第二十八話 この人があの人のお父さん?
エミリーさんに手を引かれながら暫く歩くと、とっても大きな食堂に出ました。
ここが、話に出た大食堂なんだね。
オラクル公爵家の食堂よりも、何倍も大きいです。
大きいテーブルの他に幾つかのテーブルがあり、そのテーブルに座っている四人の中にランディさんがいました。
僕の手を引くエミリーさんは、そのランディさんたちのいる隣のテーブルに座りました。
エミリーさん以外の王家の方も来ているので、ランディさんたちは席から立ち上がっていました。
陛下たちも、僕が案内されたテーブルにつきます。
「皆、楽にしてくれ。ちょうど面白い人材が現れたから、話を聞こうと思ってな」
陛下がそんな事を言ったので、貴族の方々は一斉に僕の方を見ました。
ランディさんだけ、うんうんと頷いているみたいですね。
そして、ランディさんはマリアさんに話しかけました。
「マリア殿下、お子様が大活躍とお聞きしましたぞ」
「ええ、とっても張り切っておりましたわ。スラちゃんを抱いて、ナオ君と一緒に兵の治療のお手伝いをしましたわよ」
「頑張ったー!」
「たー!」
僕たちが兵の病院に行くのは事前に分かっていたので、ランディさんはマリアさんに話しかけたんだ。
ニコニコなアーサーちゃんとエドガーちゃんを見れば、充実した慰問だと分かりますね。
そして、この場にいる人は、僕とスラちゃんで大部屋に入院している兵を全員治療したのも知っていそうです。
陛下がランディさんに向かって顔で指示をしたので、ランディさんがこの場にいる貴族を紹介してくれるそうです。
でも、その前に僕から挨拶しないと。
「初めまして、僕はナオです。スライムはスラちゃんです。宜しくお願いします」
僕とスラちゃんがペコリと挨拶をすると、貴族の方もうんうんと頷いていました。
そして、ランディさんがとある事を教えてくれました。
「ここにいる貴族は、全員ナオ君の境遇を知っている。元々優秀な魔法使いだと我々がナオ君に目をつけていて、冒険者ギルドで三人からパーティを追放されて、ヘンリー殿下のパーティに入ったこともだ」
じゃあ、この場にいる貴族は全員凄い人なんだ。
ちょっとドキドキしていたら、次々とビックリする事が判明しました。
「まず私の前に座っているのが、マリア殿下の父君でもあるベイズ公爵だ」
青髪に白髪の混じったオールバックの少し痩せ気味の男性が、マリアさんのお父さんなんだ。
優しそうなところは、父娘そっくりなんだね。
「ベイズ公爵の隣の司祭服を着ているのが、シンシア殿下の父君でもあるブレイズ候爵だ。教会の枢機卿でもあるぞ」
殆ど白髪で一部緑色の髪が混ざっているのが、シンシアさんのお父さんなんだ。
教会の大幹部でも、優しそうな人だね。
そして、次の人が一番の衝撃だった。
「そして、私の隣にいるのがバース公爵で、あの王都ギルドマスターの父君だ」
ランディさんの隣に座っているのは、茶髪を短く刈り上げた小柄な男性だった。
ギルドマスターと身長や体格とかが全く違うので、ランディさんの説明を聞いてスラちゃんと一緒に「えっ?」てなっちゃいました。
というか、ギルドマスターは公爵家のご子息だったんだ。
他の人もこのことを分かっているのか、思わず苦笑しちゃいました。
挨拶はこれで終わったので、昼食を食べながら話をします。
「ナオにーに、美味しいね!」
「うん、とっても美味しいよ。アーサーちゃんとも、いっぱい食べようね」
「いーっぱい食べるよ!」
隣に座っているアーサーちゃんが僕に積極的に話しかけてくるけど、本当に美味しい料理です。
お肉も食べやすいように切り分けられていて、一口で食べられます。
そんな中、ランディさんが僕に話しかけてきました。
「ナオ君、慰問でスラちゃんと一緒に負傷した兵の治療をしたというけど、魔力は大丈夫なのかい?」
「全然大丈夫です。僕もスラちゃんも、同じくらいの怪我人の治療ができます」
「そ、そうか……」
あれ?
普通に話したら、何故かランディさんだけでなく他の人も考え込んじゃったよ。
僕、何か変な事を言ったかな?
その答えは、シンシアさんが教えてくれました。
「みんな、ナオ君の魔力量に驚いちゃったのよ。私もエミリーも回復魔法は使えるけど、骨折を含む怪我人となると午前中で魔力が尽きるわ」
「えっ、そうなのですか?」
「これでも、私もエミリーも普通の魔法使いよりもずっと魔力量は多いわ。きっと、ナオ君が特別に魔力量が多いのよ」
衝撃的な事実です。
僕としては、シンシアさんやエミリーさんの方がずっと魔力量が多いと思っていました。
僕もスラちゃんも、魔法使いとしてまだまだだと思っていました。
僕とスラちゃんが戸惑っていると、シンシアさんがくすくすとしながら話を続けました。
「ナオ君、あくまでも魔力量ってだけよ。流石に魔力制御は、私もエミリーもナオ君とスラちゃんよりも上よ。魔力を適切に扱えてこそ、優秀な魔法使いよ」
「僕もスラちゃんもまだ細かい魔力制御ができないので、もっともっと訓練します!」
「ふふ、その意気よ。ナオ君なら、間違いなく私よりも凄い魔法使いになれるわ」
シンシアさんに言われると、僕もスラちゃんもヤル気が出るよね。
その一方で、ランディさんがしみじみと話をしていました。
「ナオ君があの三人から離れて、本当に良かった。あのまま三人と居たら、ナオ君は間違いなく潰れていただろう。前にも話したが、優秀な魔法使いを失うのは国家の損失だ。特にナオ君クラスの魔法使いは、数十年に一人の逸材だ」
「うむ、それは余も思った。タイミングよくギルドにヘンリーがいたし、他の冒険者もナオを助けようとしていた。周りにそれだけ思われる冒険者は、稀有な存在だ」
ランディさんの言葉に、陛下は腕を組みながら話を続けました。
他の人たちも、うんうんと頷いていました。
既にあの三人が冒険者ギルドにとても迷惑をかけているのは実際に僕も見たし、僕がパーティから追放されるのが数日遅かったら様々なトラブルに巻き込まれていたのは間違いない。
本当にギリギリのタイミングで、僕はあの三人から離れる事が出来たんだ。
くいくい。
「ねーねー、お話まだー?」
ここで、ずっと放置されていたアーサーちゃんが不満そうな表情で僕の服を引っ張っていた。
取りあえず、難しいお話はこれで終わりですね。
お肉が冷めないうちに、昼食を再開しましょう。
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