199 第二計画

「おい、スナイパーライフルを」


「おいじゃなくて里奈! 私には宍戸里奈って可愛い名前が」


「いいからそいつをよこせ!」


 手島は里奈から狙撃銃を奪った。

 しっかり構えてクロードの頭部を狙う。


「これで終わりだ」


 照準を合わせると、手島は引き金を引いた。

 銃声と共に弾丸が発射され、一直線にクロードの顔面に向かう。


「なに!?」


 ――が、直前のところで防がれた。

 見えない壁が攻撃を阻んだのだ。


 クロードの視線が手島に向く。


「フハハ、馬鹿め、そんなものは対策済みだ」


 手島はため息をついた。


「やはり銃じゃ仕留められないか。漆田君の作戦に従ってザコを狩るぞ」


 麻衣、里奈、琴子の三人が「了解!」と口を揃える。

 手島を含む四人は、自動小銃でノーマル徘徊者の掃討を開始した。

 俺たちに当たらないよう遠くの敵を狙っている。


「銃が効かないなら俺たちでやるしかねぇ!」


「最初からそのつもりっすよー!」


 俺たちはクロードに接近戦を仕掛けた。

 まずは燈花が正面からタックルを繰り出す。


「おお、これはなかなか、凄まじい威力だ」


 クロードは避けることなく受け止めた。

 さらに、左右の手を全て使ってタロウを掴み――。


「ふん!」


 ――豪快に放り投げた。


「ブゥ!?」


「うひゃー」


 タロウと燈花が徘徊者の群れに飛んでいく。

 徘徊者はワラワラと群がって襲いかかるがダメージはない。


「もらった」


 隙を突いて由香里が矢を放つ。

 クロードの死角に回っての一撃だったが防がれる。

 またしても見えない壁だ。


「俺には遠距離攻撃の無効化がデフォルトで施されている。もっとも、そんなものがなくても不死身だがな!」


「ほざけ!」


 俺はクロードに斬りかかった。

 馬鹿正直に正面から攻めたこともあって通用しない。

 召喚した刀を使って軽々と止められる。


「俺の言葉が聞こえなかったのか? 不死身だと言っている」


「ならお前はどうしてガードをする? 弱点があるんじゃないのか? 本当に不死身ならガードをせずに攻撃を受ければいいだけの話だろ!」


 鍔迫り合いになりながら話す。

 その最中にも側面から涼子や彩音が襲いかかる。

 ――が、それすらも余裕で対応されていた。


「なるほど、それがお前らの希望になっているわけか」


 クロードは後ろに控える愛理を見た。


「アリィ、お前はずっと俺の傍にいたから知っているはずだ。こいつらの行為が無駄であることを」


「答えになっていない。漆田風斗の言う通り、本当に不死身ならガードをする必要がない。それでもガードをするのには理由があるはず。私も彼らと同じでその可能性に賭けている」


「ふっ、馬鹿げたことを。そこまで頭が悪いとは思わなかった」


 クロードは力を強めて俺を押しのけた。

 先ほどまで俺のいたポジションに武藤が入ってクロードに殴りかかる。

 彼はかつての栗原同様、両手にナックルをつけていた。


(なんだこいつ……!?)


 武藤の動きを見て愕然とする。

 〈強化Lv.3〉のかかっている俺よりも速い。

 もっと言えば、強化前の栗原をも凌駕する強さだ。

 それでも〈強化〉がない以上、クロードを追い詰めるには至らない。

 武藤の拳に対応しながら、クロードは話を続けた。


「俺がガードする理由は一つ。不死身だろうと攻撃を受けるのは癪に障るからだ」


「そのセリフが本当かどうかは、お前を殺し続ければ分かることだ」


 武藤が怒濤の連打で攻め込む。

 それを涼子、彩音、由香里が側面からサポート。

 俺は愛理の傍まで後退して備える。


「武藤真、お前には〈マーカー〉がついていない。ならばスキルの効果を得られていないだろう」


「だったらどうした」


「つまり今この時でも、俺はお前を殺せるということだ」


 クロードは女性陣への対応力を弱め、武藤に対する攻勢を強めた。

 攻撃に使う腕の数を増やして武藤を追い詰めていく。


「ぐっ……」


 回避を駆使する武藤だが、形勢は決して良くない。

 彼の避けきれない攻撃は女性陣が盾になって受けた。


 しかし、そうした身代わりの防御もそろそろ限界だ。

 早くも〈無敵〉の効果時間が終わろうとしていた。


(くそ、やはり厳しいか……)


 俺たちはチャンスを窺っていた。

 決定打を与えられる千載一遇の好機を。


「ブゥウウウウウウウウウ!」


 そんな時、遠くからタロウが突っ込んできた。

 徘徊者を吹き飛ばしながら一目散にクロードの背中を狙う。


(時間的にあれが最後のチャンスになるな)


「愛理! 今だ!」


 俺の合図で愛理が動く。

 右手を掲げてポータルを生成した。


 黒いモヤモヤが俺の目の前に現れる。

 これによって、俺とクロードは互いに視認できなくなった。


「ここでポータルだと!?」


 驚くクロード。

 そんな奴の背後に、出口となるポータルが出現。


「なるほど、サイが当たるタイミングを分かりづらくする狙いか! だが、サイの移動速度から逆算すれば衝突のタイミングなど容易に分かることだ!」


 完全にこちらの術中に嵌まった。


「それはどうかな」


 俺はポータルを抜けてクロードの背後に回った。

 一方、タロウは進路を変えてクロードの側面に流れていく。


「愚かな! 奇襲をするなら黙ってしなければ意味がないぞ!」


「もう一度言う――それはどうかな」


「なんだと!?」


「ウホホオオオオオオオオイ!」


 今度はジロウの咆哮が響く。

 タロウや武藤が派手に動く裏で、密かに回り込んでいた。


「いけぇ! ジロウ!」


「ウホホオオオオオオオオ!」


「馬鹿め! ポータルで見えずとも〈マーカー〉で分かる! 漆田風斗、貴様だけでなくゴリラが潜んでいたこともお見通しだ! 奇襲をするなら黙ってしろと言ったが、俺には黙っていたとしても通用しない!」


 クロードが体を回転させて後ろに向く。

 その時、愛理がポータルを消した。


「なに!? 漆田風斗がいないだと!?」


 クロードの視界に映るのはジロウだけだった。


「だが、〈マーカー〉にはたしかに漆田風斗も――」


 ハッとするクロード。


「上か!」


 そう、ジロウは俺を上に飛ばしたのだ。

 スキルの存在を知ってすぐの頃、涼子にしたのと同じように。

 あの時はジャイアントスイングだったが、今回は普通に放り投げた。


「お前が平面でしか居場所を察知できないことは愛理から聞いていた! 〈マーカー〉に頼る戦術が裏目に出たな!」


 俺は降下に合わせて刀を振り下ろした。

 まずは奴の左腕全20本をまとめてぶった切る。


「今のはお前のインチキのせいで死んだ毒嶋とパンサーの分だ!」


 続いて下から上に振り抜く逆袈裟斬りで右腕を全て切断。


「これは栗原の分!」


 両腕がなくなったクロードは、足から剣を伸ばして悪あがき。

 種が割れていればどうってことはないので軽く回避。


「そしてこれが――お前のせいで散々な想いをした全日本人の分だあああああああ!」


 俺のはクロードの首を容赦なくねた。


「やるではないか漆田風斗! 最後の最後で一矢報いたな! 全く意味の無いことだが、それで貴様らの哀れな人生にも彩りが――ぬっ!?」


 宙を舞う頭部だけの状態で話していたクロードだが、途中で異変が生じた。


「何故だ!? 何故、再生しない!? どうなっている!?」


 地面に転がるクロードの頭部。

 顔からは余裕が消えている。

 胴体のほうはその場に崩れ落ちていた。


「ここまで隠し通すのに苦労したぜ」


 俺はニヤリと笑い、そして、宣言した。


「クロード、お前はもう再生しない――俺たちの勝ちだ」

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