第三章

オープニングトーク

「ドー! どんな時もー!」

「ミー、みんなのためにー」

「ソー! それがこのー!」

「ラー、ラジオ番組ー」

「という事で、ドミソラジオ。今日も始めていきます」



 タイトルコールが終わると同時にコミカルなBGMが流れ始め、奏空は楽しそうに話し始めた。



「はいっ! という事で、本日も始まりましたー! ドミソラジオ! パーソナリティーは皆さんの愛猫ソラにゃん、そしてアシスタントは~?」

「どうも、アシスタントのリクです。前回から少し空いてしまいましたが、それはコイツが気まぐれなせいなので生暖かい目で見てやってください」

「生暖かい……それってもしかしてまえし――」

『アダージョ!』

「早速アウトかますな。わかりそうな人にだけ伝わるものだとは思ったけど、ここのリスナーなら全員に伝わるだろうからアウトだ」

「はーい。さてさて、それでは早速ゲストさんを紹介していきましょう。今回のゲストは~?」



 奏空が向かいに並んで座るゲストに視線を向けた。



「皆さん、コンばんは。バーチャルカンパニー所属、千年生きている妖狐の玉藻です」

「みんなー、こんゆっきー! バーチャルカンパニー所属の高校生、羽場雪菜だよー!」

「みんな、おつー。バーチャルカンパニー所属の新人小説家兼雪菜ファンクラブの会長こと作山文花だよー」

「三人合わせて、せーの……」

『雪月花です』



 雪月花の三人がライバーとしての声で自己紹介をすると、コメント欄は前回以上の盛り上がりを見せた。



『雪月花キター!!(゚∀゚)』

『雪月花とソラタソのコラボとか俺得すぐる!』

『玉藻様ー、この前の配信見ましたー!』

『ゆっきー! こんゆっきー!』

『ふみふみ、狂歌先生との交際開始、本当におめでとー』

「あははっ、いい盛り上がりしてるねえ。そうそう、文花さんは狂花先生との交際を、玉藻さんはマネージャーさんとの交際を発表したんだったね。二人ともそれからどう?」



 奏空の問いかけに玉藻こと狐崎翔子さんと作山文花こと本山栞菜さんが揃って頷く。



「はい、交際は順調です。以前に配信内でも話したんですが、社長すらも私とマネージャーの交際状況について聞いてきますし、他のライバー達も私達が一緒にいるとニヤニヤしながら見てくるのは少し恥ずかしいところです」

「私の方もじゅんちょー。この前も狂歌さんと本屋行ってきたし、一緒に次の作品の相談とかもしてるよー」

「いいなー! ユキも二人みたいにいーひと見つけたいー!」

「そもそも配信者とかに交際相手がいるのって結構タブー視されると思ってたけど、バーチャルカンパニーの人達やファンの人達がそういうのに寛容なのかな」

「配偶者やパートナーがいる事を配信などで言っているライバーも少なくないですし、この箱はそういうものなんだろうと考えるリスナーが多いのかもしれませんね」

「私達の場合もリクならって人は本当に多いからね。まあ、リクのガチ恋勢は男女問わずいるだろうけど」



 奏空がニヤニヤしながら言うが、その事はやっぱり不思議だった。



「奏空ならわかるけど、俺がそんな風に好かれる理由がまったくわからないんだよな。アフレコロシアムでもなんかコメント欄が変な感じになるし」

「あれは変な感じというか……」

「私達配信者から見てもリクさんの声は他人を魅了するものだと思いますよ。リスナーとして聞いていても、私達の事務所にいたら人気が出る声質をしている上にしっかりとソラさんを御しながら進行しているのですぐにでも社長が欲しいと言い始めますね」

「お、リクのライバーデビュー来ちゃう?」

「来ないって。そもそも他の仕事をしながらのライバー活動とか難しいだろ」

「そういえば、リクさんのお仕事って聞いたことないようなー」



 栞菜さんの言葉にコメント欄が沸き立つ。



『りっくんのお仕事はたしかに謎( ー̀ωー́)⁾⁾ウンウン』

『りっくんお仕事おせーてー』

「俺の職業か……これ、言ってもいいのかな?」

「まあ大丈夫じゃない? というか、普段はドミソラジオのリクですかって聞かれないの?」

「聞かれないな。もしかしたらリスナーはいるのかもしれないけど、まったく聞かれたことないな」

「ねーねー、それじゃあこの中だと誰に一番近いお仕事なの?」



 羽場雪菜こと草薙雪菜さんが聞いてくる。そもそも職場の誰にも話していないから聞かれないのかもしれないし、普段の仕事に影響はたぶん出ないだろう。



「この中だと……羽場さんが関係してくるかな」

「え、ユキ?」

「ほうほう、雪菜といえばギャルの高校生。つまり、ギャルか高校生のどちらかに関連するわけかー」

「まあ職場で言われたらその時はその時だな。これでも高校で教師をしてるんです。担当教科は体育です」

「なるほど、先生なんですね」



 翔子さんが頷きながら言うと、コメント欄が更に沸き立った。



『りっくん、せんせーなのか!(; ・`д・´) ナ、ナンダッテー!!』

『体育教師ということは保健の授業も!?』

『りっくん先生の保健体育……ゴクリ』

『ソラタソにはマンツーマンで夜の保健体育を教えてるんですね、わかります』

「あはは、どうだろうね。因みに、リクは私達の母校で先生をしてるよ。まさかまさかだよねー」

「まあソラみたいに手がかかる子はいないから助かってるけどな。というか、ソラ並みの子がいても今の先生達じゃ太刀打ち出来ないな。それくらい当時のソラは色々すごかったし」



 当時の奏空を思い出していると、奏空はクスクス笑った。



「ほんとにね。配信内でも色々喋ってるけど、他にも設置されてる自動販売機の商品の中に瓶のコーラを導入させたりとか校内に色々なブームを作ったりとかもしたなあ」

「す、すごい……!」

「おおー、今日も雪菜が目をキラッキラさせてるねー。玉藻、キラキラお目目の雪菜の可愛い写真撮ってもいい?」

「いいですけど、それはラジオが終わってからにしてくださいね」

「はーい」



 栞菜さんが答えると、コメント欄にまた動きが見え始めた。



『ふみ×ゆき、キター!(゚∀゚)』

『おいおい、ここでも聞けるとか最高か?』

『PSY&KOU』

『一人エスパーおる?』

『ちょっとカバンの中入ってくるわ』

「あははっ、それは違うエスパーでしょ。さて、本日もリクが押してくれてるボタンの名前を募集してるよ。因みに、雪月花の三人はどんな名前がいいと思う?」



 奏空が聞くと、雪月花の三人は少し考えてから答えた。



「私は……そうですね、アウトな発言から次へと流すスイッチですからナガスイッチがいいかなと」

「ユキはね、可愛い名前がいいから……ボンタン! えへへっ、なんか可愛いっしょー?」

「ボタンのボンタン……今日も雪菜の可愛さがすごいことになってるねー。ボンタンといえばザボンとも呼ばれる文旦の事ではあるけど、音が鳴るものだからナルモとかどうかなー」

「おおー、やっぱり名付けにはその人の色が出るねえ」

「たしかにな。リスナーからも名前は募集しているからどしどし送ってくれ」

「うむうむ。それじゃあそろそろ始めていくんだけど、せっかくだから前回もやったあれをやってこー! 仔犬のみんなー、準備はいいかー!」



 奏空が呼び掛けると、コメント欄には多くのコメントが流れていった。



『わおーん!』

「ドッグランのみんなも吠えろー!」

『あおーん!』

「月に向かってもう一度吠えろー!」

『うおーん!』

「太陽に吠える時はー?」

『なんじゃ、こりゃぁー!』



 いつもながら警察犬よりも統率がとれてるんじゃないかと思うリスナーの訓練されっぷりに雪菜さんは目を輝かせた。



「これがいつもリスナーとして見てきた景色……! ユキ、スッゴク感動だよー!」

「たしかにこれはスゴいねー」

「これは本当にソラさんの人気がなせる技ですね。けれど、私達も負けていられませんね」

「配信者としてはたしかにリスナーとの掛け合いっていうのも大事でしょうからね。奏空、満足したか?」

「うん! それじゃあドミソラジオ、はっじめるよー!」



 奏空の楽しそうな声で今夜もドミソラジオが始まっていった。

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