1巻 2章 6話

サイプレス号に戻ると犬達は仲良く同じベッドで寝ていた。

犬達の近くにスノーは座り、フリーの報告を読み始めた。

椅子に座り、クラウンも報告に目を通し終わると、スノーが悔しそうな声でつぶやいた。

「こいつら追いかけていいか?」


「うん。で、フリーはさー、ビッグラットに襲われて首を絞められたんだよね。気絶するまでの間、ヒューマノイド兵がモジュールを机裏にセットしてー。えーと、女の人の声で指示され退却した。って書いてるね。他にも仲間がいるって事だよね?」


「ああ。ビッグラットは実行犯で、命令した奴らは別にいる。しかも、エルフ訛りがあるな。」


「僕、エルフと話した事ないから、わかんないや。」


「なんていうか、独特の言い回しをする。オレはあんまし好きじゃねー。」


「スノーはピクシーエンジェルの方が好きそうだね。」


「シシッ!そりゃそうだ。」


「もっとなんかヒントない?」


「おーん、ジャミングの中、通信できたって事は近くに基地かアンテナがあって、外から協力していた可能性が高いな。」


「僕、フレイヤで試したい事あるんだよね。ついてきて貰っていい?」


⭐️


シャトルは再び、アルバ山上空へ。

シャトルの非常口ハッチを開けてクラウンはワッペンをタッチして構えた。

「フレイヤ!エルフの女を探して!」


炎の女神はフワッと上空に舞い上がり、アルバ山の裏に飛んでいった。


「スノー、フレイヤを追いかけて。」


サイプレス号がフレイヤの後を追う。

アルバ山の裏に道を発見した。洞窟の入り口付近でフレイヤは時間切れとなり、炎が勢いよく燃え上がって消えた。


着陸し洞窟の入り口付近をよく見ると、先は少し明るくなってる。

スノーを先頭に2人と2匹は潜入した。

入り口奥に少し進むと広い空間があり、誰もいない。

明かりが灯った机、工具、アンテナ、pcの画面は光っている。近づくと作りかけのモジュールが転がっていた。


クラウンはpc画面をのぞき込んだ。

カルーセルステーションにあるパーツ材料店マックスの在庫画面が表示されていた。1時間後に引き取りと表示されている。


「1時間後?」クラウンは首をかしげた。


「あっちに受け取る仲間がいるな。間に合わねーな。じゃここにいた奴はどこいったんだよ。」


「チョコ、イカロス!」


アルバ山裏のマップに数名マーキングポイントがついた。

「ここにいるよ。」


「出発前にギルドに依頼ださせて!」


「シシッ!急げよ!」


⭐️


カルーセルステーション、パーツ材料店マックス店内。

陳列商品には目もくれず、エルフの女と取り巻きの男2人がカウンターに真っ直ぐやって来て、エルフの女が店員に声をかけた。


「商品の受け取りなんだけど、はいこれ。」

バーコードをディスプレイにかざした。


「レア素材なので00受け取り口にどうぞ。」


ビー。ゲートが開き、廊下の一番奥の00と記された扉が開いた。

薄暗く部屋の隅までは見えない。

部屋の中央の商品ケースを開けると中は空になっていた。

3人は眉をひそめ、お互いに顔を見合わせているとピンクの鱗粉がキラキラ降ってきた。

部屋の奥の影からピクシーエンジェルが1人ぼうっと現れ、広げた羽根からピンクの鱗粉が部屋に広がっていく。取り巻きの2人の男はうっとりふらふらと酔い始めた。エルフの女が急いで鼻を手で覆いながら、取り巻きの男の銃を抜き取ろうとした時だった。

エルフの女の背中に衝撃が走った。

「ショックウェーブ!」ドン!

3人とも吹き飛んで気絶したが、幸せそうな顔だった。

防護マスクをつけたブラストはディスプレイを出した。

「生捕りにしたから、そっち行くわ。」

メッセージをクラウンに送った。


ブラスト達は部屋を出ると店長に手配を頼んだ。

「通報したよ。いつもありがとう、ブラスト。ウチのレアパーツを悪用されたらたまらんよ。しかも相手が武装してたなんて、平気かい?」


「余裕だったね。店長が知り合いで良かったよー。そっこー片付いたね。スワン、ケガはない?」


「ないわ。ブラスト、私もついて行きたい。」


「ダメだよ。ギルドじゃないんだから攻撃食らっちゃうよ。」


「あれくらい離れてれば平気よ。お願い!」


「ダメだよ。危ないって。店長も言って。」


「ウチのセキリュティもグレードアップして、、」店長はブツブツ言いながらカウンターに戻って行った。


⭐️


その頃、クラウン達はアルバ山裏のマップをみて作戦インパクトの使い所を相談していた。


「近くにいないと作戦インパクトできないんだから、ギリギリまで行くしかねー。みろ、マーキングポイントは4つ。この位置なら決まりだろ。」


2人と2匹はアルバ山裏の上層部、火山洞窟に入って行った。


「ん?マーキングポイントはこの先にあるのに誰も居ないな。」


「まだ上の方なのかな?」何気なくクラウンが洞窟の天井を見た。


岩壁の崖の上からエルフの女がボウガンでチョコの頭を射った。

チョコは頭から転がり壁にぶつかり起き上がって来ない。


階段の影からモロクリアン兵が現れ、ゴーストの脇腹にタックルした。飛ばされたゴーストは壁際で足を引きずりながらよろよろ歩く。


クラウンは崖上のエルフの女に向かってロージーを打ち返したが、後ろに身を隠され、当たった感触はなかった。崖上の奥に足音が続き、クラウンは上を見上げながら足音を追いかけた。


「追うな!クラウン!」


クラウンはあっという間に走り去ってしまった。


モロクリアン兵が道に立ちはだかり、スノーにタックルをしてきた。スノーはタックルを切って、上から追いかぶさり胴体をつかむとそのまま高く持ち上げ地面に叩きつけた。

モロクリアン兵はパワーボムで頭から落ち、横に転げ、両手で頭をかかえた。


転がりながら低い姿勢のまま起き、再びタックルしてきた。スノーはタックルを切って、もう一度胴体に手を回すと、抑えられたモロクリアン兵はお尻を地面につけ、スノーの腕に絡みついた。


「グシー!鱗を剥がして、回復できない様にしてやる!」


太ももからナイフを抜き取り、振り上げた。

逃げ切れないと思ったスノーはアビリティを使った。


「シェル!」


ガキン!とナイフは折れて、刃先はどこか飛んでいった。スノーはモロクリアン兵の首に上から腕を回し、ネックロックで締めあげた。

モロクリアン兵は横回転し、岩肌の腕の隙間からデスロールで抜け出した。

転がり仰向けで息を吸おうとした時だった。


スノーは高く跳び上がり、肘を曲げ、相手の腹めがけて飛び込んだ。

ゴン!岩のぶつかる音が響いた。


「グシー!!」


スノーは上になって片手を振り上げると、モロクリアン兵にもう片方の手をつかまれ、足をかけられ三角締めされた。


スノーはそのまま立ち上がりパワーボムで叩き落とした。


それ以上モロクリアン兵は起き上って来なかった。


壁際で動かなくなったチョコを見守る様にゴーストが座っていた。スノーが近づきチョコを抱きかかえると岩肌がボロボロと落ちていった。チョコの胸元に小さい光が出て再起動と表示された。ゴーストは嬉しそうにシッポを振り、チョコをゴーストのそばに戻した。


「お前たちはここで待ってろ。ゴースト、チョコを頼んだぞ。」


スノーはクラウンを追いかけた。


⭐️


クラウンは足音を追って洞窟を走り、どんどん坂を滑り降り、エルフの女は崖の狭いヘリを軽い身のこなしで上がって行く。


崖の先の木造の階段に駆け上がろうと足を踏み入れた瞬間。


「ロージー!」バン!


木造の階段は崩れて落ち、エルフの女も崖から落ちて来た。


「ボウガンはどこかに飛んでいったね。」

クラウンが怒った顔で静かに近づく。


「いででで。勝ったつもりい?出てきていーよ!」


エルフの女の奥からエルフ兵が2人姿を現し、ボウガンをクラウンに向けた。


「フレイヤ!」


フレイヤが現れた。3人は一瞬、フレイヤに気を取られた。


「ロージー!」バン!


エルフ兵の持つボウガンに命中した。

3人は近くに立っていた為、慌てて体の火を消すのに必死になっている。


出現したフレイヤは、もう1人のエルフ兵が持つボウガンに火の玉を放った。再び3人は燃え上がりパニックになった。


クラウンはエルフ兵に近づき、片手を掴み上げ、足をかけて押し倒した。エルフ兵は何が起きたか分からず仰向けで倒れ、燃えながら暴れた。「ぐー痛い。うわっ、熱い!消えない!」


クラウンはもう1人のエルフ兵の左から近づき、フレイヤが右に立った。挟まれて右往左往するエルフ兵に、フレイヤが左足を振り上げ、振り下ろしながら、兵士のふくらはぎを蹴って払う。

クラウンは右足でハイキックを顔面に蹴りこんだ。エルフ兵は宙に浮き上がり、バラの花びらが舞う様に燃えながら落ちた。


エルフの女は座りこんだまま、後退りし、ボロボロに焼け落ちた上着の内ポケットからモジュールを取り出した。


「ロージー!」


クラウンとフレイアが同時にエルフの女に放った。


バン!バン!


エルフの女は2つの火の玉に、両まぶたを焼かれた。エルフの女は四つん這いで、這いつくばって奥に逃げていく。


「倒す?見逃す?」

横に立ったフレイヤが投げかけてきた。


⭐️


続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る