1巻 3章 6話
「僕の馬!ってゆーか、僕のでいいの?」
「クラウンさん背に乗った?選んだ人しか乗せない馬なんです。呼んでみて。」ルイージがせっついた。
「おいで。」クラウンが近づいて首元をなでると擦り寄って来た。クラウンが歩くと一緒について来た。
「ほらほら。僕の言った通りでしょ?」
「シシッ!やっぱ、クラウンのだよな。シルバーの蹄鉄もらったんだろ?」
「あー、じゃあもう間違いない。蹄鉄はギルドに持って行って。保健所の登録もお願いね。」
「船で飼う事になるの?」
「そーゆー生き物じゃないです。精霊?ほったらかしで大丈夫。お世話したいなら今がチャンスよ。はいこれ、ブラシ。こうやって優しくなでて。僕もお世話させてー。」
ルイージがぐいぐい来るので、しなくてもいいお世話をクラウンは楽しんだ。
ナイトメアは漆黒に輝いている。
ブラストがアメを口で転がしながらディスプレイを出して読み上げた。
「ギルドで登録すれば、呼び出して騎乗できる。生き物ではないので一緒には住めない。登録者が死亡すると所有権はなくなる。ナイトメアの特徴は対象1体に悪夢を見せる。だって。それで巨人はああなったのか。ん?ギルドでユニコーン持ってる人もいるー。スゲー。クラウンやったじゃん!」
「討伐レベル35って、こーゆー場合もあるんだ。友達になれて良かった。」クラウンはほっとした。
「そうです。僕が子供の頃に見たギルドの人は、炎の馬で空を飛んでました。みなさん、カピラリイに戻るなら一緒に乗って行きますか?」
「シシッ!ぜひ!」
「もうじき雨季が来て、ここも湖になります。僕もしばらく妹の所へ移ります。お待ちくださーい。」ふりふり小走りで納屋に戻ると、屋根が開き飛行機に乗ったルイージが出てきた。飛行機からエレベータが降りてきた。
「お乗りくださーい。」
クラウンがナイトメアをなでると、ナイトメアは草原に走り去った。
3人と2匹は飛行機に乗り込んだ。
モニターには今までルイージ牧場のお客さんと撮った写真が映し出されている。古いものから、さっきブラストが送った写真もモニターにランダムに出てきた。
「ルイージさん、ピグミージェルボアたちは?」クラウンが聞いた。
「雨季は放牧して元気に過ごします。全部、保健所に登録してあるから心配いらないです。冬季の方が餌がなくてギガスも出るから、お世話しながらレンタルしてます。納屋を高床式ねずみ返しモードっと。」ルイージはスイッチを入れた。
屋根が閉まると納屋の床下の柱が伸び、柱の下に返しが出た。
牧場の柵は開かれた。
ルイージは夕日の草原を旋回してカピラリイに飛び立った。
「あ!マーサーさんからメッセージ来てる。」
クラウンがディスプレイを出した。
「ギルドのみなさん、本当にありがとうございました。お礼をお受け取り下さい。これから病院に行ってきます。良き旅が続きますように。」
「ん?メダカからメッセージだ。」スノーもディスプレイを出した。
「ギルドのみなさん、お疲れ様です。泥棒の捕獲に感謝致します。氷を溶かして、本人を尋問したところ、スワイプ窃盗団のオリビアである事がわかりました。盗みに入ろうとして薄氷に落ち、そのまま凍ってしまった様です。本来は保安警備員がやる事なのですが、雨季は忙しい時期の為、盗品の返却のクエストを引き受けて頂けませんでしょうか?」
「氷漬けで生きてたんだ。しかもマヌケなドロボー。」ブラストは呆れた顔をした。
「オレはいーぜ!またピッツア食べたいしな。」スノーはクラウンとブラストの顔を見た。2人は即答した。
「僕も!」
「オレも!」
スノーはメダカにOKのメッセージを送った。
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カピラリイの美しい夜景が見えてきた。
飛行機はラグーナ・ステーションに到着した。
「必ず妹の店に来てくださいよ。」
ルイージはみなとハグをして別れた。
チョコのプリズムを追ってピッツアのお店に着いたが、お店は閉まっていた。
肩を落としてwolに向かった。
カウンターでメダカとキティが立ち話をしていた。
3人と2匹に気づいて歓迎してくれた。
「おぅ、ヒーローたち。こっちだ。」
キティが自販機の前のイスとテーブルの席に案内した。
「最初意味がわからなかったけど、ウォウォラエを無事に見つけたんだな。ギルドってけっこー無茶するな。けど、ありがとな!」キティは嬉しそうにお礼を言った。
ピッツァが食べられなくて落ち込み気味の3人に心配そうな顔で、メダカは話しかけた。
「お疲れの所すみません。この国の決まりで、泥棒は盗んだ物を返却に行って謝罪し、盗んだ物の価値の2倍の罰金を払うんです。本来、保安警備員が同行するのですが、雨季は保安警備員不足で、返却物のクエストを明日お願いできませんか?」
「盗ったもん返して、謝って、罰金踏み倒さない様に見張ってればいいのか?」スノーが簡潔に聞いた。
「そう!バッチリだよ!詳しいリストは後で送るけど、2件の内1件はウォウォラエのベルトだ。適任だろ?」うなずきながらキティは答えた。
クラウンとブラストもうなずいた。
メダカの顔が明るくなって感謝した。
「ありがとうございます!今夜はゆっくり休んで下さいね。泥棒が多くて、雨季になるとバカンスに出かける人も多いから空き巣事件も増えて困ってたんです。」
「ホント、海はワラスボ・エイリアンで忙しいし、頼む!明日、待ってるわ!」キティが椅子から立ち上がった。
スノーはディスプレイを出して、メダカと確認しクエストを引き受けた。
「ぐーぐー。」クラウンの腹の音が鳴った。
「はは。あんなにカップケーキ食べてたのに。」ブラストが笑った。
「シシッ!ピッツアの店、臨時休業してたもんなー。明日また行こうぜっ。」スノーが言った。
キティが残念そうに教えてくれた。
「近くのペルテか?オレもあの店のピッツアの大ファンなんだよ。泥棒が入ってしばらく休むらしいよ。」
「えーー!!」3人はまた肩を落とした。
キティとメダカに見送られホテルに戻った。
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ホテルのご飯もとても美味しかったが、ピッツアの口になっていた。
ブラストが犬達とベットに寝転がってディスプレイを出した。
「どれどれ?明日のクエストは?スワイプ窃盗団のメンバーオリビア。1件目、教会のライトを返却。2件目、wolの装備ベルトを返却。最後はwolに連行して終わり。うん、シンプル。」ブラストは安心して、犬達とじゃれあった。
「なんでそんなの盗ったんだろ?」クラウンはレモンキャンディーを食べながら天井を見た。
「マニア受けはしそうだけど、もろ盗品って感じだしな。明日、オリビアに聞いてみるか?シシッ!」
「僕、泥棒と話したくない。」
その晩は土砂降りの雨が降った。
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「クラウン!起きろ!見てみろよ。」
スノーに起こされ窓の外を見た。
有翼の獅子の広場が湖になっていた。
金色の有翼の獅子像の足元まで水位が上がり、街並みが変わった。
「わー!水の都ってすごいね!」
クラウンは水面にうつる青空に感動した。
少し遅れて起きたブラストも感動した。
「うおー!」
準備を済ませ、ホテルの水中回廊から街に繋がっている通路を抜けて桟橋に出た。桟橋から歩道橋を渡って水位の上がった運河を見るとゴンドラがたくさん出ていた。
wolに到着すると、メダカが拘束したオリビアを連れて来て、声をかけた。「逃亡すると拘束具の電気で焼かれるからな。大人しく謝罪して来いよ。」オリビアはそっぽを向いた。
「じゃあ、みなさんよろしくお願いします。返却物はこちらです。」メダカはバッグをスノーに渡した。
スノーは「行くぞ。」と声をかけて教会に向かった。その後をオリビアが歩き、その両サイドをクラウンとブラストが歩いた。後ろはゴースト、チョコは教会まで先頭で案内した。
水中回廊には商店街が続き、活気があった。
オリビアはキョロキョロしながら大人しく歩いている。
「ねえ、昨日、大雨降ったんだー。」オリビアがクラウンに話しかけた。
クラウンは無視した。
「しけたガキ。」オリビアが聞こえる声で言った。
教会の地下に繋がる商店街にチョコは進み、曲がり角でくるんと回るとスノーはチョコをなでた。オリビアがスノーに話しかけた。
「トカゲが犬飼ってんの?」
「オレのはお前の後ろを歩いてる。噛み癖がある。気をつけろ。」
ゴーストは唸ってみせた。
お菓子屋におもちゃ&ゲーム屋に服のセレクトショップ、カフェ、クラウンは行きたかった通りを寄り道できずに悔しさでオリビアを睨んだ。
「何よ。」オリビアは顔を背けた。
教会の地下には観光客などが祈りを捧げに、行列ができていた。
スノーは列から離れて、警戒しながら通用口のチャイムを押した。
「ギルドのスノーです。盗品の返却に来ました。」
扉が開き司祭が迎え入れてくれた。
避難口の階段を上がり、聖堂の脇から大きな広間に出た。
祭壇やランプ、タイルがとても美しい清らかな部屋だ。
オリビアは色んな場所を食い入るように見回した。
「お話を伺いましょう。」司祭が立ち止まった。
「えっと、盗んですみませんでした。ランプを返します。」オリビアからは反省の色は見えなかった。
スノーはバッグからランプを取り出し、司祭に渡した。
「罰金も払います。」スノーがディスプレイを出すと司祭が名前の項目を見て言った。「オリビアさん、盗んだ物はこれだけじゃありませんよね?」
オリビアは黙ったままだ。
「このランプは副産物。ですよね?お仲間も捕まりましたか?」
「いや、捕まったのはオリビアだけです。」スノーが答えた。
「オリビアさんが脚立に登ってランプの取り付け工員役、見張り役、注意を引く役。スリ役が別にいて祈りを捧げている方や観光客の皆様から財布や貴重品を盗んでいます。先日、神父が声をかけたところ、ランプを持ったまま走り去りました。」
クラウンはビックリしてオリビアを見た。
黙ったままのオリビアにゴーストが唸って近づいた。
「じゃあ、うわ乗せして払うよ。それでいいでしょ!」オリビアは急に大きな声で怒鳴った。
「あの日、被害に遭われた方にお返ししましょう。サインします。」
スノーはディスプレイにサインをもらった。
司祭は広間の正面の扉を開けた。「罪を認めて、堂々と出て、堂々と生きなさい。」司祭は見送った。
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チョコはプリズムを出して水中回廊の道に顔を向けた。
「雨季はこっちから行った方が早いよ。」オリビアは上に続く階段をアゴで指した。」
「じゃあこっちで。」ブラストが階段に向かって歩き出した。
教会の周りの塀の上は、雨季には通路となって市場へ繋がっていた。
あったりなかった通りは、市場のすぐ近くにある。
白い橋の屋根を越え、渡り廊下へ降りた。
以前、ボートで通った橋の下の運河は小魚の群れが泳いでいる。
アパートのロビーから下りのエレベーターに乗り、ホールに降りた。
ピンクの花の鉢植えが飾ってある、マーサーの家に着いた。
スノーがチャイムを押した。「マーサーさん、ギルドのスノーです。」
中から元気になったウォウォラエの声が聞こえた。
「はーい。みんな待ってたわ〜!」
みなはウォウォラエと握手を交わし、マーサーとハグをして再会を喜んだ。
不機嫌な顔で玄関に立つオリビアをマーサーがソファーに座らせた。
以前、訪れた時の玄関は閉まっていて、窓辺からは水中の街並みが見えた。ピンクの花の鉢植えは部屋の中に飾られていた。
「もう体調はいいんですか?」ブラストが聞くと「ええ。エイリアンに引っ掻かれた所が少し痛むくらいで大丈夫よ。」ウォウォラエは笑顔で答えた。
「妻は冬場でも会社まで走って、体力作りをしています。すごい体力なんです。」マーサーさんが嬉しそうに言った。
スノーがオリビアをつついた。
「はー。盗んですみませんでした。ベルトを返します。あと罰金も。」オリビアは反省の色もなくうつむいた。
スノーが仕方なくディスプレイを出して、テーブルにベルトを置いた。
「wolのベルトで何をするつもりだったの?」ウォウォラエがたずねた。
オリビアは黙ったままだ。
ウォウォラエは続けた。
「近所の商店街で同じ手口の盗難事件があるのよ。何も盗まれていないのにwolの警備員が泥棒を連れて来て、店内を確認すると、この店じゃなかった。と言って帰る。でも店の貴重品や高価な商品がなくなっていた。wolが犯人扱いされて大変なのよ。私のベルト悪用した?」
横で聞いていた、クラウンとマーサーは息を飲んだ。
「盗み放題を止めて。うなずくだけでいいわ。モニカ、メリッサ、ニコラが共犯よね?明日wolで尋問してもいいけど、ここで真実を話せばお互いに明日が良い日になると思わない?」
ゴーストが唸なると、オリビアは顔を歪めてうなずいた。
ウォウォラエはゴーストにウィンクした。
「マーサー、私もギルドのみんなとwolに行ってくるわ。」
ウォウォラエはサインして支度を始めた。
「うん。気をつけてね。みんな、また遊びにきてね。」マーサーはみなを見送った。
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wolに到着して、オリビアは大人しく連行された。
キティが奥から出てきた。
「お疲れさんっ!ウォウォラエまだ休んでなくていーのか?」キティはサインのジェスチャーをして、スノーがディスプレイを出した。
「キティ、オリビアの共犯は間違いなかったわ。防犯カメラに一緒に映ってた3名よ。」
「そうか!じゃー指名手配だな。ったく、今月で何人目だよ。」
ピンクのモヒカンを縦に振ってキティはカウンターのディスプレイで操作を始めた。
「いっぱいいるんですか?」クラウンがウォウォラエに聞いた。
「他の星からやって来て、集団で悪さしてるのよ。ずる賢くて、盗んだ物でまた悪さして、キリがないわ。せっかく素敵な街に転勤してこれたのに。」ウォウォラエは悲しげに言った。
キティが指名手配の入力を終え、「よっしゃー!」っと言った。
ブラストがディスプレイを出し、指名手配された3名のリストを出した。
「捕まえるの簡単そうじゃないですか?」
ウォウォラエの目が輝いた。
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続く。
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