話題作りに出馬した市長選で当選した底辺ダンジョン配信者。論破王としてバズるw

松本生花店

第1章 間違えて市長になったら初めてバズった

第1話 売名のために出馬した選挙で何故か当選


「はあ!? なんだこ……ゲホゲホッ」


 ダンジョン配信者、高橋伸二は、驚愕の事態にビールを吹いてむせ返る。

彼は現在進行形で自宅で地元のケーブルTVを見ながら、自堕落なライブ配信を行っていた。

しかし、TV画面に映し出されたニュース速報を見た瞬間、配信中なのも忘れてを疑い激しく動揺した。


「なんで俺、市長に当選してんだよおおおお!」


 高橋は底辺ダンジョン配信者である。だが底辺といっても、彼が配信者になった若い頃は、まだダンジョン配信ブームの最中で、なんとか配信1本で食べていくことはできた。

 しかし、ダンジョン配信は今、完全に下火になっている。そのうえ、新しい配信者がどんどん出てきて、競争が激化。加え彼の今の年齢は35歳。この年齢ではよほどの大御所出ない限り、ダンジョン配信者として生き残ってはいけない。

 これらの影響で、元から少なかった再生数と同接数は激しく落ち込み、今はバイト2つと兼業しながら、なんとか食いつないる状況だ。

 これを挽回しようと、彼は自分が生まれ育ったダンジョンがある街、備後市の市長選に立候補したのが、つい先日のこと。

 目的は売名と話題作りだったので、選挙活動はしていない。

 それなのに、まさかの当選。

 訳が分からない状況に混乱しながら、配信を見ている視聴者達に話しかけた。


「俺は供託金が返ってくれば良かったんだよ」


”高橋市長爆誕www”

”おいおい、マジで市長になっちゃったのか?”

”おめでとう市長!”


”これでダンジョンも安心だな!”

”市長室から配信してくれよ!”


「いや勘弁してくれよ」


”本当に当選しちゃうとはな”


”これで一攫千金だ!”


「てめえら、いつも通り面白がりやがって」


 高橋はダンジョン配信者として、オワコン状態だ。

 それでも今なお高橋の配信を見ている者は、少なからずいる。

 だが彼らはファンというよりも、落ち目の高橋を見て楽しむ冷やかし目的の視聴者たちだ。

 高橋の困惑する姿を見て面白がっている彼らは、悪乗りコメントをさらに連投した。


「俺は当選を辞退するからな!」


 ”冗談だろ?そんなの許されるの?”

 ”おいおい、逃げるのかよ!”

 ”責任持てよ、市長!”

 ”ヘタレ市長爆誕!”


「うるせえ! 他人事だと思いやがって! ……でも、なんで俺なんかが当選したんだ?」


 今回の市長選の立候補者は自分の他には2人。

 学歴職歴は立派だが就任してから不祥事ばかり起こしている現職市長と、市議会のドンだった偉そうなジジイだ。

 どちらも市民からとても嫌われているのだが、だからといって選挙活動を一切していない自分がそいつらに勝てるとは思えなかった。

 疑問に感じながら再びビールに口をつけたとき、とある視聴者のコメントが目に入る。


”さっきまでゆず様の配信見てたけど、自分が持ってる票を全部お前にまわしたって言ってたぞ”


「ま、マジか……なに考えてんだ、あの人」


 自分が当選できた理由を理解した高橋は、恐怖のあまりビールを床に落とした。

 


「つー訳で、市内の皆、選挙に協力してくれてありがとう♡ なんとか高橋が市長になれてアタシもホッとしてる」


 和木ゆず希は、上機嫌にリスナー達に感謝の言葉を伝える。

 彼女は圧倒的な美貌と実力を誇る日本屈指の人気ダンジョン配信者だ。

 また、行動力と強引な手腕はすさまじく、22歳という若さで備後市ダンジョン探索業者組合の組合長も務めている。


”ゆず様は、てっきり市長を応援してると思ってました”

「同じ町内だから、最初は応援してたんだけど、あのハゲ、アホで負けそうだったから途中で止めたの」

”期日前投票直前に、市長じゃなくて高橋に票を入れて欲しいって連絡来たときは驚きました”

「ホントゴメン。あと、みんな私から連絡があったことを黙っててくれてありがとう。出口調査の結果じゃ小栗山の圧勝になってから今ごろアイツどんな顔してんだろ。ハハハハ、サイコー!」

”ゆず様、高橋とかいう配信者のことは、よく知りませんが、政治素人ですよね? そんなやつ市長にしてしまって大丈夫ですか?”

”分かった! そういう無能を表に立てて、影で操る戦略ですね! 流石ゆず様、天才です!”


「……高橋は、配信歴が長いからアドリブトークが上手いのよ。あと、人と人の間に入って色んな事を調整するのが上手ね。駆け出しのころアイツと私と他何人かでパーティー組んだことが何回かあるんだけど、意見がぶつかってギスギスした時に全体の意見を上手くまとめていい方向に持っていってた。だからハゲと違って、うまく立ち回ってくれるって思ったの。……これでいい? アンタら高橋のことなんも知らないくせに、偉そうなこと言ってマジでムカつくんだけど」

”ご、ごめんなさい”

”ゆず様どうしちゃったんです? ひょっとしてゆず様はその高橋と言うやつのことが……”

「バ、バカ! そんな訳ないじゃん! び、貧乏な底辺ダンジョン配信者のおっさんと、こ、こ、この私じゃ、ふ、普通に考えて釣り合わないじゃない……」


 バカなリスナー達に顔を真っ赤にして心臓をバクバクさせながら言い返していると、とあるコメントが目に入った。


”ゆず様、高橋も今、配信してるんですが、当選を辞退するって言ってました”

「は!? マジ!? 舐めてるわね。ちょっと今から高橋に電話するわ」


 激怒しながらスマホを取り出し、高橋の連絡先を探し始めた。



「クソ、てめえらチクりやがったな」


 スマホが鳴ったので、ディスプレイの表示を確認し、舌打ちする。

かけて来たのは、案の定ゆず希だった。


”いいから早く電話に出てくれ!”

”そうだ! ゆず様を待たせるな”

”早くゆず様の声を聞かせろ!”


 ゆず希の降臨を喜ぶコメントで配信画面は溢れ始めた。

 高橋は、おそるおそる電話に出た。


「お、お疲れ様です」

「辞退なんて絶対に許さないわよ」

「待ってください。俺が辞退したら、小橋市長が当選するんじゃないですか? そうしたらゆずさんも今まで通り……」

「なに言ってんの? 小栗山が次点で、ハゲの得票数はドンケツよ!」

「え? 小栗山って80歳の爺さんですよね? それなのに市長負けたんすか。市民に嫌われてたのは知ってましたけど……」

「だからアンタに市長やってもらわないと困るの。分かるわね?」


 ゆず希に恐怖する高橋を尻目に、視聴者たちはさらにヒートアップする。


”やばい、これは面白くなってきた!”

”市長やらなきゃ殺されるぞw”

”ってかゆず様はお前より10歳近く年下じゃねえか。”

”なのに敬語使ってるし、笑える!”

”もっと強気にいけよ、おっさん!”



「馬鹿野郎! てめえらは、この人の怖さが分からねえから、そんなこと言えんだ!」


 備後市のダンジョン配信者の中で圧倒的な人気と実力を誇るゆず希は、組合に独裁者として君臨していた。

 いや、変に面倒見がいいため、その影響力は組合だけにとどまらず、市全体に広がっている。

 もっとも、そのやり方は強引で恐怖を伴うであるため敵も多いのだが。

 いずれにしても、高橋ごときが逆らえる相手ではなかった。

 だが、市長などやりたくはない。なにか上手いこと言ってかわさなければ。そう強く決意して高橋は、必死に言葉をひねり出す。


「ゆずさん、俺みたいないい歳して定職についてない政治素人が市長になったら、備後市は無茶苦茶になります。そうなったらゆずさんも困りますよね? そんな迷惑をかけてしまうようなことは俺にはできません。小栗山が市長になれば、ゆずさんが言っていたように市のダンジョン探索業は、より一層酷い扱いを受けることになると思います。それでも次の選挙で落とせばいい訳ですし。いや、小栗山は、もう80歳過ぎてるんで、ほっとけば任期中に死んでくれるかも知れません。だから俺が市長やるよりは、まだそっちの方がいいんじゃないかと思うんですが」


”おお! 相変わらず言い訳の作り方は上手いな”

”ゆず様のためを思ってww本音は自分の都合だけなのに草ww”

”それでもゆず様は許さないだろうな”


(うん。俺もそう思う。それでも、この人は許さねえだろうな。なにせ理屈が通じねえんだ)


 画面に映し出されたコメント欄を見ながら、心の中で、そう吐き捨てる。

 高橋の言葉を聞いた、ゆず希は沈黙している。これからどんな事を言ってくるのだろうか?

 恐怖でしかない。


「……高橋、アンタ。ハゲを応援するっていう組合の方針を無視して、自分が立候補したわよね?」

「は、はい。ですが、事前にゆずさんの許可はとりました。ゆずさんもどうせ当選しないし、小栗山の票が減れば良いとか言って、ノリノリだったじゃないですか……そ、それに、ゆずさんも結局市長じゃなくて俺に票入れた訳だから、その方針ってもう無効ですよね?」

「なに言ってんの!? 組合の方針に逆らったんだから、アンタは除名よ!」


 組合のサポートが無ければ、備後市でのダンジョン配信は非常に困難なものになる。

 そうなれば、もう配信者を引退するしかない。

 それだけはなんとか回避しようと、必死にゆず希に懇願する。


「ま、待ってください。票は市長に入れたんです。本当です。だから除名は勘弁してください」

「そんなのは、もうどうでも良いのよ! とにかくアンタは組合を除名! その代わり市長になりなさい! ならなければ許さないわよ!」


(……クソ、除名されたらいよいよ路頭に迷うしかねえじゃねえか。35歳で正社員経験がない俺自身が憎い)


「なに黙ってんのよ! 最後の選択よ! アンタは市長になるの!? それともここで死ぬの!?」


(な、なんか、話しがどんどん酷くなってねえか)


 ゆず希の迫力に完全に圧倒されながらか、細い声で返事をする。


「な、なります。市長になります……」

「よろしい!」


 高橋の言葉を聞いたゆず希は、満足げな笑みを浮かべた。



(畜生、政治なんて分かんねえぞ。どうすりゃいいんだよ)


 心の中で愚痴をこぼしながら、LIVE配信画面に再び目をやる。


”市長乙wwww”

”市長室からライブ配信待ってるぞ”

”お前が市長になるなんて最高すぎる!”

”ゆず様可愛い”

”ゆず様に詰められるなんてマジで裏山ww”


 コメント欄は、面白がっている視聴者たちであふれていた。


「畜生てめえら! 他人事だと思って面白がりやがって!」


 高橋は涙を流しながら配信を続けた。それを見て視聴者たちは、ますます面白がり、冷やかしコメントを続けた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



ご拝読いただききありがとうございます。

この度は身勝手な事をしてしまい本当に申し訳ありません。

短編より一部キャラを追加し、一部のキャラの設定や名前なども変更しております!

好評でした短編バージョンよりもさらに面白く仕上がっている自信があります。

短編も日を置いて別の場所に投下いたします。

もし皆さんもこの小説を面白いと思って頂けたなら、執筆する励みにもなりますので、★とフォローとレビューコメントを書いて頂ければ嬉しいです!

お願いいたします。



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