第九十六話 怪しい贈り物
ルルちゃんが誕生した翌日、ヘンリーさんの予想通りにさっそく貴族が誕生日プレゼントを持って屋敷にやってきました。
しかし、最初にやってきたのは僕も知っている人たちでした。
「すまんな、仕事前だから朝早くて」
「どんなものが良いか聞いているから、リクエスト通りのものを持ってきたぞ」
「こちらこそ、わざわざ申し訳ありません」
マリアさんやシンシアさんのお父さんが、出勤ついでにプレゼントを持ってきてくれました。
ちょうどランディさんも出かけるところだったので、良いタイミングですね。
寝ているルルちゃんを見て、みんなほっこりしていました。
その後も、ギルドマスターのお父さんとかがプレゼントを持ってきてくれたけど、至って普通のものでした。
なので、レガリアさんとガイルさんもホッとするものでした。
念のためにと、ドラちゃんがイザベルさんとルルちゃんのいる部屋にいます。
というか、ドラちゃんもルルちゃんの寝ているベビーベッドに止まっている程興味津々だよね。
しかし、やっぱり困ったプレゼントを持ってきた人も現れました。
「お子様のお誕生、誠におめでとうございます。ルルティア様にピッタリなプレゼントを御用意いたしました」
先ずは、まだ赤ちゃんなのに大人の服を持ってきた人です。
しかも、フリフリのスケスケのドレスです。
持ってきた本人に悪気はないのはスラちゃん鑑定で分かったのですが、受け取るには少々困ります。
多分お蔵入り間違いないと、レガリアさんが言っていました。
「ルルティア様のお誕生、誠におめでとうございます。ルルティア様によく似合うものをお持ちいたしました」
続いては大きなぬいぐるみなんだけど、とっても怖い形相をしています。
たまたま一緒にいたセードルフちゃんも、思わず怖がるレベルです。
念のために鑑定しても、やっぱりただの顔つきの悪いぬいぐるみでした。
これも、間違いなくお蔵入りですね。
その後も、大抵の人は問題ないものを持ってきているんだけど、時々困ったものを持ってくる人もいました。
そして、遂にスラちゃん鑑定で駄目なものを持ってきた人が現れました。
「その、お子様にこちらをお持ちいたしまし……」
「あー! それ駄目だよ!」
「「「えっ!」」」
如何にも怪しそうな小太りの貴族が持ってきたのは、見た目はどこにでもある置き時計でした。
でも、スラちゃんとリーフちゃんがダブルで駄目だしをしたので、セードルフちゃんも思わず叫んじゃいました。
全員の視線がセードルフちゃんに集まる中、僕は直ぐ様置き時計を鑑定しました。
「うーんと、集音魔導具って結果が出ています」
「ふふふ。スラちゃん、その素敵な置き時計を分解してくれるかしら」
レガリアさんがスラちゃんに命じると、スラちゃんも敬礼ポーズをして置き時計に向かいました。
うん、置き時計を持ってきた貴族は顔面蒼白で汗をダラダラとかいていますね。
そして、こっそりと帰ろうとしたのだけど、既にメアリーさんが先回りしていました。
更に凄い人が部屋に入ってきたので、この貴族は帰れなくなりました。
コンコン、ガチャ。
「こんにちは、赤ちゃん見にきました!」
「ちわー!」
応接室に、元気なアーサーちゃんとエドガーちゃんの声が響きました。
そして、マリアさんだけでなくシャーロットさんも部屋に入ってきました。
その間も、スラちゃんは置き時計をかちゃかちゃと分解していました。
リーフちゃんも、スラちゃんの横で見学しています。
なので、マリアさんとシャーロットさんの視線は、スラちゃんと側にいるセードルフちゃんに向けられていました。
そして、セードルフちゃんが右手を高々と上げました。
「あっ、まどーぐあったよー!」
「「「なっ!」」」
セードルフちゃんの声に、察しの良いマリアさんとシャーロットさんの厳しい視線がもはや血の気を失った貴族に向けられました。
そもそも、言い逃れできない証拠が目の前にありますね。
でも、念の為にもう一回鑑定を行います。
「やっぱり、集音魔導具って出ていますよ」
「これは、話し声を盗聴するための魔導具よ。ふふふ、赤ちゃんのいる部屋に置いて一体何を聞こうとしたのかしら……」
「ヒィィ……」
思わずレガリアさんがブラックな笑みを浮かべているけど、僕もその気持ちは良くわかるなあ。
結局、その貴族は駆けつけた兵によってドナドナされていきました。
こういう貴族がいるから、もしかしたらヘンリーさんは僕とスラちゃんに屋敷に残った方が良いと言ったのかもしれませんね。
「さあ、気を取り直しましょう。ルルちゃんを案内してあげるわ」
「「わーい」」
嫌なことはさっさと忘れて、赤ちゃんを愛でましょう。
ということで、レガリアさんはルルちゃんを見に来た王家の面々を部屋に案内していきました。
ガイルさんは、集音魔導具を持ってきた貴族の対応で忙しく動いていました。
後ほど聞いたのだけど、あの貴族はオラクル公爵家とは全く親しくない貴族で、何とか取り入ることができないかと情報収集のために魔導具を仕込んだそうです。
でも、不正な魔導具であるのは間違いないし、よりによって王家の目の前で発覚したので置き時計を持ってきた当主はその座を降りざるを得なかったそうです。
多額の罰金も納めたようですが、全部ルルちゃんの教育のために使われるそうです。
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