コーナー⑤ リ・クリエイト

『Do me so radio』


それっぽい単語を並べたジングルが流れた後、奏空は楽しそうにタイトルコールをした。



「リ・クリエイト!」

「……ん? 待て、次は違うコーナーだし、そのコーナーは打ち合わせで聞いてないぞ?」

「あ、言われてみれば……」

「だって、リク達には内緒で募集してたコーナーだから。このコーナーではアシスタントのリクをこんな風に改造したいっていう希望のおたよりを募集してたよ」

「か、改造……?」



 奏空は嬉しそうに頷く。



「そう! リクは今でも充分にいいんだけど、リスナーのみんながどんなリクになってほしいか気になってね」

「今でも充分ならいいだろ……」

「あはは、たしかにな。けど、それを聞いたら俺も気になってきたし、せっかく貰ったからには読まないとな」

「はあ……そうだな。それで、どんなのが来たんだ?」

「ちょっと待っててねー」



 奏空は鼻歌を歌いながらおたよりを選び始めた。そしてコメント欄が奏空の鼻歌についての感想を述べ始める中で奏空はおたよりを見つけた様子で笑みを浮かべた。



「まずは……これだ! ソラジオネーム、加齢ライスさん」

「その絶妙に頼みたくないメニュー名は嫌だな」

「ソラさん、リクさん、狂歌さん、こんばんは。リクさんの改造計画との事ですが、私は変声機能があるといいなと思います」

「……ん?」

「変声……え? 改造ってファッションとか見た目じゃなくて人体改造ってことなのか!?」



 まったく予想していなかった内容に俺達が驚く中、奏空はケロッとしながら頷いた。



「そうだね。ようは仮面ラ――」

『カプリチオ!』

「おっと、それも一応アウトだ。というか、どこの博士にそんなの頼もうとしてるんだよ!」

「んー……あが――」

『シンフォニー!』

「あとは……あ、だいじょ――」

『レクイエム!』

「スリーアウト! 一人目はともかく、二人目はマジでヤバイ博士だろ!」



 挙げられた名前に恐怖を感じる中、コメント欄は賑わっていた。



『そういえば、改造といえば男のロマンだよなあ(-_- )シミジミ』

『たしかに。二日酔いの翌日に飲むと美味しいよな』

『それはシジミ定期』

『トゥルルって頑張ってるんだ!』

「コメント欄は変わらずだし……そもそも変声機能とか何に使うんだ?」



 軽く頭が痛くなる中で聞くと、奏空は顎に手を当てた。



「んー……事件の真相を話す時?」

「えらく限定的だな。というか、一人目の博士に引っ張られてるだろ、それ」

「たしかに。にしても、変声機能か……子供の防犯用にはいいかもな。子供一人の時にセールスとか来た時に親の声に変えておいて代わりに断るとか。まあいたずらとかも横行しそうだけどさ」

「あ、面白そう。ということで早速改造手術を……」

「しないからな。ほら、次のおたよりにいけ」

「はーい。次は……あ、これがいいかな」



 奏空は次のおたよりを見つけると、楽しそうにそれを読み始めた。



「ソラジオネーム、可憐な焼け野原さん」

「こっちにも送ってくれてるのか。ただ、結構変わったおたよりが多いから、何を送ってきたかちょっと怖いな」

「さーて、どんなおたよりかな? ソラさん、リクさん、一つ飛ばして狂歌さん、こんばんは。あれ、一人飛ばされてる?」

「なんかそういう漫談家の人いるよな」

「いるねえ。愛するソラさんが愛するリクさんとの過ごすラブラブな毎日を想像しながら毎日を過ごしてます。そんなリクさんの改造希望ですが、顔を自在に変えられる機能がほしいです。ほう、顔を」

「声の次は顔かよ……」



 ますます俺が原形を留めなくなっていく中、奏空は楽しそうにおたよりの続きを読み始めた。



「顔をコネコネする事で顔を変えられるようになれば、色々なリクさんを楽しめてソラさんも面白がるかなと思いました。あとはドラキュラや狼男、フランケンのお供もいるとなおよいですね。あ、何かと思ったらかいぶ――」

『ラプソディー!』

「はい、アウト。そもそもどうやってそのお供達を調達するんだよ」

「求人出せばいいんじゃない? それで、スタッフさんとして頑張ってもらおう。えーと……おや? 昔と変わらずソラさんは楽しい人で安心してます。これからもドミソラジオを楽しく聞かせてもらいますね」

「……は?」



 可憐な焼け野原さんの言葉に俺は耳を疑った。昔と変わらずという事は、実は狂歌と同じように俺達が知る誰かという可能性が出てきたからだ。そしてコメント欄も驚いたようで、珍しい速さでコメントが流れていた。



『可憐な焼け野原氏、まさか狂歌先生と同じパターンなのか……!?ビクゥッΣ(゚ω゚ノ)ノ』

『おいおい、また面白い事になってきたじゃないか』

『可憐な焼け野原さん、そこんところどうなんだ?』

『ふふふ、さてどうでしょうねー。ソラさーん、私は今日もBIGLOVEを届けますからねー!』

「ソラ、心当たりはあるか?」

「心当たり……うん、あるね。今の言葉でピンと来たよ」



 奏空はとても嬉しそうに言う。つまり、奏空にとって馴染みのある人物であり、少なからず好感を持っている人物のようだ。もっとも、俺も狂歌もピンとは来ていないのだが。



「可憐な焼け野原……一体誰なんだ?」

「んー、まあリク達はピンと来ないよね。学生時代に部活動は違ったから」

「部活動……ああ、そういえばソラは黒魔術研究会だったよな。それで学校に迷い込んできた野良の黒猫のだぁくを使い魔とか言ってな」

「だぁくは可愛かったよ。尻尾の先がちょっと曲がってて、目つきは鋭かったけどね。ただ、だぁくの名に相応しいくらいの真っ黒な猫で、私も可憐な焼け野原さんもとても可愛がってたよ」



 奏空が懐かしそうに言うと、コメント欄はだぁくについてのコメントが流れ始めた。



『この言い方的にダークじゃなくて、だぁくとかなのかな?ฅ^>ω<^ฅ』

『名前は厨二心くすぐるけど、その表記だとかなり可愛いな』

『黒猫を可愛がるソラタソ……あれ、目の前にさっき始末したはずのアイツが……!?』

『事件の犯人的な奴がいて草』

「まあそのリスナーさんには自首してもらうとして、焼け野原さんにも後々ゲストとして来てもらうのもいいなあ」

「まあ特に悪いわけじゃないしな。さて、リ・クリエイトのおたよりはまだあるのか?」

「あることはあるけど……声と顔を変える機能が揃ったし、今日のところはここまでー。このリ・クリエイトのおたよりはまだまだ募集してるから、どしどし送ってきてねー。ということで曲紹介かな。リク、お願いね」

「わかった。玉藻で『千変万化』」



 篠笛の音色から始まった和の雰囲気に溢れた曲が始まる中、俺達は本来の次のコーナーの準備を始めた。

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