成り上がり英雄の無人島奇譚 ~スキルアップと万能アプリで美少女たちと快適サバイバル~

絢乃

第一章:集団転移

001 転移

 気が付くと、俺――うるし風斗かざとはどこぞの砂浜に倒れていた。


「一体全体どういうことなんだよ」


 そう言わずにはいられなかった。


 記憶の最後は学校の教室。

 時間は昼で、俺は黙々と弁当を食べていた。

 スクールカーストの最底辺に相応しい孤高の一人メシ。


 周りの連中は夏休みの予定について話していた。

 来年は受験だから高2の夏は弾けるぞ、と。


 そんな輪に入れず、ぼっちの俺は弁当を済ませてトイレへ。

 サクッと小便を済ませたら教室に戻り、机に突っ伏して眠りに就いた。


 ――で、目が覚めたら今、謎の砂浜だ。

 南国の島を彷彿とさせる場所だが、全く覚えがなかった。


「記憶が欠落しているのか?」


 と思ったが、そんなことはないようだ。

 その証拠とばかりに俺は制服を着ており、靴も校内用の上履きだ。


 唇を舐めるとソースの味がした。

 昼食の弁当に入っていたミートボールのソースだ。


 間違いない。

 つい先程まで学校にいたのだ。

 それ以外に説明のしようがなかった。


「意味が分かんねぇ……」


 前方に広がる海は綺麗なものだ。

 海鳥が鳴いているだけで、人や船は見当たらない。


 振り返ると深そうな森があった。

 遠目に薄らと大きな山が見える。


 前も後ろも大自然。

 道路や建物といった人工物は全くない。


「とにかく動くか」


 突っ立っていても始まらない。

 ここが何処だとか、そんなことを考えるのは後回しにしよう。

 まだ童貞、彼女すらできたことないのに野垂れ死ぬなどありえない。


 勇気を振り絞って森の中へ足を踏み入れた。

 知らない森が危険なことは分かっているが仕方ない。

 他に選択肢がなかった。


 それに砂浜と違って希望がある。

 もしかしたら森の中に誰かいるかもしれない。


「なんだこの森……」


 眉間に皺が寄る。

 木々にっている実が毒々しい物ばかりなのだ。

 食べられるかどうか以前に、素手で触って大丈夫なのか不安になる。


 一方、森の中自体は快適だ。

 蚊やハエは飛んでおらず、気温も真夏なのに涼やか。

 湿度も低く、カラッとしていて不快感を抱かない。

 半袖の夏服でちょうどいい。


「富士の樹海を思い出すな」


 何年か前、親に連れられて樹海を散策したことがある。

 もちろん散策用に整備されたコースだ。

 今いるこの場所はそれと似たような雰囲気をしていた。


「きゃあああああああああああああ!」


 集中力が低下してきた時、女の悲鳴が聞こえた。

 反射的に声のする方へ目を向ける。

 数十メートル離れた地点に同じ学校の女子がいた。


「あれは!」


 同じクラスの夏目麻衣まいだ。

 白銀のミディアムヘアだから一瞬で分かった。


 麻衣はクラスの人気者だ。

 SNSでも大人気で、70万人以上のフォロワーを抱える有名人。

 休み時間になると彼女の周りは人で溢れていた。

 まさに俺とは真逆の存在。


「なんだよコイツ! この! この!」


 麻衣は木の棒を振り回して何かと戦っていた。

 それが何かは分からない。

 分からないが、俺のするべきことは決まっている。


「今行くぞ! うおおおおお!」


 俺は駆け出した。

 麻衣を助ける為に。


 別に英雄ヒーロー願望があるわけではない。

 どちらかといえば自分の都合だ。

 今は孤独でいるのがこの上なく嫌だった。


 距離がぐんぐん近づいていく。

 麻衣が戦っている生き物の正体が分かった。


 角の生えたウサギだ。

 サイズは一般的なウサギより一回りほど大きい。

 それでもウサギはウサギなので小型だし怖くはない。


「どりゃあ!」


 俺は横から割って入り、ウサギを蹴飛ばした。

 これがイメージしていたよりも綺麗に決まった。

 ウサギはサッカーボールのように吹き飛んで木に激突。


 そして――消えた。

 逃げたのではなく、手品のように忽然と消えたのだ。


「消えたぞ!?」「え、消えた!?」


 当然ながら俺達は驚いた。


(ハッ、それよりも!)


 俺は大きく息を吐き、麻衣を見た。


「大丈夫か? 麻衣」


 さらりと言う。

 思えば彼女の名を呼ぶのはこれが初めてだ。

 皆が「麻衣」と呼んでいるので、俺もそう呼ばせてもらった。

 呼んだ後に「馴れ馴れしすぎた」と焦ったが後の祭りだ。

 平静を装う。


(我ながら驚くほど完璧、あまりにも理想的な流れ)


 この後の展開は決まっている。

 麻衣は吊り橋効果も相まって俺に惚れてしまう。

 そして俺は人生初の彼女をゲットする。

 ――と思ったのだが、そうはならなかった。


「え、嘘ぉ!? 漆田が喋ってる! 漆田って喋れるんだ!?」


「…………」


「角ウサギが消えたことよりも驚きなんだけど! あんた喋れんの!?」


「…………」


 彼女は俺が話せることに驚いていた。

 角ウサギよりも衝撃的らしい。

 興奮から抱いた妄想はあっけなく潰えた。


 思えば無理もないことだ。

 俺は学校だと「うん」か「いや」しか話さない。

 そんな奴が平然と話していたら誰だって驚く。


 別に人見知りというわけではない。

 中学時代は普通に話していたし、少ないながら友達もいた。

 今でも高校に通う時以外は普通に話している。

 今日だってご近所の野村さんに俺から挨拶した。

 見た目は地味でも陰キャではない。陽キャでもないが。


 高校で話さないのは、高校デビューに失敗した後遺症だ。

 中学時代の同級生がいない私立高校へ進学したので、ミステリアスな男を演出しようとした。

 その一環として寡黙クールに徹した結果、「まともに話せない残念な奴」と思われたわけだ。


 後はお決まりのパターン。

 素の自分に戻すタイミングを逃し、そのまま今に至る。


「いや何か話せよ! さっき話してたじゃん!」


 麻衣が手の甲で胸を叩いてきた。

 お笑い芸人のツッコミを彷彿とさせるキレの良さだ。


「いや、話せるよ。それより大丈夫?」


「大丈夫! サンキュー漆田! あ、漆田であってたよね? 名前」


「あってるよ。漆田風斗だ。風斗って呼んでくれていい」


「オッケー風斗ね! 私のことは……って、さっき普通に名前で呼んでたね」


「おう」


 麻衣が「ぷっ」と吹き出す。


「それだけ話せるならどうして学校で無言だったの」


「それは……」


 後頭部を掻きながら事情を話そうとする。

 その時、ズボンのポケットから「ピピピー」と音が鳴った。

 なんだなんだと取り出したところスマホだった。


「そういやスマホを持っていたんだったな」


「え、気づいてなかったの!? 普通こんな意味不明な事態に陥ったら真っ先に救助を要請しようとするでしょ!」


「たしかに。それは賢い手だ」


 麻衣が「変な奴だなぁ」と笑う。

 俺は「フフフ」と意味深ながら意味の無い笑みを浮かべてスマホを見る。


「で、何だったの? 外部との連絡はできないはずだけど」


 麻衣が尋ねてきたので、俺はスマホの画面を見ながら答えた。

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