雛と兄は旅立った。

緑川 つきあかり

プロローグ

 何気なく通った一本道。


 不思議と吸い寄せられていくように、いつもの近道からは逸れた道行きに進んでいた。


 その道は、直向きに進めば迷ってしまうほどに、連なる桜の並木が行手を遮っている。


 けれど、暖かな春のそよ風は、そんな寂しげな木々の小枝ばかりを戦がせていた。


「春の終わりって早いな……」


 桜の花びらが全て、綺麗に散ってしまっていた。


 そして、其の舞い散った花びらが、辺り一面の色褪せた土瀝青を覆い尽くしていた。


 まだ土泥や足跡も付いていない、淡いピンクの花びらを躊躇いなく踏みしめて、淡々と進んでいく。


「こんな所に近道あったんだな」


「チュン!」


 その耳を劈くような囀りに、思わず急ブレーキを掛けて立ち止まり、無意識に目を向けてしまう。


 小鳥。


 其処には雀の雛鳥がいた。


 一匹……だけか?


 半球なる幾重にも重なった木々の巣に、ぽつんと独り寂しげに鳴き続けていた。


 親を待っているのか、空腹で倒れそうなのか、将又、宇宙そらにでも羽撃きたいのか。


 当然、鳥の言葉に理解が及ぶほどの知能を持ち合わせている訳もなく、俺は再び、歩みを進めんと大きく一歩を踏み出す。


 だが、黒い影が一直線に飛来する様を、視界の端で微かに捉えたのを見逃さなかった。


 それは、まごうことなき雀の元へと向かって……。

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