【完結】虚空の迷宮

湊 マチ

第1話 虚空の迷宮

宇宙の闇に浮かぶ「虚空の迷宮」。その巨大な十字架形の構造物は、青く輝く不気味な光を放っていた。エクスプローラー号の窓からその姿を見つめるアレックス・カーターの胸には、未知への期待と不安が交錯していた。


「到着した。準備はいいか、皆?」


アレックスの声に、エミリー・ホワイト、マイケル・リー、ソフィア・グリーン、そしてデイビッド・スミスがそれぞれ頷く。全員が無重力状態の中で慎重に動き、降り立つ準備を進めていた。


「この迷宮は一体何なんだろう…」エミリーが呟いた。彼女の目は興奮に輝いている。


「それをこれから確かめるんだ」とアレックスが応えた。「全員、慎重に行動してくれ。ここは未知の領域だ。」


無重力状態で降り立った調査隊は、迅速にベースキャンプを設置し始めた。各自の役割が確認され、エミリーは異次元技術の初期調査に取りかかった。彼女は重力制御装置を見つけ、その未知の技術に驚愕する。


「これが本当に動くなんて…信じられない。」エミリーの声には驚きが含まれていた。


マイケルは隊員の健康状態をチェックし、ソフィアは心理的な影響を観察していた。一方、デイビッドは機械の修理と調整に集中していた。


アレックスは全員が集まったところで翌日の探索計画を説明した。「明日はこの迷宮の内部を本格的に探索する。異次元技術の謎を解明するのが我々の目的だ。」


全員がそれぞれのテントに入る中、ソフィアは一瞬不安を感じた。しかし、彼女はチームの団結力を信じ、休息を取ることにした。


虚空の迷宮は、その暗闇の中で静かに待っていた。これから起こる出来事を知る者は誰もいない。しかし、調査隊の運命はすでに動き出していた。


翌朝、宇宙の静寂を破るように、エクスプローラー号のベースキャンプから探索隊が出発した。虚空の迷宮の内部は、外見からは想像もつかないほどの複雑な構造をしていた。迷宮の壁は異次元のエネルギーで微かに輝き、奇妙な模様が浮かび上がっていた。


アレックス・カーターが先頭を切って進む。「全員、気を引き締めて。この迷宮には何が待ち受けているかわからない。」


エミリー・ホワイトは持参した機械で壁のエネルギーを解析していた。「このエネルギー、地球の物理法則では説明できない…。異次元の力が働いているようね。」


マイケル・リーは周囲を警戒しつつ、隊員の健康状態をチェックしていた。「みんな、無理をしないように。異次元のエネルギーがどんな影響を与えるか、まだわからないんだから。」


ソフィア・グリーンは心理的な影響を観察しながら歩いていた。「ここは本当に不気味ね…。皆の精神状態に注意を払わなければ。」


デイビッド・スミスは持ち前の機械知識で、迷宮内の異次元技術を修理しながら進んでいた。「この装置、まるで生きているみたいだ。動作原理が全くわからない。」


探索が進む中、一行は最初の異次元パズルに遭遇した。部屋の中央に立つ奇妙な装置が、次のエリアへの扉を開ける鍵となっていた。


「これはパズルだな。」アレックスが装置を見つめながら言った。「みんなで協力して解こう。」


エミリーが装置を解析し始める。「この装置、次元間の接続を利用しているみたい。でも、どうやって操作するのか…」


ソフィアが周囲の模様を注意深く観察していた。「この模様、何かのヒントになっているんじゃないかしら?」


デイビッドが装置の一部を調整しながら言った。「もしかすると、模様の配置が重要なのかもしれない。ここをこうして…」


皆が知恵を出し合い、慎重に操作を進めた結果、装置がカチリと音を立てて動き出した。次の部屋への扉がゆっくりと開かれる。


「やった!」エミリーが歓喜の声を上げた。


「よし、次へ進もう。」アレックスがチームを鼓舞するように言った。


一行が次の部屋に入る直前、ソフィアがふと立ち止まった。「この先、何が待っているのかしら…」


アレックスはソフィアの肩を軽く叩き、力強く微笑んだ。「どんな試練が待っていようとも、我々は一緒だ。恐れるな。」


ソフィアはその言葉に勇気をもらい、チームと共に次のエリアへと進んでいった。虚空の迷宮は、さらに深い謎を抱えたまま、一行を迎え入れていた。


調査隊が進む迷宮の通路は、徐々に異様な雰囲気を帯びてきた。壁の模様が動き出し、次第に時間の歪みが感じられるようになっていた。


「皆、注意して。この先に何があるか分からない。」アレックス・カーターが隊員たちに警告する。


突然、通路の先に広がる部屋が現れた。その部屋はまるで時間が歪んでいるかのような不思議な光景を呈していた。アレックスが先に進み、部屋の中を探る。


「これは…タイムルームだ。」アレックスの声には驚きが含まれていた。「この部屋では時間が異常に歪んでいる。」


エミリー・ホワイトが部屋の中央にある装置に近づいた。「ここには過去と未来が同時に存在しているみたい。信じられない…」


ソフィア・グリーンは壁に映し出された未来の映像に目を奪われていた。「見て、ここに映っているのは…私たち?未来の私たちが見えるわ。」


映像には、調査隊のメンバーが次々と襲われるシーンが映し出されていた。その中で、マイケル・リーが他のメンバーに襲われる瞬間が特に鮮明に映っていた。


「これは…未来の予言なのか?」マイケルが動揺を隠せずに言った。


「冷静に考えろ。これは時間の歪みが見せる一つの可能性に過ぎない。」アレックスがマイケルを落ち着かせようとする。「ここでの経験が現実になるわけではない。」


エミリーは装置を慎重に操作しながら言った。「この装置、時間の流れをコントロールできるみたい。でも、正確にどう動くのかは分からない。」


ソフィアは壁の映像に見入ったままだった。「もしこの未来が現実になるとしたら、どうすれば防げるのかしら…」


デイビッド・スミスが装置の一部を調整しながら言った。「ここをこうして…もしかすると、この装置を使えば時間の流れを元に戻せるかもしれない。」


エミリーとデイビッドが協力して装置を操作すると、部屋の中の歪んだ時間の流れが徐々に正常に戻り始めた。しかし、その途中でエミリーが手を止めた。


「待って、何かがおかしい。」エミリーが装置から手を離し、部屋の隅を指差した。「そこに何かがいる…」


皆の視線が一斉にその方向に向けられた。そこには、マイケルが倒れている姿が映し出されていた。しかし、マイケルは既にそこに立っているはずだった。


「これが未来の姿だとしたら…」ソフィアが呟いた。「でも、どうして未来のマイケルがここにいるの?」


アレックスがその場の緊張感を和らげようと声を上げた。「とにかく、この部屋を出て次に進もう。ここでは何が現実で何が幻か分からない。」


一行は慎重にタイムルームを抜け、次の部屋へと進んだ。迷宮の奥深くへと足を踏み入れるたびに、謎と危険が増していくことを彼らは感じていた。これから待ち受ける試練がどれほどのものか、誰も知る由もなかった。

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