第28話 強くなるために

■イーヴェリヒト 冒険者ギルド

 スタンピード発生から一か月。

 鉱山都市イーヴェリヒトのダンジョンは地底湖以下はいったん封鎖されている。

 低階層の炭鉱階層が使えるだけだが、鉱石集めや低ランク冒険者の訓練場所にはちょうどいい状態だ。

 冒険者ギルドには中堅ランクである冒険者達が依頼を求めて集まっている。

 ダンジョンにも潜れないとなると結構暇を持て余してしまうのだ。


「依頼がまったくないなぁ……強くなるために実戦経験積みたいのに」


 俺らエターナルホープは先のスタンピードの功績があってBランクになっている。

 火竜をどうにかできなかったのだが、抑えてくれたことが評価された。

 ギルドマスター直々に言われたので、おとなしく従っている。

 なぜか、肩を強く握られたのだが、なぞだ。


「イーヴェリヒト周辺の他のダンジョンに行ってみるのはどうですの?」

「もっと強い敵とたかいたいのだ―!」

「ダンジョンでお宝さがししたいにゃー」

 

 エリカ、セリーヌ、リサが俺にべったりくっついてくる。

 周囲の視線がいたい。

 いや、ほんとにマジでいたい。

 殺気こもっている奴だっているし……。

 左腕と背中に柔らかいものの感覚がしていた。

 右腕からしないのは……察してくれ。


「周辺のダンジョンか……全然知らないからなぁ……」

「ジュリアン、今日は見せつけに来ているのか?」

「そういう意図は俺にはないんだ、アーヴィン」

 

 ため息を漏らしながら、俺はアーヴィンに周辺のダンジョン情報について聞いた。


「そうだなぁ、鉱山ダンジョン以外だと……近場なら、焔の神殿だな」

「炎系のモンスター類が出る場所か?」

「ああ、お前さんも火竜対策をしたいといっていたじゃないか、ちょうどいいだろ?」


 ほんとアーヴィンは俺の気持ちを分かってくれる。

 5年の付き合いはだてじゃないな。


「ありがとう、じゃあ行ってみるよ」

「徒歩じゃないといけないが、ふもとの村までは1日でいけて、山登りの準備はそこでも整えられる。気になったら行ってこい」

  

 ぐしぐしと力強く頭を撫でてアーヴィンはギルドの受付嬢と話をしはじめた。

 俺は乱れた髪を整えると引っ付いている3人に言う。


「レイナにも声をかけてから、いくか焔の神殿へ」

「「「了解!」」」


 俺は痛い視線を避けることもあって、そそくさっと冒険者ギルドを後にするのだった。


■イーヴェリヒト ストーンブレイカー錬金工房


 レイナは冒険者が本業ではないので、大体は工房でポーションづくりをしたり、回収した素材を研究したりしていた。

 俺達が工房に向かうと、工房には冒険者ギルドのギルドマスターがいる。


「おう、ジュリ坊じゃねぇか」

「ギルドマスターがなんでここに?」

「あん? おめぇ、俺の名前で気づかねぇのか?」

「ギルドマスターの名前はパトリオット・ストーンブレイカーだろ? で、ここはストーンブレイカー錬金工房だから……あぁ!?」


 俺はその時になって初めて気づいた、ギルドマスターとレイナって親類ってことぉ!?

 そりゃあ、ギルドマスターが俺に対して意味深な態度をとってくるわけだ。


「ああ、ジュリアン来てくれたんやな。今日はどないなようなん?」

「そのまた別のダンジョンに行くからどうかって話だったんだが、お取込み中か?」

「おとーちゃんのことは気にせんどいてーな。この辺のダンジョンいうたら、焔の神殿かいな?」

「その通りだ。一緒にいってくれるか?」

「ジュリ坊よ、おめぇさんのことは評価しているが、うちの娘を危険にさらしたことだけは納得できてねぇんだよ。何かあったとき責任取ってくれるんだろうなぁ?」

 

 俺の問いかけにレイナではなくギルドマスターが答えてた。

 話に聞く限り仕事のできる人と聞いていたんだが、娘がかかわるとダメになるタイプらしい。

 ギロリと俺を睨みつけて、肩をギリギリを掴んできてもいた。


「せ、責任とるから! 話してくれ!」

 

 とにかくダンジョンに行きたい俺はそれだけ返事をして、解放を求めた。


「だ、そうだ、レイナ」

「お、おとーちゃん!? 何を言わさせとんの!」


 レイナが顔を真っ赤にしているが、俺は何のことなのかさっぱりわからない。

 ただ、一緒にダンジョンに行けるならそれでよかった。


「ジュリアン! ウチはウチのためにジュリアンと一緒に冒険するんやから、気にせんといてな。ほれ、頼まれてた改造小手や」

「サンキュー!」

 

 俺はいまだに顔を赤くしているレイナをよそに俺は小手を受け取る。

 一見普通の小手だが、実はコイルを巻いた電気発生装置付きの代物だった。

 磁力自身が弱まってしまう状況でも戦いやすくするためのものである。

 電気の発生ができるようになれば磁力魔法の活用範囲はより広がるはずだ。

 また、誘導加熱についても実験していきたい。


「いい笑顔ですわね」

「ジュリ坊のそういう顔、あちし好きニャ」

「さぁ、ダンジョンへ冒険にいくのだー!」


 好き勝手にワイワイする女子たちと共に俺は焔の神殿に向かう準備を整えるのだった。




 














 

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