から変われるなんて思っていない。

私は、どこまで行っても人殺しでしかない。

生死の狭間でしか、自分の価値を見出せない人間。

でも、もしチャンスがあるのならせめて人並みの幸せくらいは掴んでみたい。


「言っただろ?勝手に来たいのなら来ればいいし、去りたいのなら去ればいい。それを決めるのはお前自身だ。」


サタンは、そう言うと再び歩き出した。

私がその背中を見つめていると、後ろから誰かがいる気配を感じた。

イーラだろうか?いや、それにしては何となく違う気がする。

振り返ると、そこにはリヤドがいた。


「…リヤド様?」


すっかり癖になってしまったのか、敬称を付けながら呼ぶ。


「1人で出て行ったから、怪しいことをしていないか見張っていた。」


相変わらずのぶっきらぼうな様子で、答えて来る。

本当に、感情が全く読めない人だと思う。

いまだに、この人が笑っている姿を見たことがない。


「買い物に行く、って言ってませんでしたか?それとも、私がイーラの所に行くかと思って心配してくれたんですか?」


冗談っぽく、言い返す。

しかし、もちろんリヤドの表情が変わることはない。


「別に、お前が誰の場所に行こうが興味なんてない。むしろ、勝手に出て行ってくれるならそれこそありがたい話だ。」


「酷い人ですね。一応、ここ数日だけでもかなりリヤド様の身の回りのサポートはしているつもりなんですけどね。」


「頼んでもいないことを勝手にしているだけだろう…。」


呆れたように、リヤドが言い返す。

私は、思わずその仏頂面に対して首をすくめてみせる。


「何をしに来たんですか?別に、見張りをしに来たわけじゃないんですよね?」


私は、リヤドに問いかける。

私の行動を調べるなんて理由は、後付けだと確信している。


「あの男の元に行くつもりなのだろう?」


リヤドが静かに言葉を発する。


「やっぱり、私のことが心配なんですか?」


私は、再び冗談っぽくリヤドに言う。

リヤドは、大きくため息を吐く。


「ただの忠告だ。行ったところで、ケジメなんてつかない。それは、僕自身が経験したからだ。」


「そういえば、リヤド様も実家のゴタゴタがあったんですよね。」


リヤドのことを色々調べる際に、見つけた情報だ。

そもそも、このリヤド自身も自分と同じで生みの親の顔なんて知らない。一歩間違えれば、自分のような世界で生きていたかもしれない人物だったことを思い出した。


「過去の罪なんてモノは精算することは出来はしない。ただ、永遠に心の中に残り続けるだけだ。」


「なら、リヤド様はどうしているんですか?」


私は、逆にリヤドに問いかける。


「決まっている。生き続けるだけだ。自分の犯して来た罪と屍を踏み台として。それが、唯一出来る贖罪だ。」


リヤドは、私に向かって静かにそう言い切った。

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