#4
後攻は古狸。
老狐の失敗を学習した彼は、「残り物には福がある、ですなぁ」とほくそ笑みながら木の葉を頭に乗せます。
「『飼い犬』が駄目というなら、こっちは『野良犬』、それもへなっちょこの小犬はやめて、男らしくいこうじゃぁないか!」
不敵に笑ってまじないを唱えた古狸は砂埃を携えて踊ると、忽ちに隆々とした体つきが逞しいドーベルマンに化けました。
「完璧……これでちょいと洒落込みましょう」
ふらりと里の中の茂みを進んだ古狸もとい、ドーベルマンが歩くだけで野犬を怖がる民衆は、誰か誰かと助けを求めてに逃げ回ります。気分が良いドーベルマンは適当に選んだ飼い犬に唸りながら近寄ると、飼い主はなりふり構わず逃げ出し、恐怖で足が竦んだ飼い犬が絶望を浮かべた瞳で怯えました。
「ひえぇぇ……お助けを!命だけは許して下さいッ」
──チョロいのう。
鋭い目付きで負け犬を見つめるドーベルマンは、心の中でしめたと手を叩きました。
─────
ひと暴れして疲れたドーベルマンは、山を下ってから1日と経たないうちに暴れ犬として恐れられます。
「きっと飼い主に捨てられたんだ、このまま放っておいたら大変……速やかに殺してしまおう」
人々が井戸端会議を開くのを知るよしもない古狸は、大きくいびきをかいて眠りました。
「こんなところにいたぞ……さぁ捕まえろ!!」
曙色の空の下、男達の荒々しい声が聞こえます。驚いて飛び上がったドーベルマンに向かって放たれた網を避けながら、思わず古狸は顔を顰めます。
──この人っ子め、僕が恐ろしいからと寝込みを襲うとは……ッ
その後も里の中を追いかけ回されたり、微かな音にも気の置けない不安定な日々を過ごしたり、果ては捕獲用の罠を仕込まれて辟易した古狸。
どうしても安寧の世界、いつもの森が恋しくなった彼は、狩人が寝静まった新月の晩にまじないの術を解いて犬神と老狐の元へと逃げ帰りました。
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