第39話 兄弟の別れ

■焔の神殿付近 野営地

 

 俺達はフレデリックも含めた全員で焔の神殿のダンジョンを脱出した。

 炎魔神が復活したときの地震が響いてきたのか、神殿の出口にいた見張りの人達にいろいろ聞かれるも適当に答えて、野営地にたどり着く。

 設営はしたものの、フレデリックがダンジョンに入ったと聞いて急いで追いかけたので、そのままだった。

 すぐに休めるので、今は助かっている。


「ウチ、予備のテントもあるから、一張増やすな~」


 レイナが大きなリュックからテントを取り出すと、設営をリサやセレーヌと始めていた。

 俺が立てた、男が入るようテントに気を失っているフレデリックを下ろす。

 ひと騒動起こしたバカな弟なんだが……どこか憎み切れずにいた。

 命の危険に何度もさらされているのにとは思うが、やっぱり血のつながりが大きい。

 気が付いた時、殺されかけては叶わないので、セレナとカスパーにフレデリックを預ける。


「ここで一休みはしてけ、あとはアリシアに任せているが騒動を起こした責任ってのはとる必要があるだろうな……」

「ええ、フレデリック様ともども、わたくしも責任を取りますわ」

「貴様たちには世話になった。イフリートを止めてくれたくれたこと感謝する」


 セレナとカスパーに礼を言われたが、軽く手を振り気にするなと示して、その場から離れた。

 貴族相手に不敬といわれようが、騒動の原因なんだから多少はおおめに見てほしい。

 テントを離れると、アリシアが岩に腰かけて欠伸をしているのを見かけた。

 アリシアが俺に気づき、顔を赤くして欠伸をこらえる。


「お疲れ、アリシア」

「お疲れ、ジュリアン」


 挨拶をかわし、俺はアリシアの隣に腰かけた。

 何を話したらいいのか分からなくなる、俺は黙ってしまう。

 先に沈黙を破ったのはアリシアだった。


「すごくなったね、ジュリアン」

「いきなりなんだよ……あ、これ形がちょっと歪んじまったけど……」


 アリシアの言葉に何となく恥ずかしい気持ちなって、俺は拾っておいたペンダントをアリシアに渡す。

 相当な力でぶっ飛ばしたので、やっぱり歪んでいた。

 アリシアは俺の手からペンダントを受け取り、ぎゅっと握りしめる。


「今、私たちが生きているのはジュリアンのお陰だよ。だから、ありがとう……魔導具は作り直せるけど、人はいなくなったら復活できないから……」


 アリシアがペンダントを握りしめながら、静かに語る。

 死んだら復活できないという言葉は俺に微妙な気持ちをいだかせた。

 俺は今、こうして異世界とはいっても復活しているから……。

 とはいっても、腹を魔法で貫かれたら痛いし、爆発に巻き込まれても痛い。

 痛い思いはしたくないので、この世界で死ぬのもご免だ。


「なぁ、フレデリックはどうなるんだ?」

「【炎魔神の心臓】を公爵家から盗んだことが一番の重い罪になるから、学園も家からも追放されると思う……」

「そうか……」

「ねぇ、ジュリアンは魔法学院に戻ったりしないの? 」

「俺は魔法学院に戻るつもりはないなぁ……」


 5年前はあこがれていた魔法学院の入学。

 そこから、学園ラブコメが始まることを期待してなかったといえば嘘になる。

 けど、俺は冒険者としてハーレム展開に近い状態なので、満足していた。


「そっか、残念」

「俺はさ、ただの魔法使いとしては活躍できないんだ。だから魔法学院には向いてない」

「ジリョク魔法だっけ? そうよね、媒介が必要な魔法は使い方が難しいかも」

 

 という、建前を話しているとエリカが俺を呼びに来た。


「ジュリアン、ご飯を作ってほしいとのことですわ。セリーヌとリサが特にジュリアンのご飯が食べたいとうるさくて……」

「へいへい、じゃあ作りに行きますかね。アリシアも飯くらい食っていけよ」

「それじゃあ、お邪魔していくわね」


 エリカに呼ばれた俺は立ち上がり、アリシアの手を取って連れ出す。

 その様子をエリカがじとーっとした目で見てくるが、そんなものは無視だ、無視。


 ◇ ◇ ◇


 ご飯も食べ終えた俺達に別れの時が訪れた。

 アリシアはカスパーやセレナ、いまだに意識を失ったままのフレデリックを〈風魔法:飛行〉ヴェントス:フライで浮かせる。

 アリシア自身が魔法をかけたのは逃走防止で制御する部分もあるようだ。


「じゃあな、アリシア」

「ジュリアン、また会える?」

「魔法都市ルミナエアに行く予定でもあればな……」


 振り返って、俺に近づいてきたアリシアが訪ねてくるが、俺は一線を引いた答えを返す。

 アリシアは公爵家の人間だし、俺の様な冒険者と長々付き合う機会はない方がよかった。

 俺は追放されたとはいえ、問題行動を起こしたフレデリックの兄弟というのも外聞が悪い。

 だから、このまま会わない方がいいと思っていた。


「ふふふ、それなら約束は大事に使わなきゃね」


 アリシアは微笑むと、俺の頬へそっとキスをする。

 彼女のいう約束とは俺がペンダントを預かるときにした「俺にできることなら1つだけいうことを聞く」という奴だろう。

 あんな約束しなけりゃよかった。

 アリシアは俺に向かって軽く手を振ると、3人を連れてルミナエアの方へ飛んでいく。

 俺がその様子を見守っていると、頭にポヨンとしたものがのっかってきた。


「ジュリ坊、なかなかいい雰囲気だったにゃ、あちしともキスするにゃ!」

「頭の上に胸乗っけながらいうことが、それかよ!?」


 リサの巨乳が頭の上にあったかと思えば、両手がエリカとレイナによってふさがれる。


「キスをするというのであれば、私もしたいですわ」

「ウチもジュリアンとキスしたいんやで」


 いきなりキスを求めてくるとは何事なのかと俺が戸惑っていると、セリーヌがガハハと笑いながら姿を見せた。


「ジュリアンはモテモテでよかったのだ。私が隠し味に入れた薬のお陰なのだな」

「てめぇ! さり気に何しやがる!」

「ハハハハハ! みんな素直になっていいことなのだ!」


 俺はこうしたドタバタしている方がいい。

 冒険者として楽しくいきたいと改めて思うのだった。

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