【8】アホと言われましたわ!

「……ふぅ」


 相変わらず暇ね、と思わずため息が出る。

 それもそのはず、ドノーグが街路に激突してから、既に一週間が過ぎていた。


「ねえ、お父様? もしかしてわたくし、殿方に人気が無いのかしら?」


 ふと感じた疑問を口にしてみる。

 するとラングロア公爵はこれまでと同じように頭を抱えながら口を開く。


「安心しろ、お前はどこにやっても恥ずかしくない立派な公爵令嬢だ。お前は断ってきたが、これまでにも数え切れないほどの縁談を持ってきただろう。それに、お茶会や夜会でもお前に言い寄る男は腐るほどいたはずだ」

「確かに……」


 言われてみればそうだった、とアリーヌは思い出す。

 しかし同時に疑問が増えもする。


「では何故、今わたくしはお父様と二人きりでのんびりとお茶をしているのでしょうか」


 殿方人気が無いわけではない。

 だとすれば、こんなにも暇なはずがない。もっと、毎日のように花婿候補が決闘場に足を運ぶはずだ。


 小首を傾げて父を見る。

 当然、ラングロア公爵は開いた口が塞がらないと言った様子でアリーヌを見ていた。


「お、お前が強すぎるのが問題なんだよっ!!」

「落ち着いてください、お父様。お茶が零れますわ。それに強いことは良いことだと思うのですが、違いますか?」

「お茶が零れるぐらいなんだ!」


 もう我慢ならんと言わんばかりの表情を作り込み、ラングロア公爵は席を立つ。


「腕っぷしが強いのは良いことだとも! だがな、それとこれとは話が別だ! アリーヌ、お前は本気で結婚相手を探す気があるのか!?」

「もちろんですわ」

「ならば! 少しは手加減したらどうなんだ!!」

「手加減……? ええ、していますけれど?」

「している? いやいや絶対してないだろう!」

「ほら、一度目の殿方……ええと、確か名前は……聖騎士さんでしたわね」

「アルバン! アルバン・インクラード! 聖騎士は職業で名前ではない! というか今一度目の殿方と言ったか!? アリーヌ、お前まさか私の目の届かないところで勝手に決闘していないよな!?」

「そうそう、アルバンさん。あの方と手合わせした時、わたくしはいつでも負けることができるように無防備な状態で待ち構えていました」

「話を逸らすんじゃない! 決闘場にはいつも私が居たから、外で決闘を行ったということだな!? 正直に答えるんだ!」

「ですが彼が手加減すると言うものですから、わたくしも同様に手加減して軽めのパンチを一つ当てるに留めましたわ」

「私の話を……って、あれが手加減だと!?」

「はい♡」

「その結果、見えなくなるほど遠くまでぶっ飛ばしたわけか?」

「その通りですわ♡」

「アホかーーーーーーー!」


 決闘場内にラングロア公爵の怒声が木霊する。

 その振動は凄まじく、テーブルの上に置かれたティーカップが震えて中身が零れてしまった。否、既に全部零れていたので被害は変わらないのが不幸中の幸いであった。

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