1 巻 1 章 2 話

「トレモロ」


⭐️


クラウンは息をのんでから、じっと答えを待つ3人に言った。「ブラストと行く。行きたいトコある。」本当はそれぞれについて行きたい気持ちでいっぱいになって、息がうまく出来なくなって、声は小さくカタコトになった。


ブラストは、ほっとした顔を見せ、他2人は納得した顔でうなずいた。

4人はギルドのフレンズ登録を済ませワッペンにチェックを入れると一定の範囲内ではアビリティを使っても同士撃ちにならない事など、先輩ギルドとしてのポイントをさらりと教えてくれた。実戦で覚えるのが一番早いけど、無理して高いレベルのクエストに挑戦しないように念を押された。うっかり死ぬやつが多い事も。


ハニはポニーテールにケーキの箱の青いリボンをつけて、クラウンとブラストに見せてお礼を言い、ヴァルはチョコが捻り出した物を容器に入れて研究すると言って、嬉しそうに持ち帰った。

ハニがログに残したいからと4人と1匹で撮影した。

それぞれにハグをして2船を見送った。

「やっぱ、いかつい車とバイクはハニのだったね。」神妙な顔つきでクラウンがつぶやくとブラストはアゴに手を当て、笑いながらうなずいて言った。「2人ともいいキャラしてるよな。」


⭐️


ブラストの好きなショップ「underground」に船のルートを設定した。ブラストの部屋のモニターにテロップが流れる。


ー2日後、カルーセルステーション到着予定ですー

ースペーススーツが届きましたー


「よし、出発しよう。クラウン、スーツに着替えて、チョコも連れて来て。」

ブラストの部屋に戻ると、窓がミラーモードになっていて、オルタナティブロックが流れていた。

届いたスーツは軽く、着替えるとワッペンが一度光った。ワッペンにタッチして「同士撃ちなし!」クラウンは確認した。スーツの凹凸が鍛えた体のようなフォルムで、気持ちまでたくましくなった気がした。


席を空けたブラストが椅子の後ろに立ち、背もたれをトントンと軽く叩いて、座ってと促した。チョコが椅子に飛び乗り、クラウンがチョコを抱え膝に乗せて座った。

ブラストは横のモニターで操作すると、正面のモニターがアビリティ画面になった。

「おー!」ブラストが歓声をあげ、テンションが上がった声で説明し始めた。

「クラウンのアビリティはー炎系、ファイアボールが出てー、あ、さらにレベル上がってるから、火が効く相手には火傷の追加ダメージあるって。こわー。名前をつけてアビリティ登録すると、いつでも発動できるよ。」

クラウンは目を見開き、モニター内の自分そっくりなアバターが火のアビリティを出しループする姿に釘付けになった。


画面がパッと切り替わり、ブラストが現れた。

「これがオレの技ね。ショックウェーブ。周辺を吹き飛ばして相手をひるませる事ができる。あんまり物理的な攻撃力は高くないからね。さらにチョーコちゃーん!」

画面が切り替わり、チョコが尻尾を振っている。

「オレらが同時にチョコの近くでアビリティを出すと、炎の衝撃波になって大炎上ー!くーっ、カッケー!」

「え?え?」クラウンはポカンとなってチョコを見た。

うんうん、そうだろ。と、ご満悦なブラスト。「これはあの2人も君を誘う訳ですよ。コホン、ショップに行ってバイバイじゃ味気ないから、オレも次のクエストに是非誘いたいとこだけど、どう?」

「オレの場合は危ないクエストは基本やらないから、調達系でコツコツやってる感じ。ショックウェーブは護身用。」

「次のクエストってなにやるの?」クラウンはようやく驚きから落ち着き、アビリティを一度は使ってみたい願望がふつふつと湧いてきた。


画面がクエスト情報に切り替わり

ーコンテナの回収ー

「これだけ。今、向かってるステーションに依頼人がいるから話を聞きに行こう。嫌な時はクエスト受けなきゃいいし。ショッピングついでにちょうどよくね?ギルドによってアビリティ発動させて遊んで解散してもいいし。」

「うん。僕も行く。ショッピングもアビリティも怖くなさそうなクエストも今、流れてる音楽も興味ある!」

「いいねー。音楽、今送っとくわ。」

「ありがと。ブラストはいつも調達系のクエストやってるの?」

「そだね、難しい時は密書とかポータル届けたり、ギルドのサポート的なのもやってるかな。それでオレら会ったわけだし。」

「バッタが出た時、何もしなかったのは僕を守る為だったんだね。ありがと。」

「いやっ、はっ、まーそーだけど、部屋の中でショックウェーブ出して、ぶっ壊れて大惨事になったら弁償しなきゃならないしな。クラウンも気をつけろよ。はは。」

「そーだね。けど、いろいろわかった。ありがと。僕も部屋で音楽聴こ。」

クラウンの部屋に戻ると、モニターにテロップが流れた。

ー2人とアンドッキングしましたー

ーメインメニューにギルドが追加されましたー

ーギルドスーツが届きましたー

ーミュージックプレイリストが追加されましたー

ー音楽トロフィーを取得しましたー

ーギルドのチュートリアルを再生しますか?ー

「マザー、チュートリアル、スキップ。ミュージックをかけて。」

ーANTI-PROPAGANDAー

ーカリスマ性あふれるパフォーマンスでフロアに発生するグルーヴは必見。近日、カルーセルステーションでギグー


⭐️


眠たい目を擦りながら、クラウンはご飯を咀嚼している。

扉が開き、眠たい目をしたブラストが入ってきた。

「そのスリープウェア、イケてる。」クラウンがブラストに言った。

「これ?アングラの。今日行ったら買えるよ。」もぐもぐもぐもぐ。「よく噛んでえらいね。」

「この前ドクターに言われて、マザーみたいな事ばっかり言ってた。」

「ああ、カミング30ね。」

もぐもぐもぐ。

「なんか、この部屋レトロで落ち着くから、オレもこっちで食べよ。」

「あのさーギグって何?」

「ん?ライブの事だと思うけど、どした?」

「くれた音楽の人、カルーセルステーションでギグだって。」

もぐもぐもぐ。

「アンプロがーー?!!」

「ゲホッ!ビックリしたー。さっきニュース流れてた。」

慌ててモニターに駆け寄り、見たことない早さで作業を始めたブラスト。

「そんなー。もうソールドアウトしてるー。乗り遅れたーあーー。」

情けない声を出しながら、ご飯を食べずにブラストは部屋に帰っていった。前日、遅くまでゲームに没頭していた2人は寝不足になっていた。


⭐️


ーカルーセルステーション到着ー


カルーセルステーションの巨大なリングが回っている。

補給ドックに降りたクラウンは眠気が吹っ飛んだ。

ギャラクシーステーションもそこそこ栄えてると思っていたが、カルーセルステーションは、カラフルなネオンにポップなデザインの建物、バーチャル遊園地の様な高揚感を感じた。

ブラストの機嫌は戻り、元気よく拳をあげた。

「じゃアングラに出発ー!狩りに行きますか。先導して、チョコ。」

クラウンも拳をちょこんと前に出した。

チョコのプリズムについて行き、ショップに到着した。

「オレもショップに来るのは久しぶりだから、ゆっくり見よーぜ。」

言葉とは裏腹に足取りは早まった。

ショップのゲートが開き「いらっしゃいませ。初来店ありがとうございます。デジタルステッカーをどうぞ。」

ピロン。チョコの脇腹に、アングラのステッカーが浮かび上がった。

「オレももらえた。ラッキー。」ブラストは嬉しそうだ。

2人はテンションが上がり、ブラストは似合う服をあれこれ楽しそうに選んでくれ、クラウンもまんざらでも無い顔で、好きなのをどんどんカートに入れた。


お互いに似合うアイテムを見つけると「買え買え買え。」と早口で言い合った。

「スリープウェア!」と、何度もショップのマイクに向かって言った。

「現在はお取り扱いがございません。」と、表示されクラウンは悔しがった。いまだに一番好きな服はスリープウェアだった。


奥から店員が出てきて、2人に声をかけた。「売り切れなの、ごめんなさいね。君たち、ギルドの方?あら、かわいいワンちゃん。最近、このあたりで物騒な事件が増えてるから気をつけてね。この前も、うちで買ってくれた人が行方不明になっちゃって、商品が帰ってきたの。若い子ばっかり狙われてるみたいで悲しいわー。気をつけるのよ。またよろしくね。」

2人は「ええ、はい。」と薄い返事をし、お会計を済ませてショップを出た。

「よし、気を取り直して行きますか。」ブラストがディスプレイを出して、クエストのコンテナ回収を選ぶと、チョコがプリズムを出して先導した。


⭐️


活気があった商業施設から、コンテナや大型の車が並んだ通りに出た。

トレーラーの前でチョコが止まり到着した。

ブラストが呼び出しをコールすると、トレーラーからドクロのマスクに黒髪のモヒカン、ファーの付いたレザージャケットを着た、背の高い男が現れた。

「ファー!!」ブラストがピョンピョン跳ねて、クラウンの手を握ってきた。

口をぱくぱくさせながら、手をぶんぶん上下させながら「アンプロ!アンプロのフェイデッドさん!」

「ぼ、僕たち大ファンです!!」クラウンもはっとして、一気にテンションが上がり、自分が出した大声にもビックリした。

ブラストがクラウンと身を寄せ合いながら「あの、あの、依頼を出してくれましたか?コンテナ回収の件です。」

ぼーっとした様子のフェイデッドが、扉を半分閉めながら奥にいる誰かを呼んだ。「H.O!H.O!ギルド呼んだ?来てるよ。」


隙間から身を寄せ合う2人を瞬きもせずじっと見て、何も言わずに扉を閉めた。歩く音がして扉が開くと、チェーンをじゃらじゃらさせながら、色白で茶色い髭のドワーフの男が出てきた。ガッチリした体つきで、両腕にタトゥ、長い髭は1本に編まれている。

ブラストがクラウンの手をぎゅーっと握って耳元で囁いた。「ベースのH.Oさんだー。やべー本物だー。」


2人はペコペコとお辞儀すると、H.Oが気さくに誘った。「カフェ行こっか。」

「はいっ!!」2人の声は威勢よく揃い、肘でつつき合いながら、通りの向かいのカフェまで後ろをついていった。

注文が終わるとH.Oが真っ赤な目をしぱしぱさせながら話し出した。「早くきてくれて助かったよ。早速で悪いんだけど、回収してきてくれる?ローディに機材車のバンの世話をさせてたんだけど、バンが盗まれて、ローディーと連絡つかなくてさー。探してる暇ねーから、頼むよ。大丈夫?」

ブラストがディスプレイを出しクエストにチェックを入れ、バンとローディの詳細情報を確認し始めると、飲み物が運ばれてきた。

3人で一息ついてると、何もしないクラウンにH.Oが名前を聞いてきた。

「僕がクラウンで彼はブラストです。」緊張しながら精一杯の答えだった。

「ピエロ?白がクラちゃんで、青がブラちゃんね。」

クラウンが首を横に振ったり縦に振ったり。

ブラストは手際よくクエストを確認した。

「一番はバンの回収。ローディが犯人だったら、生きたまま連れてくると特別報酬。ただのバックレだったら無視していい。こんな感じですか?」

H.Oは残りの飲み物を一気に飲み干した。「おう。バンは先輩からもらった思い出のバンなんだよ。中に機材もあるし。たのまー。」立ち上がってH.Oが会計をすませ立ち去ると、2人は一番深いお辞儀をした。

「さて、どこから探そうかな。」ブラストは片方のつま先で地面をトントンしていると、にやけたクラウンが両手を上にかざし「本物に会っちゃったー!うぉー。」喜びを爆発させた。

「ねー!スゲー緊張した。カッコ良かったー!ギグはもっとスゲーんだぞ。」はぁ。ため息をついてディスプレイを出す。ギグのチケットを取れなかった事が改めて悔しくなった。

クラウンは嬉しそうにディスプレイを手で払った。

「クエストの期限ってあるの?」

「今回はアンプロさんが依頼を取り消したらクエストはおしまいかな。取り掛かった時点で最低補償はギルドから出るよ。微々たるもんだけど。」

「ふーん。」

ブラストはディスプレイを再び出す。

「一回、ドックに行ってバンの入出庫がないか見に行くか。ギルドだと見せてもらえるから。」

クラウンは再びディスプレイを手で払う。

「おい。さっきから何だよ。」

クラウンはチョコを抱え「それならチョコに車種と番号言ってみて。」

ふてくされた顔から笑顔に戻ったブラストは、チョコの顔を両手でさすりながら伝えた。

「ムーンディスクを履かせたパネルバン。色はチョコレート、番号は、」

言いかけるとチョコはプリズムを出して身をよじり先導した。

「おおー、もう見つけた!チョコちゃん後でご褒美のおやつあげるからねー。」浮き足だった2人は「あはは。」プリズムと戯れる様に追跡を始めた。


⭐️


早歩きで30分ほどで大きな倉庫についた。来る途中、監視小屋など点々と建物はあったが、誰にも会う事はなかった。倉庫のゲートは空いていて、奥は小さな赤いライトが等間隔で点いている。

2人は目を合わせて、ワッペンをタッチしてヘルメットを装着した。「誰かいますかー?」ブラストが少し先を歩きゆっくり中に入ると、ヘルメットのモニターにバンのシルエットが映る。

「あった。」クラウンがつぶやくと、チョコがバンに駆け寄り、バンの後方に行くと見えなくなった。

2人がバンまで駆け寄ると、後ろの扉は開いたままになっていた。チョコはバンの後ろでじっと中を見ている。

ほっとして中を覗き込むと、首のない死体がカーゴルームに倒れていた。


⭐️


続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る