第25話:得られた情報は……

 俺は飲み屋街へ向かうと、そこには結構な数で真昼間から営業をしている酒場があった。

 外には警ら隊と思われる人物がちらほらと歩いており、酔った誰かが暴れても大丈夫なようにということだろうが、それはそれで治安的にどうかと思う。

 まあ、俺にとってはそんなことどうでもいいか。

 というわけで、俺は警ら隊や他の人物の影も移動に使いながら、営業中の酒場へ入っていく。


「……ぷはー! かぁー、真昼間から飲む酒は美味いなあ、おい!」

「だからって飲み過ぎるなよ。お前、体だけはでかいんだからな。運ぶのが面倒なんだ」


 するとそこには男性二人の客が、顔を突き合わせて酒を飲んでいた。

 一人は二メートルに迫ろうという巨体で、体格に合わせた隆起する筋肉がとても目立つ。

 もう一人は長身痩躯であり、どこか飄々とした雰囲気を持つ。


「お前は毎回毎回、ぐちぐちぐちぐち。そんなんだからモテないんだぞ?」

「同じくモテてないお前に言われてもなんてことないね」

「がはははは! それはそうだな!」


 ……どうしよう。全く身にならない会話だな。

 だがまあ、仲間内で飲んでいたら、会話の種なんてそんなもんか。


「それで、昨日の依頼はどうだったんだ?」

「聞くな! あの依頼が面倒だったから、こうして真昼間から飲んでいるんだろうが!」

「わざわざ火山まで減魔鋼を運ぶだなんて、誰が考えても面倒この上ない依頼だろうに。どうして受けたんだ?」


 おっと。

 どうやら巨体の男性は、昨日の王国軍の中にいたみたいだ。

 それにしても、依頼か。どうやらこの二人は冒険者のようだな。


「そんなもの、報酬が良いからに決まっているだろう!」

「はいはい。お前は金に目がないからな」

「その金で俺は飲んでいる! がはははは!」

「分かったから、無駄に笑うな! うるさい!」


 ……うん。その意見には同意しよう。


「ったく。もっと有益な情報はないのか?」

「有益と言われてもなぁ……なんだか、変な剣士がいたなぁ」

「なんだ? そのどうでもいい情報は」

「どうでもいいとはなんだ! あれは間違いなくどこかのお貴族様だったんだぞ!」

「……はあ? お前、それマジで言っているのか?」


 おや? あの一行は王国軍なわけで、率いていたのも王族だ。

 まあ、身を隠していたようだけど、どちらにしろ王国軍であれば貴族の一人や二人、軍の中にいてもおかしくはないだろう。


「……お前それ、王国軍ってことはないのか?」

「知らん!」

「なんでだよ!」

「俺はただ、減魔鋼を運ぶ一行としか聞かされていないからな!」

「もっと相手を疑うってことを覚えろよなぁ」


 その通り。


「……しかし、王国軍だったとしたら、火山に減魔鋼だなんて、何をするつもりだ?」

「知らん!」

「はいはい、そうだろうな」

「……だが、魔獣退治という風には見えんかったなぁ」


 おや? 巨体の男性も、意外と周りを見えているのか?


「どういうことだ?」

「結構な数の減魔鋼を運んでいたからな。巨大な魔獣を倒すためだとしたなら、むしろ魔法が必要になりそうなもんだ。だが、運んでいたのは減魔鋼」

「……つまり、巨大な魔獣ではないってことか?」

「おうよ! そして、あの火山には強力な魔獣は確かにいるが、巨大な魔獣だろう? 小型であれだけの減魔鋼を必要とする魔獣など、少なくとも俺は思いつかん」


 ……お、おぉぅ。

 先ほどまでの脳筋っぽい雰囲気はどこへやら、巨体の男性は自らの考えをしっかりと持って言葉にしてくれた。


「……これってもしかして、まーたあのバカ勇者が指示したことじゃないのか?」

「なんだと! だとすれば、俺はバカ勇者に力を貸してしまったということか!」

「バカ! 声が大きい!」


 ……どうやらあの勇者、王都の冒険者からも信用されていないらしい。

 王国軍の兵士から、王都の冒険者から、マジであの勇者は大丈夫なのか?


「……これでも警ら隊だって王国軍所属だろうが! 聞かれたら不敬罪でしょっ引かれるぞ!」

「問題ないだろう! 何せあいつらも時々文句を言っているからな!」

「……それはまあ、そうだがなぁ」


 結局、あの勇者は警ら隊からも嫌われているようで、最終的には痩躯の男性が頭を掻きながらため息を吐いた。


「……これ、また近いうちに魔王領へ侵攻するんじゃねぇか?」

「お? 稼ぎ時か?」

「バーカ。わざわざ負ける戦に行く必要なんてないだろう」

「だから稼ぎ時なのだ! 何せ同業者が減るからな!」


 巨体の男性の言葉を聞いた痩躯の男性は、思わず顔を上げて何度も瞬きを繰り返いしている。

 いや、まあ確かに俺も驚いた。

 巨体の男性、脳筋ってだけではないようだ。


「……はは! 確かにな!」

「俺たちは俺たちで稼ぎ時に稼ぐぞ! がはははは!」


 最後に二人がグラスをぶつけ合うのを見届けた俺は、そのまま影の中を移動して酒場の外に出た。

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