第16話 ヨボヨボの魔術師から魔術を習おうとしたら空の上から落とされました
生まれて始めて私は白馬の騎士様に助けられたのた。
というか、白馬の騎士様に助けられる方が珍しいと思う。
大半の女の子は夢見るだけで、見ることもないのだ。
でも、考えたら前世もあんな酷いことしていたのに、白馬の騎士様ならぬセドに助けられた。
もっともその後、ドジな私は殺されてしまったけれど。
悪いのは逃げられなかった私だ。セドがせっかく命を張ってあの狂人を相手に助けようとしてくれたのに! それまで嫌味なやつだとか酷いやつだとか思っていて申し訳なかった。
私なんかが転生できたんだから、命をかけてくれたセドはもっと良い世界に転生できているはずだ……多分……
前世でも白馬の騎士様ならぬセドに助けられ、今世でも再び白馬の騎士様に、今度は完璧に助けられたのだ。
騎士様はとても格好良かった。悪をバタンバタン倒してくれて、私は感激したのだ。
白馬の騎士様にまずお礼を言おうと思ったのだが、白馬の騎士様は駆けつけた騎士団に私を預けると、名前も告げずに何処かに行ってしまったそうだ。
なも名乗らず去るなんて、なんて格好いいんだ。
私はあんな風になって皆の役に立ちたいと心の底から思った。
前世は知らずとは言え、いや、最後は知っていたし、いやいやでも、悪いことをしていたのは事実だ。
そして、今世は悪役令嬢だ。
浮気な皇子と意地悪な母違いの妹に嵌められて、このままいくと処刑か娼館行きまっしぐらだ。
そんなのは嫌だ。
それを回避するために私はまず強くなろうと思った。
白馬の騎士様みたいに。
そうすれば追放されても、何とか生き残っていけるはずだ。
破落戸共が襲ってきても返り討ちにすれば良いのだ。
それに出来たら今世は、前世と違って世の中の人のために役立つことをしたい。
人を騙して金を取り上げるなんて事は絶対に二度としないのだ。
私は心に誓った。
そして、そのためには、まず強くならないと。
私はまず、お祖父様に剣術を習いたいと頼んだのだ。
「何を言う、キャロル! 女が剣術など習う必要はない」
お祖父様はにべもなかった。
「でも、お祖父様、またこんな事があればどうするのよ」
「二度と無いようにお前の護衛は、もっと腕の立つものを揃えてやる」
お祖父様はなかなかうんと言ってくれなかった。
でも、守られているだけじゃダメだ。
皇太子に断罪されたら、絶対に護衛はついてきてくれない。
そうなったら自分の身は自分で守るしかないのだ。
そのためにはまず強くならないと。
私は粘り強く祖父と交渉したのだ。
そして、
「魔術ならば教師を紹介してやろう」
と仕方無しにお祖父様は習えるようにしてくれたのだ。
「お嬢様、こちらの老人が魔術の先生です」
新しく私付けになったメイド兼護衛のエイミーが、裏庭で私に紹介してくれたのはヨボヨボの老人だった。
「「何だ」」「ガキか!」「老人か!」
私とおじいさんの声が半分重なった。
「ウホンウホン、お嬢様、ジャルカ先生です」
エイミーはその老人ジャルカと私に注意した。
「可愛い女の子と聞いておったが、このようなガキでは教えようがないではないか。少し真面目に教えたら死んでしまうぞ。死なれても困るからの。その方になら教えてやっても良いぞ」
ジャルカは生意気にも私を無視して胸の大きなエイミーに絡みだしてくれたんだけど。
私はムッとした。完全に頭にきてしまったのだ。
「素晴らしい魔術師の先生だとお祖父様からは聞いていたのに、こんなヨボヨボのおじいちゃんだなんて。教える前に死んでしまいそうだわ」
私がイヤミを言うと
「何じゃと小娘。よく言った」
ジャルカはきっとして私を睨みつけてきた。
「そこまで言うなら教えてやろう。しかし、儂の教えは厳しいぞ」
そう言うと、ジャルカは指を鳴らした。
その瞬間だ。
「えっ」
私は唖然とした。
なんと、私は中庭の上空100メートルにジャルカと共に浮かんでいたのだ。
「小娘。魔術を発現するためには。まず、自らの命を死地におかねばならない。これから儂はその方をここから落とす。自らの魔術を発動して止めてみよ」
「えっ、嘘! どうやって魔術を使うのよ。何も知らないじゃない。こんな所から落とさせたら死ぬわよ」
私は必死にジャルカにしがみつこうとした。
「儂に魔術を習いたいのであろう。まずは自らの命を死地に置くのじゃ」
しかし、ジャルカは無情にもそう言うと私を下に突き落としてくれたのだ。
「ぎゃ、ギャーーーー!」
私は悲鳴を上げて真っ逆さまに地面に向けて落ちていったのだ。
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約最女の運命やいかに
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