第22話 緊急事態

■剣闘都市グラディア


 リリアンからスタンピードが起こっていることを聞き、イーヴェリヒトへの帰りを急ぐことになった。


「スタンピードって、ダンジョンからモンスターが溢れるアレだよな?」


 ハイポーションを飲んで、動けるようになった俺は闘技場から街の外まで移動している。

 メンバーはリリアンにエリカにリサそして、なぜかついてきているセリーヌだ。


「私はお前の奴隷になるのだ。お前が行くところは私の行くところなのだ」

 

 ぶるんと爆乳を揺らし、グレートソードを肩に構えながらセリーヌはにやりと笑う。

 実力としては助かるのだけど、動機が不純すぎて連れていきたくなかった。


「わかったから、あんまり俺の奴隷とかと吹聴しないでほしい……」

「なんでなのだ?」


 きょとんと首をかしげるセリーヌは見た目や年齢は年上であるものの子供っぽさを残している。

 そして、セリーヌの反応をニマニマといやな笑みを浮かべているのがリリアンだった。


「ジュリアンも奴隷を飼うようなことになるなんて……これはエレナにも教えてあげなくちゃ!」

「やめてくれぇぇぇ! 誤解が増えるから!」

「誤解じゃなくて、事実なのだ」

「ややこしくしないでくれよ……」


 わちゃわちゃと盛り上がっていると、街の外にある広い空き地のようなところにたどりついた。


「ここでどうするのですか?」

「師匠から、転移のスクロールをもらってきたから、これで一気に移動するわよ」

 

 エリカの問いかけにリリアンは胸元からスクロールを取り出して、広げた。

 転移のスクロールなんて高価なものをどうして持っていたのか不思議ではあるものの、5日間もかけて移動していてはスタンピードを防ぐことはできない。

 いちいち細かいところは突っつく必要はなかった。

 胸元からスクロールを取り出したのも今は触れない。


「イーヴェリヒトの郊外まで……『テレポート』」


 スクロールを頭上に放り投げて、魔法を唱えるとスクロールが燃えて消えたかと思うと、魔法陣が地面に光で描かれていく。

 描き切ったあと魔法陣から光が溢れて上空へ登っていくと共に俺たちの体はその場から消えた。


■鉱山都市イーヴェリヒト


 町の外の人気のない空き地に俺たちは移動している。

 一瞬の出来事で便利なのだが、スクロールであることも考えると高価だったり制限がありそうだった。

 お金を稼げたら、イーヴェリヒトの移動スクロールをいくつか所持しておきたい。


「目立たないように街の外に来たんだろうけど、現状はどうなっているんだ?」

「そこは俺から説明しよう。一緒に行動するのは久しぶりだな、ジュリアン」

「アーヴィン! 待っていてくれたのか」


 俺は出迎えてくれた人物と握手をする。

 こうして直接話すのはずいぶん久しぶりだった。


「現在は鉱山迷宮の入り口を封鎖中。あふれ出てはいないがダンジョン内のモンスターは活性化しているので今夜あたりが山場になるな」

「ダンジョン内に取り残された人はいるのか?」

「情報が錯綜しているので、確認できていないが俺達”鋼の守護者”をはじめ、Cランクの上位からBやAのパーティには捜索の指名依頼がでているぞ。もちろん、エターナルホープにもだ。やるかやらないかは危険度も高いので任意になっているがランクアップの保証はしてくれるそうだぞ」

 

 急なスタンピードの予兆のため、急いでギルドも動いているのだろう。

 BやAランクパーティも駆り出されているところから、危険度の高さがうかがえた。


「俺達はまだ地底湖くらいまでしか潜れてないから、捜索で深くは潜れないぞ?」

「なぁに、そこは複数パーティでの依頼だ。お互いをカバーしあえればもっと、奥まで潜れるさ」

 

 アーヴィンが心配ないと言いたげに俺の肩をたたく。


「それでだ、俺から一つ聞きたいんだがお前はハーレムパーティを目指しているのか? 新顔の女がいるようなんだが……」

「私はジュリアンの奴隷なのだ」

「そこは……あの……」

「ジュリアンさん、その年から不純なのはいけないですよ? スタンピードを解決したら、もらいますから」


 アーヴィンに気取られて気づかなかったが、エレナさんもその場にいたようだ。

 笑顔を浮かべているが目が笑っていない。

 早くスタンピードを解決しないといけないが、解決後の説明をどうしようかと俺は悩むしかなかった。

 

 

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