ニンカツその六「凸凹六人組と罠解除」

呪印スペルタトゥー火壱風弐! 雷撃サンダーボルト!!」

「ワギャギャギャギャーッ!!」

 右腕と左腕に刻まれた刺青タトゥーを輝かせ、犬小鬼コボルト数体を雷撃で感電させたのは、瓶底メガネの魔法使い。

 もじゃもじゃの緑髪、白衣、肌も露わな蛮族のビキニスタイルのくせに、職業は魔法使いだ。

 野性的でスレンダーな体型で、体のあちこちに描き込まれた模様がいちいちエロく、指で撫で回したくなる。

「魔法詠唱が早い。流石だサシャ嬢!」

「私へのあてつけか、ザン・ク?」

「くっちゃべってんじゃねえ!」

 二人に怒鳴りつつ前進し、デカい両刃斧を片手で振るう女戦士ベルガ。

 背は低いががっしりした体格、鎧兜を着込み盾を構え、茶髪と髭を三つ編みにしてるのがチャーミングなドワーフ族。

 鎧の胸部分は砲弾型おっぱいの形が強調され、樽のような体型にメリハリをつけている。

 脱いだらムワッと湯気を立て、濃い体臭が臭いそうな豪快さ。

 犬小鬼の粗末な革鎧など、紙切れ同然に切り裂き蹴散らしていく。

「キャインキャインキャイン!」

 とても勝ち目がないと悟り、我先に逃げ出していく犬小鬼。

 武器を使う知恵があり、集団で襲ってくる妖精族だ。

 浅階ではまあまあ危険な部類だが、筋力体格に劣り、すぐ逃げ出す。

「出る幕がないぞ。暴れたかったのに」

「盗賊の出番は今から。宝箱を探せよ」

 迷宮の玄室には、宝箱が隠されていることが多い。

 浅階では倒れた冒険者の持ち物が大半だが、稀に財宝や魔物の武具、魔法道具なども入ってる。

「宝箱は冒険者を誘うエサだからな!」

「コボルト数体では、地属性の魔石とは言え極小が幾つか。しょぼいですね」

 小さな結晶を拾うラピスとサシャ。

 魔法使いは自身の魔力だけでなく、魔石を用いても魔法が使える。

「死体がすぐ消えてくれんのは、ありがたいなあ。魔王が蘇生しとるんやろ?」

「最深部に魔法陣を構築して、自動で蘇生しているって、マーリールゥ先生が授業で言ってたなー」

 原初の迷宮が出現してから千年。

 冒険者の目撃談を収集した学園の研究成果は、今や探索に生かされている。

 自動蘇生魔法陣の発見も、その一つ。

 魔界から溢れる膨大な魔素マナを用い、迷宮内で殺された怪物はやがて蘇生拠点に転送され、生き返る。

「そうして怪物は経験値や魔素を得て、強くなる。進化や突然変異を果たす個体も現れ、メリットがあるわけだ」

「王たるもの信賞必罰! 配下に適切な褒美を与えねば、忠誠を失うからな!」

 眼鏡をついと押し上げるラピス、ドヤ顔が眩しく輝くザン・ク。

「しっかし便利だよな。サシャの魔法」

「淫紋魔法だっけ?」

呪印魔法タトゥーマジックや! エロ魔法ちゃうで!」

「キザったらしい呪文を唱えずとも、入れ墨した呪印回路を起動するだけで魔法が使える。優れものだな」

 皮肉屋のラピスが、素直に賞賛するのは珍しい。

 普段から呪文詠唱に手こずってる、実感が籠もっていた。

「くふふ。誉めや崇めや。痛い思いしてママに墨を入れてもーた甲斐があるっちゅーねん」

 紬以上に制服を大胆に魔改造し、呪印の露出度マシマシの蛮族メガネっ娘。

 スカートが腰布に変えてあるので、すらりとしたお尻とパンツがむき出し。蛮族文化の尊重だ。

「呪印魔法は実戦的やで。ラピスも入れたらどないや?」

「まだ遠慮しておく。呪文詠唱を諦めたくない。魔力回路の形成は完璧なのだ」

 こちらもメガネの赤青妖眼の美形は、恨めしげに杖を見た。

「殴ってる方が強いもんな」

「魔法の発動確率六割。前よりマシ」

「うむ。着実な進歩だ。誇りたまえ!」

「テメェら! 脱線ばっかりだな! とっととお宝せしめて次行くぞオラァ!」

 毛深い脇の下が蒸れるのか、斧をうちわ代わりに扇いでいたベルガの怒声が響く。

 何かと短気な斧使いにどやされて、トーヤは宝箱を探した。

 無造作に置かれている場合もあれば、隠されてる事もあり、無い時もあるが。

「いかにも犬小鬼らしい、みすぼらしい木箱がそこの隅にある!」

「よっしゃあ! 開けてやるぜ!」

「ベルガ、後ろに隠れてもいいか?」

「具体的には盾の後ろ」

「おう、いいぜ。息も止めてろ」

「信用ねぇなあ!?」

 トーヤは嘆くが、皆の反応は当然で、やたら罠を発動させる腕のなさ。

「毒ガス、人斬りバサミ、爆弾」

「解除率三割八分五厘やで」

「巻き込まれる者の事を考えたまえ!」

「よく生きてるもんだぜ、全くよ」

「あ」

「「「「あ!?」」」」

 ゴゥンと重い音を立てて、床が揺れ始める。

 グンと体が沈み込み、その後に感じる微かな浮遊感。

「重力魔法なん!?」

「いや、これはエレベーターだ」

「昇降機か。ふむ……以前、乗った事がある。確かに似ているな!」

「私たちが乗ったのは、鳥の巣箱ぐらい小さく粗末なものだったがね」

「結局、また罠にかかったのかよ」

「罠じゃねえ! エレベーターだろ!」

 反論する盗賊に、魔法使い二人と戦士、錬金術師は一斉に首を横に振った。

「待ち伏せされてなければな!」

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