【400文字・つながるショート】笑う、観覧車

西野 うみれ

二身上の都合

 どんな理由にせよ、辞めるってことは命に関わる。簡単にはいかない。殺し屋を辞めたいって言って「はいそうですか」とはならない。必ず口封じをされる。アルバイトから始めた殺し屋も気が付いたら正社員。もう十年だ。


 そろそろ潮時かという時に課長職への打診があった。結局は管理と実務をこなす都合のいい仕事だ。残業代はない。月曜日が憂鬱で、先週は無断欠勤をした。無断欠勤三回で、口封じ。残り一回。以前、体調不良で寝込んで連絡ができずに休んだら無断欠勤扱いだった。とにかくブラックだし、今辞めないと。


 ウチの会社、殺し屋には必ず専属の悪魔が憑く。相棒の悪魔に相談したら、職業選択の自由は憲法で保証されてる、って言うもんだから、明日上司に退職届を出してやる。相棒も一緒に辞めるって言ってくれた。退職届には「二身上の都合により、退職いたします」と書いてやった。


 明日からは追われる身だが、二人三脚で来るものは返り討ちにしてやる。

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