第22話 「隠し玉」

 「てめぇら、図に乗るんじゃねぇ!」

 ウンケイと対峙たいじするコルゾが、顔を真っ赤にし、刀とさやの両方をウンケイに向ける。

 「・・・」

 ウンケイも薙刀なぎなたを構える。すると、コルゾがニヤッと微笑する。ウンケイはそれを見て眉をひそめる。バキュゥゥン!!! コルゾの鞘から弾丸が撃たれる。

 「!!?」

 弾丸がウンケイの左肩をつらぬく。

 「ハハハハ! 油断したのかぁ?」

 コルゾがニヤニヤと笑う。鞘の先から煙が上がっている。ウンケイの方は肩をおさえるが、血がにじんでいる。

 「・・・銃か。あぁ俺も油断していたようだ」

 しかし、ウンケイは肩をたれたにもかかわらず、よろけるでもなく、それどころか口元はニヤリと笑っている。

 「・・・何?」

 「だが良かったのか? こんな序盤じょばんかくだまを見せて。ここぞという時に撃てば、仕留しとめられたかもしれねぇのに」

 余裕よゆう態度たいどを見せるウンケイに、コルゾが眉をひそめる。

 「もう食らわねぇって風に聞こえるが?」

 「そりゃてめぇ次第しだいだ。そう聞こえたってんなら、そうかもな」

 「どいつもこいつも生意気だぜ!」

 ヒュッ! ガキィィン!! ウンケイとコルゾがぶつかる。体格差をものともせず素早く立ち回るコルゾに対し、ウンケイはどっしりと構え次々に攻撃を防いでいく。

 「ハハハ! さっきの威勢いせいはどうしたぁ!?」

 コルゾが刀と鞘の両方で、どんどんと攻撃を仕掛しかけていき、ウンケイはそれを防ぐだけの防戦一方になっている。

 「・・・流石さすがに剣の作法さほうくらいはあるようだな」

 バキュン!! コルゾが鞘を向け、引き金を弾く。しかしウンケイはそれをかわし、逆に薙刀を振り返す。だがコルゾもそれを上手く躱す。

 「ハハハハ! お前もか! その図体で何て反射神経してやがる! 殺すのがしいなぁ!」

 「殺し惜しみなんてしたら勝負ありだぜ」

 ガン! ガキィン! ガキン! 二人が幾度いくども火花を散らし合う。しかし今度は、次々に振られる薙刀の力強さにコルゾが圧倒されていく。

 「くっ! くそ!」

 ガン! ガン! ガキン! コルゾは、刀と鞘の両方で何とか防ごうとするも弾き返され、どんどんと後退あとずさっていく。勿論もちろん攻撃をし返すすきも余裕も無い。

 「くそっ! ここは一旦・・・」

 シュバッ! コルゾが後ろに跳び、距離を取ろうとする。ヒュッ! しかしウンケイは逃さず、逆にコルゾとの距離を詰める。

 「まずいっ!!」 

 「“火車かしゃ”」

 ズバァァァ!!! ウンケイが薙刀を縦に回転するように力強く振る。コルゾは咄嗟とっさに鞘で防ごうとしたが、鞘が真っ二つになる。

 「何!?」

 すると、すかさずウンケイが薙刀を片手に持ち直し、後ろに引く。

 「“一点張いってんばり”」

 ギィィィン!!! ウンケイが目にも止まらぬ速さできをり出す。コルゾは残った刀で受けるも、後方へ吹っ飛ばされる。ドカァン! コルゾはそのまま地面に叩き付けられる。

 「・・・くそ!」

 コルゾがすぐに立ち上がり、ウンケイに刀を構える。対照にウンケイは薙刀を片手に悠々ゆうゆうと歩み寄る。

 「飛び道具は無くなったな。それとも他にも隠し玉があるのか?」

 「ハハ。どうかなぁ。俺は元々この刀一本で百人を斬り伏せ、軍隊長に成り上がった。あの銃を持ったのはその後だ。俺はこの方がやりやすい」

 コルゾはニヤリと笑い、刀をウンケイに向ける。

 「そうか。そいつは良かった。礼はいらねぇぞ?」

 ウンケイもニヤリと笑い、薙刀を構える。

 「いいや、たっぷりさせてもらうぜぇ!」

 ヒュッ! コルゾが消える。ウンケイは腰を落とし、身構える。

 「ハハハハ! てめぇは中々の反応速度だが、この技は見切れるかぁ?」

 コルゾの声は聞こえるが、姿が見えない。

 「“鎌鼬牙かまいたち”!!」

 ズバババァァ!!! 刹那せつな、ウンケイの全身から血が噴き出す。

 「ハハハハハァ! あーあー、痛そうだなぁ。礼はたっぷりさせてもらったぜ」

 コルゾが刀を振り、刀に付いた血を飛ばす。ウンケイはひざを着いている。

 「・・・確かにはえぇな。こんなに斬られたのは久々だ」

 そう言うとウンケイは、血まみれながらムクリと立ち上がる。

 「おいおいおいおい。まだ立つのかよ。てめぇらそろいもそろって面倒めんどうだぜ」

 するとコルゾが刀を顔の前で構え、宙高く飛び上がる。

 「なら、これならどうだぁ!?」

 高く飛び上がったコルゾが、空中で向きを変え、頭を下にして落下して来る。

 「“つるべ落鈍牙おとし”!!」

 空中でどんどん加速しながら、ウンケイに向かい突っ込んでくる。

 「これは・・・」

 ウンケイは地上で薙刀を構え待ち構える。ガギィィィン!!! 二人の刃が激しくぶつかり合う。

 「この技は見覚えがあるな。てめぇも使うのか」

 「そうか。バンキをやったのはてめぇか」

 するとコルゾが後方へ飛び、距離を取って着地する。

 「ハハハ。学習済みか。良いことを教えてやろう。お前が苦労して倒したバンキら二本牙にほんきばを鍛えたのはこの俺だ。あいつらが使う技は、元々俺の技って事だ」

 コルゾが刀をウンケイに向ける。

 「なるほどな。じゃあ、あのでけぇのよりは強いんだよな? いや、てめぇの弟子でしは、全く手応てごたえが無かったんでな。お前はせめて楽しませてくれよな」

 「ハハハハ! らずぐち大概たいがいにしろ。てめぇこそ簡単に倒れてくれるな? 俺を楽しませろよなぁ!」

 ガキィィン!! 二人が再度ぶつかる。



 一方、ビルサとにらみ合うしゃらく。しゃらくは、牙王がおうの能力で赤い模様を出現させており、ビルサは両腕をまくっている。

 「貴様の神通力じんつうりきは、けものごとき身体能力に五感、鋭い牙や爪を得る能力ってとこか?」

 「あァそうだ」

 「ふん。実に単純な能力だな。言わばただの肉体強化。グフフ。神通力という神の名を持つ力には不相応ふそうおうだ」

 ビルサがニヤニヤと笑いながら、両腕を高速回転させる。

 「そりゃア負け惜しみか? そう聞こえるぜ!」

 しゃらくがニヤリと笑うと、目にも止まらぬ速さでビルサに飛びかる。

 「グフフ。格の違いを見せてやる」

 ガキィィン!! ガキン! ガキン! ガキン!! 二人は火花を散らしながら、幾度いくども激しくぶつかり合う。すると、ビルサが腕を後ろに素早く引く。

 「“連烈れんれつ螺旋突急らせんとっきゅう”!!」

 ビルサが回転するこぶしを、目にも止まらぬ速さで連打する。しかし、しゃらくも繰り出される連打に拳をぶつけ、連打をし返す。ガガガガガァァッ!!!! 二人の拳が激しくぶつかり合う。しかし、拳を硬化こうかし回転させているビルサとは違い、しゃらくは生身の拳。ぶつかる度、拳が血だらけになる。

 「グフハハハァ!! どうしたぁ!? 遅くなっているぞ!」

 「おらァァァ!!!」

 ガガガガァァ!!! しゃらくは、それでも構わず猛打もうだを続ける。すると徐々に、しゃらくの猛烈もうれつな勢いにビルサが押されていく。

 「くっ・・・こいつ・・・」

 ビルサが徐々じょじょ後退あとずさっていく。するとその瞬間、しゃらくの視界のはしに何かが見える。ズバァァァッ!!! しゃらくの無防備だった脇腹に、ビルサの高速回転したあしでのりが入る。

 「ガフッ・・・!!」

 バゴォォォン!!! しゃらくはそのまま吹っ飛び、城壁に激突する。しゃらくの口から血が吹き出す。

 「グフハハハハ! 勘違かんちがいしちまったようだがな、これが俺と貴様の格の違いだ」


 完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る