第15話 ミネラバの闇
「すみませーん!!」
アランは倒れていた男を背負い、小屋の扉を叩く。
何度か扉を叩くと、古びたドアがゆっくりと開いた。
「なんじゃ、騒がしい…」
中から出てきたのは、白い長髪をポニーテールに束ね、丸い眼鏡をかけた老婆だった。よく見ると、老婆は倒れていた男と同じ民族衣装を身につけていた。
老婆は曲がった腰を叩きながら、大きな欠伸をする。
「あの…少しこの小屋を貸していただけませんか!?道で倒れていた人を見つけて…」
その言葉を聞いた瞬間、老婆の顔はキリッと引き締まる。
「怪我人か?どれどれ…っ!!お主は、ロマーニ!?」
老婆はアランの背中に背負われている男を見て、驚いた表情を浮かべる。
「知り合いなんですか?」
「あぁ、奴とは昔同じ町に住んでおった…。さ、とりあえず中へ!奥のベッドに寝かせるのじゃ!」
老婆に言われた通り、アラン達は小屋の中へ入りベッドの上に男を寝かせた。
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「これは酷い…。肋を何本か骨折しておる。恐らく相当な力で殴られた蹴られたかしたのじゃろう…」
老婆は男の服を脱がせ、体を見る。
すると、男の体には無数の傷と痣が痛々しく広がっていた。
「酷い怪我だな…一体何があったんだ?」
「…とりあえず、"癒の印"を使おう。さ、お前たち、離れるのじゃ」
そう言われ、アラン達は老婆の周りから離れる。
老婆は男の上に手のひらを向け、目を瞑る。
「癒の印!!」
ベッドの上の男が光に包まれていく。
ある程度経って、光が消えると、男の体の傷や痣は綺麗さっぱり消え、元の体に戻っていた。
「すごいな…これが印術か…」
「あれを私が使えるようになれば…」
リサはそんな事を考えながら、老婆を見つめていた。
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「ふぅ、これでとりあえずは大丈夫じゃろ…」
老婆は一息つくと、木製のデスクに腰掛ける。
デスクの上には、さまざまな薬品や顕微鏡など、すこし怪しげなものが置かれていた。
「そうじゃ、お前たち名前は?」
「俺はアランです。で、こっちの赤い髪がリサで、青い髪がエルザです」
「そうか…アランにリサにエルザ…。いい名前じゃな。私はローズ。一応医者をしておる。まぁ今は引退して薬を作り続けておる毎日じゃがな…」
「ローズさん、あの男の人は…」
「奴はロマーニ。この近くにあるミネラバの村人じゃ。一体なぜ奴があんなに傷を負っていたかは分からんが…何かに巻き込まれたと見て妥当じゃろう」
「さっきロマーニさんがミネラバを助けてって言ってたんです…。何か心当たりはありますか?」
老婆は少し考えてから口を開く。
「いや…わしは元々ミネラバに住んでおったのだが十年ほど前に出てきてしまったからな…。今町がどうなっているかは分からん…」
「そうですか…とりあえずロマーニさんが目を覚ますのを待たなきゃいけないですね…」
「そうじゃな…」
皆が考え込む中、アランが口を開いた。
「それじゃあ、俺がミネラバを見てきますよ!」
「ミネラバを?…まぁ確かに気にはなるけど…大丈夫なの?」
「大丈夫!見てくるだけだって!ロマーニさんがいつ目を覚ますか分からないし、どちらにせよ俺たちはミネラバに行かなきゃ行けないんだ!とりあえず様子見をしてこなきゃ!」
「それなら私も行くよ!ミネラバがどんな所か気になるし、どうなってるかも気になるからね。リサは?」
リサは少し考え込む。
「…私はここに残るわ。二人とも、様子見お願い!」
「そうか、分かった!ローズさん、リサをお願いしても大丈夫ですか?」
「あぁ、わしは大丈夫じゃが…。あまり無理はするなよ、ロマーニの傷は尋常なものでは無かった…。何かあるのは確実だからな」
「はい、それじゃあ行ってきます!リサ、地図を!」
アランはリサから地図を受け取ると、エルザと共に外へ出ていった。
「…なかなか勇敢な子達じゃな」
「私たち、勇者団を目指してるんです。だから、困ってる人がいると放っておけないって言うか…」
「そうか…勇者団か!なかなか懐かしい響きじゃなぁ!わしは昔、勇者団にいたことがあるぞ!」
「本当ですか!?」
「あぁ、勇者団の本拠地…アルハリアで"医療兵"をしておった。ま、十年以上前のことじゃがな」
「そうだったんですね…。そうだ、ローズさん、一つお願いがあるんです!」
「お願い…?」
「はい、私に、癒の印を教えて下さい!!」
そう言うと、リサはローズの前に立ち深々と頭を下げる。
「癒の印を?…まぁ、別にええが…そう簡単に身につくものではないぞ。ある程度の時間はかかる。その覚悟は出来ておるか?」
「はい、出来てます!癒の印を使えれば、旅もある程度の安心が出来ると思うんです!」
「まぁ、確かにそうじゃな…。じゃが、まずは癒の印ではなく回復の印からじゃ。そうと決まれば早速始めよう。ロマーニが起きない事には何も始まらんからな」
「はい、ありがとうございます!」
「それじゃあ外へ行くぞ。印術について教えよう」
二人はロマーニを残し、小屋の外へ出た。
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「ミネラバはこっちの方だな…」
アランとエルザは地図を頼りに、森の中を突き進んでいた。
「一体何があったんだろうね…。結構酷い傷負ってたみたいだし…」
「そうだな…全く、このあたりの街はどうしてこう問題ばっか抱えてるんだろうなあ…」
そんな事を話しながら歩いていると、森の出口が見えてきた。
「おっ、出口だ!あの先にミネラバがあるぞ!」
「やっとだね…」
二人は森を抜け、開けた場所に出た。
「ここがミネラバか…」
森の先には、大きな山と、その麓に幾つかの木造の建物が並んでいた。
「すごい山だね…?アラン、あれ見て」
エルザが指さす方を見ると、そこにはうなだれた男の姿があった。
「あの服…ロマーニさんとローズさんと一緒だ…。って事はミネラバの人だな」
「でもどうしたんだろ…なんか悩んでるみたいだけど」
「ちょっと話を聞いてみよう」
そう言うと、二人はうなだれる男の方へ歩いて行った。
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「あの…」
アランはうなだれる男に声をかける。
しかし、男は全く反応せずうなだれたまま動かない。
「大丈夫ですか?」
エルザが男の肩に触れる。
すると、男はゆっくりと顔をあげる。
「!?」
その男の顔を見て、二人は驚きの顔を浮かべる。
その男の顔は、まるでゾンビのようにやつれ、一切生気を感じられない、恐ろしいものだった。
「な、なんだ!?どうしたんだ!?」
男はアラン達を見つめたまま、動くこともしゃべることもなくただぼーっとしたまま動かない。
「これ、普通じゃないよね…?一体何が…」
そんな時、町の奥からカン!カン!と高い音が聞こえてくるのが分かった。
「なんの音だ…?ちょっと行ってみよう」
「うん、行こう」
二人は恐る恐る、町の奥へ歩いて行った。
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「これは…」
「何…?これ…?」
アランとエルザは、大きな窪みの上に立ち唖然とする。
その窪みの中では、"鉄屑でできた傀儡人形"のようなモノがひたすらピッケルを振り、鉱石を掘っていた。
「なんだあの鉄の人形は…」
「生きてるの…?」
二人は、余りに歪な光景に少し恐怖を覚える。
そんな時、町の向こうから声が聞こえてくるのが分かった。
二人は咄嗟に物陰に隠れ、様子を伺う。
「おい、ベガッジ!新しい傀儡人形は出来たのか!?」
「はい、ある程度の数は…。それよりディオゲイン様、まだあの男…ロマーニは捕まっていないようですが大丈夫なのですか?」
「あぁ、あいつか…まぁ奴には痛い目を見てもらったからな!どこかでのたれ死んでるだろう、放っておけ!さぁ、今使ってる傀儡人形も古くなってきた!早速新しい傀儡人形に移し替えるぞ!」
そう言うと、人影は町の奥へ消えて行った。
「聞いたか?エルザ」
「うん、ロマーニさんを酷い目に合わせたのはさっきの奴みたいね…」
「とりあえずローズさんの所へ戻ろう。奴らに見つかったらめんどくさそうだ…」
「そうだね…」
こうして、二人はコソコソっと移動し森に戻って行った。
続く。
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