第25話
「恐らく……心労による気絶じゃな」
ナーサと共に駆け付けたザジが、ベッドで眠るエルシャールを見下ろして診断内容を告げた。
その言葉を受けてソレイユはナーサから攻めるような目を向けられる。
「何もしてません」
「……そのセリフは何かした人のセリフですよ坊ちゃん」
ナーサはへぇ、と何処かソレイユを馬鹿にしたような口振りで返事をしてから正論を返した。
その言葉にソレイユは感情の読めない笑みを浮かべて言葉を繰り返す。
「急に考え込んだと思ったら苦しみだしたんです」
「あら、考えさせるようなことをさせているじゃないですか!」
感情的になったナーサはソレイユの揚げ足取りをすると、攻めている事を隠しもしないで睨みつけてくる。
その様子はすっかりエルシャールに同情的になっているようで、ソレイユはこうなってしまったナーサは何を言っても小言が帰ってくることを悟ると黙って笑顔だけを浮かべてその場を凌ごうとした。
「まあまあ、落ちつきなさいナーサ、……ソレイユ様は何を伺ったんじゃ?」
「……傷の容態について伺っただけですよ」
正直にラビリンス家での待遇を聞いて苦しんだと言えば非難される事は想像がついていたソレイユは当たり障りなく答えた。
2人ともソレイユの言葉を聞いてエルシャールに意識が向いたのか。
2人して同情的な表情を浮かべると、ナーサはかさついたエルシャールの唇に濡らしたガーゼで水分を与えたりと甲斐甲斐しく世話を始めた。
「背中はそれはそれは酷い有様でしたよ」
ナーサはソレイユに言うでもなく、ひとり言のように呟いた。
ソレイユは彼女の言葉に内心でそうだろうな、と納得の言葉を返す。
直接みたのは、エルシャールの足くらいだったが、そこには日常的につけられて消えない痣や傷は見るに堪えないものだった。
新しい傷も多く、エルシャールが社交に出てこない理由はこの傷たちによるものだろうという事はソレイユにも簡単に想像することが出来た。
「いつごろ目が覚めますか?」
「明日には何もなければ目を覚ますだろう、心労ももちろんだが殆どは疲れと右足の傷から出ている発熱を抑える解熱剤の影響じゃな」
ナーサの言葉に触れずに、ザジに質問したソレイユは懐から懐中時計を取り出して時間を確認すると、ナーサに声を掛けた。
「少し出てきます、見送りはいりません。後の事は頼みました」
「わかりました、いってらっしゃいませ旦那様」
ナーサはエルシャールの髪を梳く手を止めて、ソレイユが何かしようとしている事を感じ取ったのか、小言も言わずにお辞儀をしてソレイユを見送った。
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