第42話 暗殺者の後始末

     暗殺者の後始末


 ボクはヘラお嬢様への褒章授与式で、国王を襲撃した犯人を追跡している。

 魔法をつかうと魔法探知にひっかかるので、暗殺するときは弓や、投擲といった長距離兵器をつかうか、接近してのナイフという形が多い。

 弓兵というと、エルフ族というイメージが強いけれど、暗殺者らがエルフ族でないことは明らかだ。顔にマスクをするが、エルフ族に特徴的な耳が伸びる、といった容姿ではない。

 王城のレンガに近い、赤身を帯びた白っぽい色をした衣装は、逆に街の中へくると目立ってしまう。そこで彼らは警備兵の追撃がないところまででくると、それを脱ぎ去った。

 やはり……、それは人族。

 しかも、冒険者ですらなかった。恐らくは傭兵――。しかも、誰かに仕えているわけではなく、雇われだ。戦場において、報酬をうけとり戦う。そうした凄みのようなものがあり、戦争が少ない今は暗殺を生業とするのだろう。彼らは何ごともなかったように街へと入り、何食わぬ顔で歩いていく。

 ただ、ボクの追跡からは逃れられない。何しろボクには魔力がない。彼らが魔力探知をかけようと、ボクのことは無害、危険のない相手としてまったく探知ができないのだ。

 それに、ボクはふつう。見た目は冒険者どころか、一般人のそれだ。彼らがボクをみかけてもモブとしか映らないだろう。そんなボクは〝最強〟の追跡者。

 決して彼らの後ろ姿を逃さない。


 彼らが訪れたのは町外れにある小さな小屋。そこはアジトではなく、隠れ家なのだろう。

 そこには使いの男が待っており、話をする。聞き耳を立てると、どうやら貴族の中で国王を排斥しようとする一派があり、彼らはそこに雇われた。

 ユルゲン伯――。次期国王候補の一角で、ドワーフ族にちょっかいをかけていた貴族だ。

 フィリップ七世は病弱であり、心とて弱っているはず。そこで暗殺を決行、たとえ失敗しても、精神的にかなり追い詰められる。そういう算段だったようだ

 そう、今回はブラフでも十分。だから寡兵により遠距離射撃、という確率の低い形で狙った……。

 そこまではいい。権力闘争などに興味はない。国王が死のうと、言葉は悪いけれどボクにとってはどうでもいいことだ。ただ、ボクにとって赦せないのは、そこにお嬢様を巻きこんだことだ。

 お嬢様の褒章を台無しにし、泥を塗ったことなのだ。

 そのための制裁は、きっちりと受けてもらう!


 使いの男を追跡し、今回の事態を画策した者をつきとめた。

 ミトバー卿である。ユルゲン伯に従属する貴族の一人であり、ユルゲン伯に忠誠をみせるため、国王の暗殺を画策したらしい。

 没落貴族の末裔――。それでも一応、地位をたもってユルゲン伯に追随する以上、更なる出世には、ユルゲン伯の王位継承が必要、そんなところだろう。

「だ、誰だ! 貴様⁉」

 覆面をしたボクに恐怖する。

「フィリップ国王の暗殺を阻止した男だよ。国王には何の思い入れも、忠誠心もないけれど、国を乱すオマエらに天誅を下すのに、何のためらいもない男と言い換えてもいいだろう」

「て、天誅だと⁉」「

「オレの手を……煩わせるな‼」

 グーで顔面に、思い切りパンチをくらわせた。ミトバー卿はふっとび、そのまま伸びてしまう。

 あの暗殺者たちはすでにつるしておいた。

 文字通り、気絶させて木に吊るした。国王の暗殺事件を捜査する兵士に分かるように、ボクの拙い字で〝犯人です〟と書いておいた。彼らが証言すれば、ミトバー卿のしたことは明らかとなるだろう。そうならなかったとしても、彼らの心胆を寒からしめれば十分だった。


「今回は大変でした……」

 お嬢様はお茶をしつつ、そう愚痴をいう。結局、授与式はなくなり、それどころではない、として当面はお嬢様への褒章も先送りとなってしまった。

 ただ、すぐにお嬢様が暗殺者を撃ち落とすなど、さらにその力を見せつけ功績を重ねた形となったことで、評判が上がったことだけは間違いない。ただ、お嬢様にとってはそれも「大変」で、疎ましいことのようだ。

 そしてもう一つ、厄介なことも起きていた。

「お嬢様のところに、またフィリップ国王からラブレターが届いております」

 クロード執事長が、そういって手紙をさしだす。

 どうやら国王が、お嬢様の雄姿をみて恋をしてしまったようなのだ。

 国王のお願いなので、聞かなければいけない……という厳密なものではなく、家柄が低いのでお嬢様は結婚対象になりにくい。つまり愛人、もしくは第二、第三夫人ということになる。

 結婚もしていないのに、第二夫人というのは不可思議だが、要するに正妻になるのは難しい、ということ。それがわかってのプロポーズなのだ。

 それでも国王の手紙なので、返事をしないといけない。勿論、断るつもりだが、お嬢様にとってはそれも「大変」で、煩わしいことだった。

 そして、国の中枢に近づけば近づくほど、さらに危険に巻きこまれる。ボッチで人見知りなお嬢様にとって、それもまた憂鬱なことであり、ボクも改めて気を引き締めるのだった。






 





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