第15話:楽しい時間の後には
「……やっべぇ、二日酔いだぁ」
頭が、ガンガンする。
正直なところ、このままずっと寝ていたいのだが、そうも言っていられない。
俺は頭痛に顔をしかめながらベッドから下りると、身だしなみを整えてから部屋を出る。
今日は戦争のあとには必ず行われる魔王会議の日であり、議題は勇者と三人の英雄についてだ。
実際に戦ったイボエルが中心になって話が展開されるだろうけど……正直、不安だ。
脳筋で単細胞をもじって名付けられたイボエルが、詳しく勇者たちのことを説明できるのか、不安でならない。
というわけで、今日の俺は魔王会議を二日酔いごときで欠席するわけにはいかないのだ。
「……さて、いくか」
会議室の前で一息ついてから、俺は扉を開けた。
「遅いぞ、シャドウ」
「申し訳ございませんでした、魔王様」
すでにアリスディアと死四天将は集まっており、俺は早足で指定席になっている彼女の斜め後ろに立つ。
「これより、魔王会議を始める!」
俺が勇ボコの世界に転生した時と同じ声をアリスディアが発し、魔王会議が始まった。
前回の魔王会議は、会議と言えるようなやり取りは一つもなかった。
ただただ、互いが互いの得意分野で王国軍をぶっ飛ばすと語っただけ……ブラックは違ったけど、ほぼそんな感じだ。
しかし、今回は得意分野でぶつかりにいったイボエルが倒されそうになっただけに、少しは会議の内容に進展を見たいところだ。
「今回の議題は、イボエルが戦った王国軍が異世界から召喚したであろう勇者と、時同じくして誕生した三人の英雄についてだ。イボエル、詳しく説明してもらえるか?」
「もちろんです!」
アリスディアの指名に力強く返事をしたイボエル。……頼むから、変な説明はしないでくれよ?
「とにかく強かったですな! 俺を吹き飛ばせるくらいに力強く、そして自身に満ち溢れておりました!」
「ほほう? イボエルを吹き飛ばしたか。して、どのような戦い方だった?」
「真正面からドンッ! ときて、ズバッ! っと斬られましたな!」
……擬音!
「さ、三人の英雄はどうだった?」
「これもなかなかに手ごわいおなごたちでしたな! キラッと光って回復すれば、どでかい炎がボワッと来まして、最後にシュンズバッと! いやー、驚きましたぞ! がはははは!」
「「「「…………は?」」」」
いや、そうなるよ。アリスディアも他の死四天将も、そういう反応になるって、イボエル。
「ちょっと、イボエルちゃん? そんなんじゃあ分からないわよ?」
「そうだよー! もっと分かりやすく教えてくれなきゃー!」
「……さっぱりだ」
レイド、ボルズ、ブラックが順番に苦言を呈してきた。
「そうか? 俺には間違いなく伝わっているがな!」
「「「それはイボエルが見てきたから!」」」
「……はぁ。シャドウよ、お主はどうだ? イボエルと共闘したのだろう?」
おっと、ここでアリスディアから俺に話が振られてしまった。
するとイボエルだけではなく、他の死四天将の視線も俺に集まってきた。
「……シャドウちゃん、戦えたの?」
「初耳だよー?」
「……以外だ」
「自衛できるくらいの魔法を使えるだけで、死四天将の方々のように強いわけでは――」
「何を謙遜しておりますか! シャドウ殿のおかげで、俺は生きているようなものだぞ!」
ちょっと、イボエル! 変なこと言わないでくれよ!
俺はアリスディアの参謀で、黒子として暗躍したいの! あの時の戦いはいろいろと予想外が重なったから、仕方なく前に出ただけなんだからな!
「そのあたりの話はあとにしておこう。まずは勇者と英雄たちの話だ。シャドウから見た話も聞かせてもらおう」
うーん、これはもう、断われない感じになってしまった。
勇者との戦いから見ていたとイボエルにバレる可能性はあるけど、この場にはアリスディアもいるし、問題はないだろう。
「……かしこまりました。まずは勇者ですが、自己顕示欲の強い男であり、全てを真正面から打ち倒せると思い込んでいる節がありました」
「思い込んでいる、だと?」
「はい。勇者イコール、なんでもできると勘違いしているのでしょう。もしかすると、王国軍からそのように言いくるめられていたのかもしれません」
実際はシナリオ通りならそうなると思ってのことだが、そんなことをここで説明しても信じてもらえるはずがない。
ならば、それっぽい説明で納得してもらうしかないだろう。
「異世界から召喚されたのであれば、こちら側の常識などがないかもしれないか」
「はい。ですので、王国軍の傀儡にされている可能性は高いかと。とはいえ、あの戦闘力は驚異的です。召喚されて数日でイボエル様と対等に戦えるとなれば、日を重ねれば重ねるほど、その実力を高めていくことでしょう」
今はまだいいかもしれないが、時間が経てば俺たちではどうしようもなく強くなる可能性もある。
できれば勇者だからなんでもできると勘違いしている間には片を付けておきたい。
「確かに、その通りだな。だが、勇者を倒す前には三人の英雄がいるのだろう? そ奴らはどうなのだ?」
勇者の話は終わりだと言わんばかりに、英雄の話へと話題を変えたアリスディア。
「はい。おそらくですが、聖女は回復や強化魔法に特化した英雄。賢者は魔法攻撃に特化した英雄。剣聖は卓越した剣技に特化した英雄でしょう。それも、今まで見てきた中でも最高峰、勇者と同じく規格外な存在だと思っていただければ問題ないかと」
「勇者と同じ規格外な存在か。……我ら魔族から見れば、造作もなく倒せそうではあるがな」
アリスディアの呟きにレイド、ボルズ、ブラックが大きく頷く。
しかしイボエルだけは、首を横に振っていた。
「いいや、油断しない方がいいでしょうな。実際に戦ったから分かるが、英雄たちもこれからさらに成長するだろう。そうなると、手が付けられなくなるかもしれん」
お、おぉ。イボエルがまともなことを言っている。
「……ふむ、イボエルがそう言うのであれば、そうなのだろう」
「直感だけで死四天将に上り詰めたような男だものね」
「とはいえ、イボエルの直感力はバカにできないよねー!」
「……同意しよう」
「がはははは! そうだろう、そうだろう!」
……それ、ちょっとバカにされてないか? 本人がなんとも思っていないならいいんだけど。
「可能であれば各個撃破したいところですが、勇者は英雄たちを常に侍らせ……ではなく、共に行動することでしょう」
「ならば、どうにかして孤立させる必要がある、ということか……難しいな」
……結局、この日の魔王会議ではその方法までは思いつかず、会議は終了した。
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