18ー重ねる嘘

「陛下、発言の許可を……」

「許す」

「まさか、ルオター公爵家のフィーレン嬢も帝国へ行くのですか?」

「そうだ。エデュラ皇太子妃の側近として迎えられる予定となっている」


へなへなと、エリード王子は床に膝を着いた。

支えを失ったエリーナ姫も、横にぺたりと崩れ落ちる。

そして、静かにエリーナ姫は泣き始めた。


何が悪かったのか?

それを考えても、全てが、としか言い様がない。

でも、一番悪いのは。


「お兄様のせいよ!お兄様がエデュラを追放なんてするから!だから!」

「……そうだ、兄上が悪い…、自分の番を遠くに追いやるなんて、信じられない……」


双子が口々にエリンギルを責め始めて、エリンギルは困惑に眉を顰めた。


「何を言っている。番なら此処に。リリアーデがいるではないか」

「偽物に決まってるでしょう!」


問い返したエリンギルに、エリーナ姫が叫び返す。

リリアーデもパッと顔を上げて、エリーナ姫を睨んで、その名を呼んだ。


「エリーナ様!」

「うるさい!うるさい!この偽物!あんたのせいよ!あんたが兄上に薬を盛ったから!」

「誤解です!」


だが、国王と王妃は顔を見合わせただけで追及はしなかった。

真偽はどうであれ、もう後には退けないのだ。


「もう良い、下がれ」


国王の言葉に、納得はいかないものの、エリンギルは頭を下げて謁見の間を出て行く。

リリアーデも逃げる様に、その後ろを追った。

中々立ち上がれないエリーナ姫は、エリード王子と騎士に支えられて、漸く部屋から出て行く。

残された王は、隣に座る王妃の膨らんだ腹を優しく撫でた。


「王妃よ。其方が身籠ったのは、これが理由なのかもしれんな」

「ええ、陛下。教育係に任せすぎたのは問題でございました。次は手ずから育て上げましょう」

「ああ、私も協力しよう」


二人の密やかな約束と決意は、今いる子供達を全て見限るという事に他ならない。

謁見の間に詰めている騎士も大臣も、その言葉にため息を禁じ得なかった。



「リリ、どういう事か、説明しろ」

「わたくしにも、分かりません」


エリンギルの私室に向かい、二人は言葉を交わしていた。

暫くじっとリリアーデを見つめるが、彼女は申し訳なさそうに目を逸らす。


「そうか」


エデュラが番な訳はない。

彼女は確かに見目は悪くなかったが、色彩は地味だし、面白みのない女だった。

けれど、リリアーデを見た時には、確かにその可憐さに胸を打たれたのだ。


「まあいい。どうせ奴らは帝国に帰るのだからな。問題はないだろう」


そうリリアーデにエリンギルは笑いかけるが、リリアーデは少し俯き加減だ。

顔色も良くはない。


「やはりエデュラ様に支えて頂いた方が、王太子となる道も閉ざされなかったのでは……」

「そんな事を気にしていたのか。道は閉ざされた訳ではない。少し遠くにあるだけなのだから、お互い努力して参ろう」


明るく言うものの、リリアーデはため息を零すばかり。

更に、眉を顰めながら言う。


「エリーナ様やエリード様の番も……エデュラ様がいたのなら……」

「それは無理だろう。あいつらが拒まれたのは自業自得だ」

「……そう、……ですね」


何かを言い淀んでいる。

それは伝わってきたが、要領を得ない。

エリンギルは少し気が立ってきていた。


「言いたいことがあるなら、言え。其方らしくもない」

「……もし、間違いだったらどうなさいますか?わたくしが番ではなく、エデュラ様が番ならば」


悲し気に問いかけられるが、それは何度も言った筈の事で。


「いいや。エデュラに初めて会ったのは幼い頃だが、其方に感じたような衝撃は何もなかったぞ」

「でも、もしそれでも、間違っていたなら?」


何を言いたいのだろう、とエリンギルは眉を顰めた。

今更ではないか。


「間違っていたとしたら、取り返しはつかないだろう。それを聞いて如何するのだ」

「いいえ……いいえ、何でも、ございません」

「不安になったのか?……俺には其方だけだ」


抱きしめると、リリアーデはエリンギルに身を預ける。

そして、小さく、はい、と頷いた。

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