第十話 オラクル公爵家の御用商会

 セードルフちゃんが応接室に乱入して一時間後、御用商会の人が屋敷にやってきました。

 その間は、冒険者ギルドであった事や僕の身の上の話をガイルさんとイザベルさんに説明していた。

 二人とも事前に話は聞いていたのだけど、改めて話を聞いて僕の事を慰めてくれました。

 そして、応接室には三人が入ってきて、先頭の男性が責任者みたいです。

 白髪交じりのグレーの髪をオールバックにして、ビシッとスーツを着こなしたカッコいい人です。


「あの、ナオと言います。宜しくお願いします」

「ナオ様、オラクル公爵家の御用商会をしておりますバイザー商会と申します。今後もご贔屓にお願いいたします」


 おおー、僕も立ち上がって挨拶したけど、とっても綺麗な礼をしていて凄くカッコいいよ。

 そして、ちょっとビックリする事を言われちゃいました。


「ナオ様が勇者様の御一行に参加されたと、街の方も噂しております。私どもも、そのような方に商品をお出しする事となり大変名誉だと思っております」

「えっ、僕の事が噂になっているんですか?」

「左様でございます。冒険者の方はもちろんの事、宿や食堂の組合からも噂が広がっております」


 冒険者ギルド内にも沢山の冒険者がいたし、宿組合の会長さんも張り切っていたっけ。

 うう、明日街の人に出会ったら、絶対に何か言われそうです。

 そして、同じ冒険者としてナンシーさんが商会の人と話をしています。


「冒険者向けの基本的なセットが販売されておりますので、まずはこちらを購入するとよいかと。寝袋や調理道具も含まれております。毛布や外套などは、個別の物をお勧めいたします」

「そうね、この辺りがあれば野営も問題ないわね。まだナオ君は体が大きくなるから、確かに外套も個別に購入した方が良いでしょう」

「その他に、食料と調味料をお持ちいたしました。予備の服や下着などもございます」


 いつの間にか女性陣が全員集まって、あーだこーだ熱い話を繰り広げていますね。

 僕はもちろん、ランディさんとガイルさんも近づけない熱量で思わず苦笑しています。


「ねーねー、おかしおいしいね!」

「うん、そうだね。美味しいね」


 僕は、黙ってセードルフちゃんの相手をするのに徹しよう。

 時々採寸する為に呼ばれる事があるけど、殆ど何もしていません。

 そうこうしているうちに、荷物を選ぶのが終わったみたいです。

 うん、凄い量だけどお金大丈夫かな……


「じゃあ、いつも通りの請求でお願いね」

「畏まりました。ナオ様、今後も是非とも宜しくお願いいたします」

「よ、宜しくお願いします……」


 御用商会の人の綺麗な礼に、僕もちょっと戸惑いながら返事をしました。

 そして、御用商会の人が帰った後、僕はランディさんに申し訳ないないと思いながらとある事をお願いしました。


「ランディさん、その、色々とありがとうございます。お金は、後でキチンと支払います」


 すると、僕の話を聞いたランディさんだけでなくオラクル家の他の人達も顔を見合わせて少し笑いました。

 えっ、えっ。

 僕は、何かおかしい事を言っちゃったかな?

 すると、ランディさんが僕に向き直って話し始めました。


「ナオ君は、本当に律儀な性格だ。これは貴族として一種の投資の意味合いもあるから、お金は気にしなくて良いんだよ」

「投資の意味合い、ですか?」

「貴族というのは、自分の利益になるかどうかを考える面倒くさい生き物だ。そして、ナオ君はヘンリー殿下も認めた冒険者だ。そんな未来のある冒険者に投資するのは、貴族として普通の事だよ」


 僕が投資される程の冒険者なのかは分からないけど、今分かっているのはオラクル家の皆さんに期待されているという事です。

 なら、ここは素直に好意に甘えた方が良さそうですね。

 僕は、ソファーから立ち上がりました。


「色々とありがとうございます。本当に助かりました」

「ふふ、良いんだよ。私達も色々と思惑があった事だからね。さて、夕食にしようか」

「わーい! ごはん!」


 話を打ち切るかの様にランディさんが夕食の話を切り出すと、セードルフちゃんがスラちゃんを抱いたまま元気よく声を上げていました。

 元気いっぱいなセードルフちゃんに、僕もある意味救われているかもしれません。

 そんな事を思いながら、僕はセードルフちゃんと手を繋ぎながら食堂に向かいました。

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