24ーそれは愛か呪いか

ゆっくりとエリーナ姫にも分かるようにエデュラは言葉を紡ぐ。


「小さい頃から一緒に居て、お互いの事をよく知っていて、愛する相手がいたとして。好きでもない番に愛を感じるとしたら、それは恐怖でしかないのですよ。望んでいない相手と強制的に縁を結ばれるとしたら、それは呪いのようなものです」

「……の、呪いですって!?」


だが、エリーナ姫には想像力というものが欠落している。

話が通じないかもしれない、とエデュラは考えつつ、分かりやすく例えた。


「例えば、わたくしの素敵なリーヴェルトが、エリーナ姫の恋人だったとしましょう。でも番が、あちらにいらっしゃる方たちのどなたかだったら、どうしますか?」


ずらりと壁際に待機しているのは、年嵩の使用人達だ。

エリーナ姫はリーヴェルトを見上げて頬を染め、使用人達に目を向けてげんなりした。


「……嫌だわ」

「でも、強く愛してしまうのです」

「……呪いだわ」

「だから、それから逃れるために二人は死のうとなさっていたのです」


復讐ではない、と分かって、エリーナ姫はまたリーヴェルトと使用人達を見比べる。

使用人達には申し訳なかったが、誰か一人を指名する訳にはいかなかった。

エデュラは心の中でごめんなさい、と頭を下げる。

そして、やれやれと肩を竦めるリーヴェルトの腕に白い指を絡ませて、エリーナ姫に別離を告げた。


「では、もうわたくし達は失礼するわ。ご機嫌よう」

「……もし、わたくしが良い子だったら、側妃にしてくれた?」


思わぬ問いかけをされて、エデュラは答えようとするリーヴェルトの口に人差し指を静かに当てた。

代わりに、エデュラが答える。


「いいえ。リーヴェルト様はわたくしの唯一ですから、どなたとも分け合うつもりはありません」

「……そう」


ずっと耐えてきたエデュラにとって、例えば正妃としてエリンギルの隣に立った時、彼が望めばリリアーデを側妃に迎えることは反対しなかったかもしれない。

番が望むことだから、ではなく。

エリンギルが望まなくても、リリアーデが縋れば側妃として召しただろう。

ただ、そういうものだという認識でいた。

けれど、リーヴェルトは違う。

ずっと一途に思い続けてくれた。

エデュラもまたその思いに全霊をもって応えたいと思っている。

それは誰に強制されるでもなく、自分の心に従って。


エデュラの答えに嬉しそうに破顔するリーヴェルトを見つめて、エデュラは幸せそうに笑み返した。


「君に思われるのは、嬉しいな」

「あら、怖がって下さっても宜しいのよ?」

「私が怖いのは、私の君への愛が重すぎないかという事だけだ」


用意された馬車に乗り込み、エデュラを膝の上に抱えながらリーヴェルトはその頬を指で撫でた。

エデュラもリーヴェルトの頬に手を添えて、はにかむ。


「わたくしは竜ですから、重さには強うございますの」

「それは、頼もしいな」


くすくすと幸せそうに微笑うエデュラを、リーヴェルトはぎゅっと抱きしめた。

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