第10話 【私の文章】『背徳感の共犯者』
道哉は、響子と秘密の背徳感を共有するようになってからというもの、お店の常連客やジムで顔馴染みの人々が、圧倒されながら驚く程に更に明るく、ポジティブでエネルギッシュな言動を溢れさせるようになった。
生まれ持った明るさと社交性も有るのであろうが、最近では鼻歌やリズムを刻む姿、スマホの画面を見ながら独り微笑んでいる光景まで見られるようになった。
それは、まるで燦々と輝く太陽の周囲に、赤々と燃え滾る炎が輪を描いているかのようであった。
常連客の中年男性が、
「紫野店長、最近前にも増して明るくならないか?
何か良いことでも有った?」
と不思議そうに尋ねると、
「あっ、分かります!!
ちょっと、幸運の宝くじって言うんですかねえ。
人生の宝くじに当たっちゃったんですよ!!
生きているって、こういうことを言うんだろうなあ…!!」
と意味深なことを言いながら、白い歯を見せながら笑顔を浮かべている。
「そうなんだ、それは良かった!!
ところで、その『宝くじ』っていうのは何なの?」
と、不思議そうに訊くと、
「アハハ~!!それは、ご想像にお任せしま~す!!」
と、おどけて言うので、
「アイドルみたいなことを言うねえ。面白いなあ!!」
と、ただ笑うしかなかった。
「今日も響子さんに逢える…!!早く…早く…早く逢いたい!!」
シルクを彷彿とさせる滑らかな透き通る肢体に少し触れるだけで、直ぐに声色の艶やかさが反応し続ける。
ゆっくり侵入させながら結合した時に、虫が蠢きながら這うような感覚と、砂がまとわりついてザラザラしたような不思議な感覚が伸縮部分を刺激する。
100人以上の女性と、シーツの中で偽りの愛を囁きながら一夜を過ごしても、今まで体感したことのなかった感覚に五感の全てが魅了されながら、響子の虜に成り、離れられなくなっていった。
道哉は、響子なしでは生きられないと思うようにまで成っていた。
これまでは、自分の欲望が満たされ、魂の脱け殻に成ると、嬉しそうに話しかけてくる女性の腕を冷淡な眼差しで振りほどきながら、背を向けて寝息を立てていた。
「もう、帰っちゃうの?
もう少し、ここに居て!!」
と、嘆願する女性の言葉に耳も傾けず、直ぐに服を着て後ろも振り向かずに、そそくさと部屋を去りながら、冷ややかにドアを閉めていた。
しかし、響子には欲望が果てて魂の脱け殻に成った後も肩を抱きながら優しく話しに耳を傾けたり、洋菓子のような甘美な会話と囁きを繰り返していた。
今までの女性達には自分の欲望のままに終始していたが、響子からの途中停止だけは快諾していた。
腕枕を後頭部に宛がいながら横向きで話している時に、御主人以外の男性を知らなかったと打ち明けられ、まるで新雪が降り注いだような穢れなさに、天使の梯子から麗しの貴婦人が舞い降りたような聖なる幻想を見た気がした。
こんなに眩(まばゆ)い美しさを放っているのに、驚く程に純真な女性がこの大都会にも居てくれたのかと言い様のない感動が湧き上がって、更に愛しさが募っていった。
御互いに瞳の奥深くを見つめながら微笑み合って話しているだけで、まるで他者が未踏の桃源郷に永遠に留まって居られるような心地がするのだった。
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