コーナー⑦ パラレルシンキング
『おじらそみど!』
ドミソラジオを逆から読んだジングルが流れた後、奏空はにこにこ笑いながらコーナータイトルを読み上げた。
「パラレルシンキング!」
「このコーナーではリスナーが送ってきた並行世界の自分について紹介していきます。前回のこのコーナーも本当に酷いのが多かったな。最後のゆきやこんこんさんのだけはいいおたよりだったけど」
「流石は涙雪の異名を持つリスナーだよね。さて、まずはこちらのおたよりから」
奏空はおたよりを一つ選ぶとそれを読み始めた。
「ソラジオネーム、糸コンニャク歌劇派さん」
「過激派じゃないのかよ! いや、糸コンニャクの過激派もよくわからないけどさ!」
「たぶんしらたきを許さない派なんだよ。でも、しらたきと糸コンニャクって実は同じような物で、地域差とか製法の違いで呼び名が違うだけなんだよ」
「ああ、大判焼きとか今川焼みたいなもんか」
その言葉にコメント欄が動きを見せる。
『その話題は結構戦争かなあ(`・ω・´)ゞ敬礼』
『きのこたけのことはまた違った奴が始まるな』
『御座候を忘れるなよ?』
『は、回転焼きだろ?』
『二重焼きだろjk』
「ほーん、色々あるねえ。さて、おたよりに戻ろうかな」
コメント欄の喧騒を放っておきながら奏空はおたよりの続きを読み始めた。
「えー、ソラさん、リクさん、狂歌先生。こんばんは。並行世界の私ですが、今日もアニメを見ながらのんびりとしています。あ、ソラさんとリクさんは変わらずドミソラジオをやっているそうです。お二人ともいつまでも仲良くラジオを続けてください、だってさ」
「平和だ……結構平和な人だな、この人」
「なんなら二人のこれからについても触れてたしな。このラジオのリスナーの中では希少なんじゃないか?」
「だねー。それにしても、並行世界の私達もドミソラジオやってるんだね。その世界とのコラボもありだったり?」
「出来るならな。そういえばソラジオネームに触れるんだけど、糸コンニャクの歌劇ってどんななんだ?」
奏空は少し考えてから答えた。
「あれかな……糸コンニャクが出来るまでの過程をミュージカルでやるんだよ。畑作行程から始まって、出荷されるまでの奴」
「そこからやるのか。かなり大がかりじゃないか?」
「それは糸コンニャク歌劇派さんがいつかやってくれるよ。ということで、そのブルーレイをいつか送ってねー」
「また無理難題を……ほら、次のおたよりにいけ」
「はーい。次は……これかな」
奏空は次のおたよりを見つけると、それを読み始めた。
「ソラジオネーム、モサモサピエンスさん」
「なんかすごく毛深そうだな」
「ソラさん、リクさん、カイさん、こんばんは。はい、こんばんは」
「……ん!? ちょっと待て、俺いなくない!?」
「なに言ってんの、カイさん」
「カイじゃないけど!?」
「さーて、続きはっと」
狂歌の言葉には耳を貸さずに奏空は続きを読み始める。
「並行世界の僕は美人なお嫁さんを貰って社長として悠々自適な生活をしているようです。羨ましいので今から成り代わってきます。探さないでください、だってさ」
「ドッペルゲンガーみたいな事し始めたな。でも、成り代わったところで同じような生活出来るのか?」
「そこはモサモサピエンスさんの腕の見せ所だね。でも、バレて酷い目に遭うのも見たいなあ」
「よくある展開ではあるよな。成り代わったはいいけど、それがバレるみたいなの」
「だね。でも、リクに誰かが成り代わっても私はわかるから安心してね」
「そもそも成り代わられること前提なのかよ……」
「まあまあまあ。そういえば、狂歌君はそういう話書かないの?」
奏空の問いかけに狂歌は少し考えてから答えた。
「言われてみればないかもな。でも、そういうのも面白そうだし、少し考えてみるかな」
「いいねえ、スランプから抜け出せそうなんじゃない?」
「だったらいいな」
「うんうん、どんどん抜け出してくれたまえ。それじゃあ次のおたよりは……あ、ゆきやこんこんさんだ!」
奏空が嬉しそうに言う。巫女狐さんとブックメーカーさんの同期で、涙雪という異名を持つリスナーだが、今回はどんなおたよりを送ってきたのだろうか。
「読むね。えーと、ソラさん、リクさん、狂歌先生。こんばんは。並行世界の私ですが、なんと向こうのバーチャルカンパニーに入れた上に同期の二人にも会えたみたいです。お、よかったねえ。色々大変みたいですが、それでも嬉しさの中で頑張っているみたいで、私もなんだか嬉しくて涙が出てきます。他のリスナーの皆さんも今は色々辛いことがあるかもしれませんが、きっといい事があります。だから、頑張っていきましょう。応援しています、だって。いい子だねえ」
奏空がしみじみと言う中、コメント欄は再び動きを見せ始めた。
『ゆきやこんこんさん……(´இωஇ`)』
『あの子、配信とかでも明るく色々励ましてくれるんだよな……』
『ゆきやこんこん、マジ天使』
『オタクに優しいギャルって実在したんだな……』
「ふふ、たしかにいい子だよね。因みに、狂歌君ってゆきやこんこんさんとか巫女狐さんにも会った事あるの?」
「ん、あるぞ? 前に気分転換でカフェ行ったら、そこに三人ともいて、色々お話をさせてもらったんだ。あの時は色々心配かけちゃったけど、三人ともいい人達だよなあ……」
「それはたしかにね。それじゃあ最後のおたより行こうかな」
奏空は最後のおたよりを読み始めた。
「ソラジオネーム、ポも道路さん」
「ポもってことはこの人の中では他に道路になってる文字があるのか」
「みたいだね。ソラさん、リクさん、狂歌さん、ま――」
『プレリュード!』
「はい、アウト。まあ、神様の名前でもあるからアウトにするのどうなのかと思ったけどさ」
「並行世界の俺は漫画家として大成しているようですが、なんだか最近漫画のネタに困っているようです。何かいいネタはないでしょうか、だってさ。いいネタか……マグロとか?」
「寿司ネタじゃないだろ。けど、ネタか……狂歌はなにかあるか?」
狂歌は顎に手を当てながら考え始めた。
「うーん……いいネタって考えるよりもさ、まずは自分が描きたい物を描いていいんじゃないかな?」
「ほう、なんで?」
「いいネタって事は、ようするに売れる作品だろ? そんなの流行りのネタを描けば結構人気にはなるだろうけど、結局のところ自分が描きたくないのにそれを描いてもいつかは心が折れちゃうと思う。だからまずは自分の心の赴くままに描いてみたらいいんじゃないか? たとえそれが人気にならなくても、それが心に刺さる人は必ずいる。だから、自分に正直になってみたらいいと思うんだ」
「なるほど……いいこと言うねえ」
「まあ、自分にも言える事なんだけどな」
「けどまあ、それがわかってるならまだいいよな。さて、これでパラレルシンキングは終わりです。このコーナーでは並行世界の自分についてのおたよりをまだまだ募集しているのでどんどん送ってきてください」
「送りすぎたらくっついて消えちゃうかもね。ということで、パラレルシンキングでしたー」
奏空が言った後、俺達は次のコーナーの準備をし始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます