第67話 竜を追う

     竜を追う


 王都を救ったお嬢様は、一躍ヒーローとなった。元々、大魔導士としての知名度はあれど、直接その活躍を知って、または体験したことでその名声が爆上がりした、といってよい。

 ただそれは、ボクにとって心配事でもあって……。魔族に対抗できる唯一の力、という目でみられることで、頼られることも増えるだろうし、魔族側にとっては目の上のたんこぶ……になりかねない。 つまり魔族から、お嬢様が狙われるかもしれないのだ。

 魔族とは、どうやらボクと同じ異世界人であり、ボクと同じチートの力をもつようだ。

 魔法ではない力をもつ魔族は、いくら大魔導士でも戦うのは困難で、危険を伴う。それがボクの心配でもある。

 ただそれをボクは口にできない。もし、ボクが転移者だと知れたら……。

 それこそお嬢様と一緒にはいられないだろうし、同じ魔族として処分される可能性だってあるのだ。

 でも、お嬢様のために魔族のことを調べる必要性も感じていた。逆にいえば、ボクしかそれができないので、ボクが動くしかなさそうだ……。


「私に、領地を与えよう……と王が仰っていて……」

 アンとルイに乗って王都からお屋敷にもどる道すがら、お嬢様がボクに愚痴のようにそう語る。

「よいお話では?」

「それが、今回の反乱を起こしたユルゲン伯の領地を私に与える、と……」

「……え? まだユルゲン伯は領地にのこっていますよね?」

「要するに、私にユルゲン伯を追いだしてそこに入れ、ということなのですよ」

 なるほど、フィリップ国王にとって、反乱の機をみせたユルゲン伯を何とかしたいけれど、全面戦争は避けたい。なぜならユルゲン伯はまだ力をもつ貴族であり、内戦などを起こしたらどちらが勝っても、国が疲弊するからだ。

 もしかしたら、王の補佐役のジョシュ・エランドの入れ知恵かもしれない。お嬢様と戦わせよ……と。

「お嬢様は……領地が欲しいですか?」

「ん~……。みなさんに楽をさせられますから、領地が広いに越したことはありませんが、戦ってまで奪いたい、とは思いませんね」

 お嬢様らしい回答に、ボクもうれしくなった。ただ、せっかく王の花嫁候補という立場を脱し、狙われなくなったというのにまたユルゲン伯から恨みを買い、争うことになりそうで、それも心配の種となった。


 屋敷にもどる前、町のギルドによると「仕事の依頼をうけてくれないか?」とギルド長から申し出があった。

「実は、転移装置につかう魔石をとりにいって欲しいんだ」

 それは特別なもので、とあるダンジョンにしかない、という。今は他の冒険者もハブとなる転移装置が壊れたため、ダンジョンに行くことすら難しくなり、中々頼める人がいないそうだ。

 そんな中、お嬢様がアンとルイに乗って王都まで行ったことで、お嬢様ならそのダンジョンに行ける、と考えたのだ。

 それに、特殊なダンジョンなだけにやはり難しい面があり、大魔導士であるお嬢様が適任らしい。

 お嬢様も転移装置が復活しないと色々と問題もあるので、渋々ながらうけることにした。

「アンとルイには長旅をさせていますからね。少し休ませてあげたいのですが……」

 お嬢様が渋ったのは、そういうことだ。まだ子竜なので、人よりはよほど体力があるといっても、そう無理をさせられない。

 ただ場所を聞くと、それほど遠くない感じだったので、ボクと二人で向かうことになった。


「ふわ~……。高いですね」

 お嬢様もあんぐりと口を開けたまま、空を仰ぎ見る。

 それは塔だった。遠くからここが見えないのは、山の上で常に曇っているから。むしろここにある塔が雲をつくる要因では? とすら感じられた。とにかく頂点は雲に隠れてみえない。

 円周は恐らく半径が十メートル程度なので、細長い塔だ。岩を積んでいるわけでもなく、土くれが積み上がったようなのに、これだけの高さをほこっていることが不思議でもある。

 中に入ると、さらに驚く。そこは空洞で、ごつごつした土の壁を登って上に行けるようになっているのだ。

「この上にいる、竜のうろこがその魔石の材料となるみたいですね。戦う必要はありませんが……、無事にとって帰りましょう」

 そう、このミッションは竜の鱗をもって帰れば成功で、戦う必要はない。そこら辺に落ちていれば簡単だけれど、竜の鱗はそうそう落ちるものではない。だからむしり取ることが必要であり、そこに危険を孕んでいる。

 アンとルイを塔の下につなぎ、十分な食事を与えてから、お嬢様とボクは塔を上り始める。

 冒険者もほとんど来ることがないために登れる……といっても歩道があるわけではない。ロッククライミングよりは楽だけれど、トレッキングよりは大変で、しかも相手はカチカチの土だ。

「お嬢様、私めをお踏みください」

 変なプレイを求めているわけではなく、ボクを足場にしたり、先にボクが上がって引っ張り上げたり、山登りなんてしたことのないお嬢様をサポートしつつ、どんどん上がっていく。

 そしてそこには竜がいた。というか、巣があった。アンとルイとはちがう、巨大な翼をもつ、見上げるばかりの巨大な竜だった。



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