16ー本当の罪人は
その日、王宮でも一騒動起きていた。
朝から何故か落ち着かないエリンギルとリリアーデは、国王陛下に呼び出されて謁見の間にいる。
「何故、勝手に婚約を解消したのだ」
「それは、以前から申し上げているようにリリアーデこそが番だからです」
国王の問いかけに、意気揚々とエリンギルは胸を張って応える。
その場には双子の姉弟達も立ち会わされていた。
散々、エデュラとの仲を引き裂く様に行動していたエリーナ姫とエリード王子も顔を見合わせる。
こんな事になるとは思っていなかったのだ。
「忘却薬を下賜したのは真か?」
「はい。わが国では禁止とされておりますが、大罪人の罰としては良いでしょう」
兄のエリンギルの言葉に、流石に双子は顔色を失っている。
もし、いや、ほぼ確実に、これはマズい。
だが何かを言うには遅すぎる。
「それに、追放刑に処したと。お前の独断で」
「わが国で番同士を引き裂くのは大罪です。死を与えないだけマシかと」
その言葉は、エリーナ姫とエリード王子、リリアーデに突き刺さる言葉だった。
蒼白になる三人を見て、王妃は察したようにため息を静かに吐く。
国王は静かに頷いた。
「では、リリアーデ・ポワトゥとエリンギル第一王子、そなた達の婚約を認める。これは、王命である」
「は。……いえ、陛下、何故王命なのでしょうか?」
「勝手に解消出来ないようにする為だ」
不思議そうに首を傾げるエリンギルを見て、双子は目を逸らす。
エリンギルは気づいていないのだ。
リリアーデに番を認識できなくする「阻害薬」を盛られていた事も、双子がそれを唆したことも。
だが、まさか、エリンギル自身が番であるエデュラに「忘却薬」を飲ませるとは思っていなかったのだ。
何故止めなかったのだ、とリリアーデを見るが、彼女は俯いている。
「勝手に解消など……ああ、エデュラの件とは違います。あれは番ではなかったのですから」
「そうか。お前が追放したことで、彼女は帝国臣民となり、かの国の皇太子の妻となることが決まった」
「………は?皇太子の、妻……?」
エリンギルが呆けたように跪いたまま国王を見上げる。
双子もその言葉には驚き、顔を見合わせた。
特にエリーナにとっては、思った以上に嫌な結果に行き着いたのだ。
この国よりも遥かに豊かで強大な国の、皇太子妃になるのだから。
「そんな、いつ、皇太子など誑かしたのです?」
「口を慎めエリーナ。そなたに発言を許した覚えはない」
激高したエリーナの言葉に、国王が冷たく応じる。
けれど、どうして、と兄を見れば、何事かを考えていたエリンギルが顔を上げた。
「……まさか、あの地味な男爵令息が、皇太子、なのですか?」
「そうだ。お前が昨日、祝福した似合いの二人だ」
問題はない。
問題はない筈なのに、どこかエリンギルは胸騒ぎを覚えていた。
「そう、ですか。……それは喜ばしい事です。今夜は二重に祝いが重なりますね……私達の婚約を合わせれば三重に、ですが」
「お兄様!何を呑気な事を仰っているの!以前暴れた時の事をお忘れ?」
またも発言を許されていないエリーナ姫が甲高い声で叫んだ。
だが、国王はそれを止めない。
エリンギルは不思議そうに、傍らで俯くリリアーデと眉根を寄せたエリーナを見比べる。
「だが、それはリリアーデがいるのだから、問題ないだろう?」
「っっ!」
それ以上の追及は藪蛇だ。
エリーナ姫はエリード王子にドレスを引かれて思い止まった。
違うのに、言えない。
番はエデュラだと城の者も両親も、弟ですら分かっている。
エリーナを含めて三人が、わざと騙していたエリンギルだけが気づいていない。
自分が何をしてしまったのかを。
これから何が起きるのかを。
分かっているのに、騙した方であるエリーナが指摘することは出来ない。
番を引き裂く大罪人だと名乗り出ることになるのだから。
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