平和とは?④
相変わらず九条はうざいし、文化祭以降やたらキスしてこようとするし、毎回それを阻止するのもマジで疲れる。ただでさえ距離感バグ男なのに、最近歯止めが利いていない=
あたしの平和とは……?
「なぁ、なんで拒否られてんの?」
「拒否られないと思ってるあんたの脳ミソどうなってるわけ?」
「いいじゃん。減るもんでもないし」
「大切な何かが減る」
「あん時、お前からしてきてくせにー」
「させられたようなもんでしょ、あんなの」
廊下を歩くあたしにベタベタくっついて来て、本当に鬱陶しったらありゃしない。
「ったく、ケチ~な。これだから貧乏人は」
「これに関しては貧乏とか全く関係ないわ。ていうか、ベタベタくっつくのやめてくれませんか」
「寒いの~。せめて俺の暖を取る道具として役に立てよ。お前はそれくらいしか役に立たん。ま、お前の場合、大して温かくもねえから基礎体温上げる努力でもしとけ」
── どうやらあの世に逝きたがりらしいな、貴様は。あたしから禍々しいオーラが解き放たれようとした時だった。
「九条様。取り急ぎご報告いたします。舞踏会の予定が大幅に変更されました」
「あ? なんで~」
「定期点検で会場に不具合が数ヶ所あったとのことで、大きな支障はないようですし、今すぐどうのこうのという話ではないらしいのですが、念には念を……という上からの指示で、年明けから3月末を予定に業者が入る……とのことです」
「へぇー。で? 変更日は?」
「それが……12月25日です」
「はぁん? 25日ぃ~? もう1週間ちょいしかねーじゃん」
「ええ……その通りです。1ヶ月ほど前に決定していたらしいのですが、連絡ミスがあったようで私も前田も先ほど知りました。誠に申し訳ございません」
「いや、まぁいい……上杉のせいではないだろ。そう思えば1ヶ月だったかもっと前だったかに、そういや謎に採寸されたな。どうでも良すぎて何でかも聞かなかったわ。お前もされたろ」
「え? あーーうん。たしかにあたしもどうでも良くて何でかも聞かなかった」
「私は“少し早いがもうそんな時期か”……としか思っておらず……」
「ま、そうなるわな~」
なんの話してるんだろう? 舞踏会……? なにそれ、お金持ちの戯れかな? クリスマスに大変だねえ。ま、舞踏会なんてあたしには関係無いし、予定変更とかぶっちゃけどうでもいい~。
ていうか、舞踏会ってダンスパーティー的なやつだよね? おそらく。いやぁ、本当にそんな行事あるんだ~。あんなのテレビとか漫画の世界だけの話かと思ってたわ~。
「すみません。あたしには関係無さそうな話なのでお先に失礼しますね」
「関係ありありだっつーの」
「ぐえっ……!?」
去ろうとしたあたしの首襟を掴んだ九条。首が絞まってカエルのような声が出るあたし。
「むしろ今、俺と上杉はお前の心配しかしてねーわ」
「ごもっとも。九条様の仰る通りでございます」
「は、はあ……そうですか」
「お前、ダンスしたことある?」
「まあ、学校の授業でなら」
「ちげーよ。社交ダンス」
── シャルウィダンス? この言葉が脳裏を過った。
「社交ダンスなんてしたことないに決まってるでしょ」
「でしょうね。後、そのように偉そうな言い方をするのは地位や教養の無さを露呈するだけなので、やめた方がよろしいかと。本来、天馬に通う者であれば、社交ダンスなど踊れて当たり前なのですから」
「ま、そう言うなって上杉。聞いた俺が馬鹿だったわ」
ねえ、九条。それ、フォローのつもり? 何のフォローにもなってないんだけど。
「あの、舞踏会とあたし……なんの関係があるんですか」
「七瀬さん。天馬の舞踏会は……マスターとサーバントのペアで執り行います」
あたしはスンッとした顔で九条と上杉先輩を見る。
「── マジっすか」
「マジ」
「ええ、大マジです」
「ええぇぇーーーー!?」
「ギャーギャー喚くな、やかましい。上杉、悪いけど前田借りていいか?」
「良いも悪いも私に権限等ありません。前田本人に確認してください」
「悪いね~。うちの“お荷物”が前田とのイチャイチャタイム減らしちゃって。ほらほら、謝っとけよ~? 七瀬」
・・・“お荷物”ってあたしかよっ!! ま、そうだろうなとは思ってたけども!!
「スミマセン」
「謝罪は不要です。元は言えば私のミスなので」
前田先輩との“イチャイチャタイム”に関して肯定も否定もしないのね、上杉先輩。
「お前、死ぬほど社交ダンスに向いてないだろうけど……まっ、せいぜい頑張れよ」
「九条様に恥を晒すことのないよう励みなさい。くれぐれも、くれぐれも!! 当日、九条様に恥をかかせることのなきよう」
「……ぎょ、御意」
── あたしの“平和”はそう長くは続かない。そんなこと分かってるけどさ……なんでこうも次から次へと!!!!
こうしてあたしは“平和”も“クリスマス”も、理不尽に奪われるのであった──。
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