第10話 黄瀬蓮凪・1-5
「酷い。毎日頑張って配っているのに」
「ンなこと知らねーよ。努力の方向がおかしいっていうか、普通に資源の無駄遣いだろコレ」
「“
「ゾぺ……なんだそれ。ホント気持ち悪いなお前」
そんな調子で口喧嘩が
思い返してみると、私にもかなり非があるだろう。杏栗ちゃんは乱暴者だったけど、主張は
でも、後悔先に立たず。
毎日のように暴言の集中豪雨だ。「宗教で頭がイっちゃった女」とか、「いるだけで悪影響だから消えろ」とか、その他諸々レパートリー豊富。他のクラスメイトも味方につけ、徹底的に除け者扱いされた。
私物を隠されるのは日常茶飯事だったし、酷い時は直せないほど
次第に抵抗する気力は消え失せていった。いじめられても不器用に笑い、辛さも悔しさも誤魔化すばかりだ。多分、それが余計火に油を注いだのだろう。杏栗ちゃんのいじめはどんどん苛烈になっていった。
それなのに、担任の先生は何もしてくれないまま。それどころか、学校全体も教育委員会も一切動かず。単なるいじめと違って、大変面倒臭い家庭の問題が絡むせいだろう。両親に「学校でいじめられるから変な宗教を辞めて下さい」なんて言えるはずがない。ハイリスクノーリターン。見て見ぬ振りが一番という判断も頷けてしまう。
結局、六年生半ばで杏栗ちゃんが引っ越し、いじめはあっけなく幕を下ろした。けれど、それから卒業式までずっと、クラスメイト達から無視され続けた。もちろん、担任の先生も
※
溜め込む一方だった気持ちを吐き出したおかげか。胸中は幾分晴れやかだ。
とはいえ、ドン引きは免れない。改めて言語化してみると、私の家も生活も相当だ。皆に忌避されるのも仕方ないと、つい自虐に走りたくなる。
果たして、朝音ちゃんはどう受け止めたのだろう。
おっかなびっくり顔を上げると、真っ直ぐこちらに注がれる視線とぶつかった。その目尻からはぼろぼろと、
「ぐずっ……助けてくれる人はいなかったの?」
朝音ちゃんが涙声で聞いてくる。
「全然だよ。みんな関わりたくないみたいだったから」
「親戚の人とか、近所の人も?」
「どっちも駄目だった」
以前、親戚の人が脱会のために
近所の助けも望めない。むしろ、我が家は盛大に敵視されている。主な原因はお母さんだ。杏栗ちゃんの家同様しつこく布教に回ったらしく、私含めて黄瀬の者とは口を利かぬよう、村八分扱いになってしまった。
「愚痴を聞いてくれてありがとう。でも、これ以上私と関わらない方がいいと思う」
裏腹だ。
本当は一人で抱えたくない。
でも、一緒にいたら宗教仲間の
それなのに朝音ちゃんは、
「ううん。関わらせてもらうから」
私の本当の望みを
「あたしも、黄瀬さんもおんなじだよ。二人で一緒に乗り越えればいい。もう、一人で悩む必要ないんだから」
「でも、私は」
「いいの。あたし達、友達でしょ?」
その言葉に、胸の奥で何かが弾けた。
そんな私を、朝音ちゃんは優しく抱きしめてくれる。
後はもう、我慢なんてできなかった。
彼女の胸に顔を
弱い者同士、傷を舐め合っているだけなのかもしれない。
何も解決していないし、その場しのぎの安心なのかもしれない。
それでも。
そうだとしても。
初めてできた友達が嬉しくて、頼もしくて。
体の芯がじんわりと温かくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます