第37話 力を求めた先にあったもの

■焔の神殿 ダンジョン部 焔の祭壇


 腹から痛みが全身を駆けあがり、俺は背後のフレデリックを見ながら、宙に浮いていた俺は頭から地面へと落下する。

 薄れゆく意識の中、俺は怒りよりも悲しさだけがあった。


◇ ◇ ◇


 落下するジュリアンを止めるために、私は急いで風魔法を唱える。


 〈風魔法:空気枕〉ヴェントス:エアピロー


 空気で作った枕の上にジュリアンは落ちたことで、地面にぶつかることは防いだ。

 ハァと安堵の息を漏らすのもつかの間、私に向けても魔法が飛んでくる。


 〈火魔法:炎の槍〉イグニス:フレイムランス


 だが、私に届く前で炎の槍は霧散した。


「なんだと!?」

「あなたのために対策しているのよ、魔導具を扱うローレライ家を甘く見ないでほしいわ!」


 ジュリアンに効いた火魔法が私に効かないのを見ると、フレデリックは狼狽した様子を見せる。

 だが、それも一瞬のこと弱っているイフリートに近づいて、命令をしはじめたのだ。


「くそっ、イフリート! オレはお前を救った! オレに力を貸せ!」


 そんなことをしても、イフリートが従う訳はない。

 なぜならば、フレデリックは【炎魔神の心臓】を持っていないのだから……。

 フレデリックとイフリートのやり取りをよそに、私はジュリアンの方へと近づいた。

 ジュリアンのパーティメンバーも倒れているジュリアンを囲む。


「ポーションで回復させれば、腹の穴は大丈夫やけど……意識が戻るかはわからん」


 レイナさんの言葉に全員が俯き、そのやるせない思いがフレデリックに向けられた。

 鋭い視線を受けて、フレデリックが一瞬たじろぐ。


「クソ兄貴よりも、オレが強いってだけだ! オマエたちがここまでこれたのだって、クソ兄貴のお陰だろ! 兄貴がいなくなれば、オレが全てを手に入れられるんだ!」


 フレデリックの言っていることは理解の範囲外だ。

 めちゃくちゃなことにフレデリック自身も気づいていないんじゃないかな……。

 冷めた視線がフレデリックに集中する中、イフリートだけが不敵な笑みをフレデリックに向けていた。

 

「オレの魔力量は100万なんだ、だから、魔力量8のクソ兄貴なんぞに負けて……出し抜かれて……そんなこと許せるわけがない!」


 フレデリックの目に憎しみの炎が宿り、全身を覆う。

 その力を見ていたイフリートがフレデリックの体に入り込んでいった。


「まさか、同化!? 皆さん、フレデリックに攻撃を仕掛けてください!」


 私はイフリートの動きに知識として知っていたものがあったので、焦り始める。


「魔力量の高いフレデリックにイフリートの力が合わさったら、どうなるのかわかりません。今まで以上に強い相手となります!」

 

 だから、同化を防がなければいけなかった。


「わかりましたわ!」

 

 エリカさんがウンディーネだけでなく、シルフも召喚して手数を増やしてイフリートへ攻撃を仕掛けていく。

 リサさんと、セリーヌさんの近接攻撃組はエリカさんからのエンチャントを受けて、踏み込んでいったが見えない障壁でふさがれました。


「魔力を使って、自動で障壁を張っている!? もう、そこまでの力を引き出しているなんて!?」

 

 ショックを受けている場合ではないと思い直して、私は魔法を唱え続けた。

 水魔法と風魔法をぶつけていくが、フレデリックとイフリートの同化は止まらない。

 復活を防ぐ手は……私には思いつかなかった。

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